第1話 国王との出会い

「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」

「──っ!?」


 シェリーは国王からの婚約申し出というとんでもない出来事に口がぽかりと開いて何も言えなくなってしまった。

 そしてどうやら落ち着いて見えた父親であるグローヴ侯爵も同じ気持ちだったようで、次第に焦った表情が見え始める。


「私も驚いているんだ。お前みたいな出来損ないで婚約破棄ばかりされてくるやつがなぜと……」

「は、はい。私も思っております」


 グローヴ侯爵は席を荒々しく立つと、そのままシェリーに駆け寄って両肩を掴む。


「──っ!」


 掴まれた衝撃でシェリーはその肩が痛んだが、そのまま父親の話を聞いた。


「これは千載一遇のチャンスだ。お前みたいな役立たずがようやくこの家の役に立つときが来たんだ。何がなんでも呪いのことを隠して王にすり寄ってこい!」

「え、ええ。かしこまりました」


 シェリーは自分を政治の道具にしか思っていない父親の言葉に気づきつつ、そして隣にいる母親がにやりと笑っていることもわかっていて、おとなしく頷いた。


(そうね、呪いで醜い身体をしている上に不幸しかもたらさない『災厄のもと』なんてこの家にいらないものね)


 彼女はそっと会釈をすると、そのまま王宮へと向かう迎えの馬車に乗り込んだ。


 景色はだんだんと街のにぎやかさが見えてきて、でもそのにぎやかさが今のシェリーの心には苦しかった。


(この婚約は本当にいいのかしら? 国王は呪いのことを知らないのよね? でも私にはもう帰る家もない。隠すしかないの? こうして私はまた不幸を呼び寄せるの?)



 馬車はゆっくりと速度を緩めていき、そして王宮の玄関の前で止まる。

 シェリーが馬車の階段を降りると、目の前には数えきれないほどのメイドが……と思いきや一人の騎士がいた。


「お待ちしておりました、シェリー様」

「お出迎えありがとうございます」

「陛下がお待ちです。こちらへどうぞ」

「え、ええ」


 漆黒の髪をした騎士がシェリーを王宮の一室へと案内する。

 おとなしく後ろをついていくと、扉の先には王と思われる金髪の男性がソファに座っていた。


「陛下、お連れしました」

「ああ、ありがとう」


 書類に目を通していたようだが、その書類を横にいた人物に渡すと陛下と呼ばれた人物はシェリーのほうに歩いてきた。

 慌ててシェリーはカーテシーで挨拶をすると、満足そうに陛下は手を差し出した。


「ようこそ、シェリー。こちらで話でもしよう」

「は、はいっ!」


 手を引かれるままソファに座ると、メイドの一人が紅茶を用意して目の前に置く。


「陛下」

「ああ、少し休憩にするよ。あとで執務室に向かう」

「かしこまりました」


 シェリーをここまで連れてきた騎士は胸の前に手を当てて深々をお辞儀をすると、メイドや側近と共に部屋を後にした。


 部屋に二人きりになったことを確認すると、陛下は話し始めた。


「よく来てくれたね、道中は大丈夫だったかい?」

「はい、お迎えの馬車までご手配いただきましてありがとうございました」

「そんなかしこまらないで欲しい。私の事もジェラルドと呼んで」

「ジェラルド様……」


 その声に世の女性たちが虜になるほどのまぶしい笑顔を向けたジェラルドは、シェリーの手をそっと握っていった。


「その呪い、やはり強力なものだね」

「──っ!」


 ジェラルドの顔つきは一気に真剣なものになって、その碧眼はシェリーをぐっと捕らえた──

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