第6話 その後
赤髪、赤い瞳の少年は誰もいない無人島でひっそりと暮らしていた。
お節介な宝石商にからまれ、別れてから少年は再び放浪の旅へと身を投じていた。なにかを探すのか、どこか落ち着く場所を求めているのか・・・少年にも自分の旅の目的は分からない。
ただひたすら、生きるために小遣い稼ぎ程度の仕事をすることもあれば、時には食べ物を盗むこともあった。その日その日を生きるのに精一杯で、誰かを思いやることなどできず、ユラのことすらも忘れかける。
戸籍の類いがないため何とか様々な国境を越えては、ただ流れるように行き場を探す。容姿が目立つため、人拐いや身売りにあうことも少なくなかった。そういうもの全てから何とか逃れながら、少年はある日誰も使っていないボロボロのボートを発見した。海に浮かんではいるが、誰も使っている気配がないため橋桁にあったそのボートで寝ることにした。
そして、少年が眠っているうちに海の潮の流れが変わり、ボートが沖にながされた。少年が目を覚ましたときにはすでに大海のなかであり、最初は少し焦ったが、なるようになるだろうと潮の流れに身を任せているうちに無人島にたどり着いたのだった。
島を散策しても人の気配がなく、少年は誰もいない島で心穏やかに過ごす。魚などをとって食べ、久しぶりに人目も人の気配も気にしなくてよい解放感に溢れていた。獣などもいるが、そんなものよりも人に散々裏切られ売り飛ばされそうになってきた少年にとって人がいる社会のほうが気が張って滅入ることが多かった。
少年が島に来て一月ほどがたち、いつものように過ごしていた少年は人の気配を感じとる。そして、木陰から数名の大人がいることを確認する。なにか話し込み、様々な機械でなにかをしている様子だが詳しいことまでは分からない。安息の地を見つけたと思った少年は愕然としながらも、彼らが何をしているのか観察する日々だった。
(なんだ、あれ。どこかの組織かなにかか)
彼らが身に付けている不可解なマークに目がいく。天秤のようなマークは、他にも彼らが持ってきて使っている機械や機材にも描かれているものがある。
大人たちが無人島で作業して数日後、少年は悪夢に見舞われる。
時折、故郷の村での魔力を見つけられた時のことを夢にみる。魔力探知に引っ掛かり、悪魔だと囃し立てられ攻め立てられながら独房にいれられたあの日。一緒に過ごしてきた孤児院の子供や職員たちの自分を蔑むような、哀れむような目が忘れられない。
親友が大人たちに取り押さえられながら自分に手を伸ばしてきてくれた姿が脳裏を離れない。処刑までの数日を冷たい独房で暮らし、食事もロクに与えられず毎日悪魔への粛清として暴行を受けた痛みは、たまにくすぶる。
そして、処刑の日。
目の前で傷だらけのボロボロになり冷たくなった親友の姿に、少年は涙も声も出すことはなかった。激しいまでの憎悪に身を包んだ少年は、火炙りの刑で焼かれることはなく、むしろ少年の炎が村を襲った。
はっと少年は目を覚ます。全身汗まみれになり、息も粗い。
(熱い)
そして何より、自分のからだの内側が熱かった。たまにこうして悪夢をみることがあり、その度に体の内側が焼けつくように熱くなる。
(魔力か)
その力を自分の意思で使ったことはないし、使えたこともない。けれど、こうして悪夢をみると魔力が溢れて暴れ、滾る。自分ではコントロールできないその熱さは、少年がどうこうしても落ち着くものでもなく、こういうときは静かに過ごすに限るのだった。
自分なかの魔力を落ち着かせ、少年は数日後に大人たちがいた場所へと足を運ぶ。しかしそこには彼らの姿はなく、調査かなにかが終わって去っていったようだった。人がいなくなったことはよかったが、開発かなにかがされるならば少年は安息の地を去らなければならない。しかし場所も分からなければ、乗って来たボートもボロボロですでにバラバラになってしまい、島を出る手段がない。
どうしようかと思案していた少年は、再び人の気配を感じる。今度は一人だけのようで、少年は少しホッとする。様子を見に行くと、若い一人の女だった。色々と夜営地の整備や島の散策など、わりと手際よくやる姿をみながら少年は気づく。
(またあのマークだ)
以前来た彼らと同じものが女も身に付けている。
やはり、この島はどこかの誰かに買い取られたか所有物だったのか、そのため開発かなにかが行われるのか。少年はため息をつきながら、本気でどうすべきかを考える。
そうして若い女を観察しつづけて数日がたち、その日はやってくる。
いつものように女を観察していた少年だが、若い女が少年の姿に気づく。はっと少年の方を向き、驚いたように青い瞳を向けてくる。
向かい合う二人の間には緊張感が漂い、どちらから言葉をはっするというわけでもなく、ただ見つめ遭い探り遭い時間が過ぎる。不思議と時の流れがゆっくりに感じられる。
ぐーー
こんなときなのに、少年の腹の虫がなる。魔力を落ち着かせるため数日まともに動けず、しっかりと食事をとったのは数日前になる。
思わぬ事態に少年は女から顔を背け立ち去ろうとする。
「私はルーシャ。あなたは?」
まっすぐと向けられた言葉に少年は再度ルーシャと名乗った女を見つめる。他の誰にでもなく、その青く暖かい視線は自分に向けられ、少年は少し迷ってから口を開く。
「セト」
始めて言葉にした、その名前は不思議としっくりきて、少年は目の前の世界が少し明るくなったのだった。
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