第12話 想い人と失恋

 シェリーとジェラルドは黙ってしばらくの間見つめ合っていた。

 その沈黙の間にもジェラルドの額に汗が流れ、そしてシェリーの心の中は反対にどんどん冷たくなっていく。


「シェリーっ! これは、そのっ!」

「いえ、陛下にも大切な女性の一人や二人、そして第二妃の一人くらいますよね? もしかしたら私が第二妃で、彼女は第一妃でしょうか?」

「…………」


 シェリーの言葉に何も言えなくなったジェラルドは唇を一瞬噛みしめて、そして小さな声で語り始めた。


「彼女は私の恋人だった人だ」

「…………」


 その言い方に違和感を覚えたが、ああ、そうかやはり私は2番目の女なのね?という気持ちでシェリーは思った。

 みじめで恥ずかしく、シェリーは喉の奥がつんとなってそして苦しくなり、部屋から退室しようとする。


「シェリーっ!」


 ジェラルドの手がシェリーの腕を捕まえて、そしてなんとも悲しそうな表情で再び語り始める。


「彼女は死んだんだ」

「──っ!」

「彼女は呪われた私の身体を気味悪がらずに接して、そして癒してくれた。しかし彼女の聖女の力をもってしてもこの呪いは解けなかった」

「それで、彼女は……」

「彼女は聖女の力を使い果たして亡くなった。私が公務で遠征している途中だった」


 ジェラルドは過去を思い出すように少し俯いてシェリーを目を合わせずに言う。

 そして手を握り締めてきりきりと歯をくいしばった。


「彼女はもともと修道院の子で聖女ではありながら、私との結婚を身分によって反対されていた。でも私は彼女を愛していた」

「…………」


 シェリーは何も言えなくなり、そして言った。


「ジェラルド様、少し一人にしてくださいませんか?」

「……ああ」


 ジェラルドはそっと優しくシェリーの腕を解放すると、彼女は振り返ることなく部屋をあとにした。

 彼は地面に座って頭を抱え込んだ──


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