第17話  一番目は手遅れだった

 片桐先輩の話を終わらせた私たちは次にどんな話題で話をするか頭を悩ませていた。


 片桐先輩のことを忘れるほどインパクトがあり楽しくなれる話題となるとそう簡単には見つからない。


「明るい話題を見つけようと思うと意外と見つからないもんだな」

「そうだね。くるみは何か話したいことある?」

「うーん……。ごめん、何も思い付かないや」


 華蓮から話したいことはないかと訊かれた私はこの場の雰囲気を吹き飛ばしてくれるような話題を提供したいと必死に考えたのだが、良い案は思い浮かばなかった。


 思い付いた案といえば、自宅で飼っている犬が可愛いとか、昨日のお笑い番組が面白かったとか、片桐先輩のことを忘れるにはどれもインパクトに欠ける話題。


 何か良い案はないかと引き続き検討していると、思い付いたように旭日君が「あっ」と声を上げた。


「何か良い話題思い付いた?」

「思い付いたは思い付いたんだけど、ちょっとこの話題はまだ……」

「何よそれ。勿体ぶってないで言いってよ」

「いや、でも流石に……」

「おっ、この蓮見様が言えって言ってんのに言えないのかこのこの〜」

「お、おいやめろって」


 華蓮は旭日君の頭に両手をグーにしてグリグリ押し当てている。

 もちろん本気の強さではないが、その二人の仲睦まじい姿が私の胸に刺さった。


 この二人、ただ恋愛相談してるってだけの間柄だよね?

 それなのに、なんでこんなに仲が良さそうなんだろ……。


 というか私、片桐先輩に嫌気がさしてた時も旭日くんと付き合いたかったとか考えてたよね?


 これじゃあ私、旭日君のことが好きみたいじゃない。

 旭日君は恋愛相談に乗ってくれていたってだけで、特別な感情は抱いていないはず。


「わ、私も聞きたい‼︎ なんの話題を思い付いたの?」

「ほらほら、くるみも聞きたいって言ってるんだから言っちゃいなよ」

「三鼓がそう言うなら……。三鼓は次付き合うならどんな人がいい?」

「え゛っ……」


 旭日君から予想外の質問をされて私は固まってしまう。


 最悪の別れ方をしたばかりで、まだその質問には答えづらい。


「旭日君、失恋したばっかりのくるみにこの話題はまだ早いと思うんだけど」

「いやだから言っただろ⁉︎ まだ早いんじゃないかって⁉︎」


 ま、まずい。


 私が微妙な反応をしてしまったせいで旭日君に気を遣わせてしまっている。


「あ、ご、ごめん‼︎ 変に気を遣わせちゃって……。次付き合うなら、やっぱり優しい人がいいかなぁ。ありきたりかもしれないけど、片桐先輩が最低な人だったから」

「ありきたりじゃないよ‼︎ 私もくるみには優しい男の人と付き合ってほしいもん。ほら、旭日君みたいな?」 

「--へ?」


 華蓮の言葉に、私の顔は沸騰したお湯に入れられた蟹のように一気に赤くなる。


「「……え?」」


 旭日君に対して特別な感情は抱いていないと思っていた私だったが、顔を赤らめてしまったこの反応こそが、私の現在の気持ちを物語っているようだ。

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