第11話 陛下の執務室

 魔女との邂逅を終えた二人とセドリックら兵士は王宮へと無事に帰還していた。


「お嬢様っ!」

「アリシア……」

「セドリック様からお嬢様と陛下が魔女に会ったと聞きましたっ! お怪我はありませんか? 大丈夫ですか?!!!」

「落ち着いて。ジェラルド様とセドリック様が守ってくださったから怪我はないわ。大丈夫よ」

「よかった……」


 アリシアは安心したようにそっと息を吐くと、シェリーを抱きしめた。

 ぐすんぐすんと聞こえる声から心から心配をさせてしまったのだと、シェリーは申し訳思うと同時にそこまで思ってくれるアリシアのことを大事に思い抱きしめ返す。




◇◆◇




 それから数日、シェリーは妃教育に、そしてジェラルドは公務にと励んでいた。

 そんな二人は食事は共にするものの、しばらくゆっくりと話すことができずにいてシェリーは寂しく思う。


(最近ジェラルド様とお話ができてない。いつもお忙しそうにされていてとても声をかけられない)


「シェリー様! 手が止まっておりますよ!」

「ごめんなさい、クラリス先生。集中できておりませんでした」

「…………シェリー様、この書類を陛下にお渡ししなければならないのですが、これを今から陛下に届けてもらえませんか?」

「──っ!」


 その言葉がシェリーの心を読んでの発言だと気づき、クラリス先生への感謝の気持ちでいっぱいになる。

 椅子を引いて立ち上がってクラリスに近づくと、書類を受け取ってお辞儀をして部屋を後にする。



 壁に花の画が飾られてある廊下を抜けて左に曲がった先の突き当りが、ジェラルドの執務室だった。

 ノックをすると、「入れ」といつもシェリーのかける声色ではなく公務の時のきびきびとした低めの声が聞こえる。

 シェリーはそっと入ると、遠慮がちに執務机で筆を執っているジェラルドに近づいていく。


 しかし、手紙の執筆に集中しているせいかジェラルドはシェリーであることに気づかない。


「書類などはここに置いておいてくれ、後で見る」


 何か声を掛けようとするシェリーだが、あまりに真剣な表情と声色、忙しそうなその様子に彼女は口をつぐんでしまう。

 ジェラルドと話すのはまた今度にしようと考えたシェリーは、言われた通りに書類を机の上におこうとした。


 その時、ふとシェリーの目についてしまった。


「……? ──っ!!!!」


 シェリーは思わず青い目を見開いて言葉を失ってしまった。

 そして思わず口をついて出てしまったのだ。



「──この女性の写真は誰ですか?」



 その声にどきりとしたように顔を上げたジェラルドは、シェリーのほうを見た。


「シェリー……!」


 その瞬間青く晴れた空が見える窓のほうで、小鳥がチュンチュンと鳴いた──

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