第296話 証明しなさい!
「っ!」
真剣な表情で告げるラピスに、カミルの目が見開く。
(今のカトレアとラピスさんが、私の味方? ありえない、だって今の彼らは王国騎士と宮廷魔法師よ。ある意味、ノルベルトの味方じゃない)
突然現れたラピスのことを全く信じていないカミルは、僅かに眉を顰めるとレイピアの切っ先をゆっくりとラピスに向ける。
「アハハハッ! 大人しく見物してみれば、まさか仲間同士で争い始めるなんて……」
「黙って」
「はああっ!?!?」
カミルから冷たく突き放され、怒りを露にしたダリアに、魅了された騎士達が彼女を慰めてようとダリアの周りに集まる。
そんな混沌とした状況に、野次馬達が再びざわめく中、レイピアを向けられたラピスは小さく笑みを零す。
「信じられないか?」
「当然です」
女性らしいソプラノ声からいつもの中世的なアルト声に戻ったカミルは、ラピスに対して警戒心を強める。
(私があなたの言葉を信じたら、あなたやカトレアを……)
「それは、俺とカトレアを巻き込みたくないからか?」
「っ!?」
(そこまで、知っているの!? でも、信じられない理由はそこじゃない)
一瞬驚いた表情をしたカミルは、すぐさま無表情に戻すと淡々とした口調でラピスを信じられない理由を話す。
「それもあります。そもそも、今のあなたを信じていいか私が分からないのです」
「まぁ、そうだよな。いきなり現れた男に『俺はお前の味方だ』と言われ、それを信じろというのは無茶な話か。それも長い間、たった1人で馬鹿騎士共から平民を守ってきたなら尚更」
「そこまで分かっているのでしたら、さっさとこの場から立ち去って……」
「だが!」
アーメット兜の下で笑みを潜めたラピスは、眼前で騎士達との戯れを楽しんでいるダリアを睨みつける。
「こうしてお前の前に立って、現宰相家令嬢に剣を向けているって事実だけでも信じられないか?」
「っ!?」
(確かに、今のラピスさんは本当の私を思い出した上であの女に剣を向けている。でも、それでも……)
ラピスの言葉を聞いて、カミルの中に迷いが出てきた時、騎士達と淫らな戯れを楽しんでいたダリアが突然2人の会話に入ってきた。
「ちょっと、あんた! どうして私が宰相家令嬢だということを知っているの!?」
「フッ、今更気づいたか」
(相変わらず、気持ちいいことしか考えない令嬢だ)
小馬鹿にしたように笑ったラピスは、不機嫌そうに眉を顰めているダリアに向かって親切丁寧に教えた。
「そんなの、さっき自分で仰っていたじゃないですか。『自分は、高貴な宰相家令嬢よ』って。そんなついさっきのことも忘れているなんて……本当、この国の宰相家令嬢はたかが知れているなぁ!」
「なんですって!?!?」
ダリアに気づかれないことを分かっていたラピスは、楽しそうな笑みを浮かべながら彼女を煽る。
そんな彼を後ろで見ていたカミルは、決心を固めるとラピスの横に立った。
「フリージア嬢?」
「正直、今のあなたのことを信用することは出来ません」
「まぁ、そうだな」
(それは、レクシャ様やカトレアからも言われていた)
淡々と話すカミルを横目で見たラピスは、残念そうに肩を竦める。
すると、カミルがダリアと黄金の騎士達にレイピアを構える。
「ですから、こうしましょう」
(どうして、ラピスさんが今の私を見て本当の名前を呼ぶことが出来たのか? そもそも、ラピスさんとカトレアはどうやって記憶を取り戻したのか? 正直、分からないことだらけでダリアに構っていられない。それでも……)
目を閉じて小さく息を吐いたカミルは、隣にいるラピスに目を向ける。
「一度だけ、たった一度だけチャンスを与えるわ。だから……」
(分からないからこそ、確かめる方法はあるはずだから)
ラピスの隣にいた人物は、ソプラノ声で指示を出す。
「あんたを信用していい人物か自ら証明しなさい!」
「っ!」
それは、いつも淡々としているワケアリ平民の口からは決して出ない言葉。
だが、アイマスクの奥にある彼女の淡い緑色の瞳は、慈悲深くも決して折れない強い意志を宿し、彼女の口から出た言葉は相手を立てつつも否とは言わせない貴族らしい威圧感を与える。
(あぁ、5年経ってもお前は『お人好しなお転婆令嬢』のままなんだな。だからこそ、平民のためにレイピアを構えているのだろう)
そんなことを思いつつ、ラピスはあらゆる理不尽から弱者を守る盾として、堂々とレイピアを構える彼女に笑みを零して前を見る。
「あぁ、いいぜ!」
(それで、俺やカトレアのことを信用してくれるのならば!)
王都の昼下がり。1人の宰相家令嬢と王族直属の精鋭部隊を相手に、1人のワケアリ平民と通りすがりの冒険者は立ち向かう。
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