第294話 思わぬ援軍
「おい、あれって……」
「えぇ、間違いないわよ」
(どうしたのかしら? 急に騒ぎ始めるなんて)
野次馬達のざわめきにカミルが眉を顰めた瞬間、野次馬達の中から金色の鎧に身を包んだ騎士達が現れ、カミルは彼らが付けている赤いマントを見て思わず目を見開く。
「なっ!?」
(国王陛下直属の精鋭部隊!?)
金色の鎧に王国の国旗が刺繡されたマントに身につけてカミル達の前に現れたのは、近衛騎士団所属でありながら国王直属の部隊である、ペトロート王国近衛騎士団第一部隊だ。
ペトロート王国騎士団でも屈指のエリート部隊であり、国王護衛を主としている彼らは、滅多なことが無い限り表に出ることはないのだが……
「どうして、彼らがここに?」
(陛下の御身を守ることが使命である彼らが、どうして王都の街にいるの? 陛下が王都に来ているなんて話は聞いてないのだけど)
「もしかして、陛下がお忍びで王都に……」
「そんなの、私の護衛だからに決まっているじゃない!」
「はぁ!?」
(陛下の護衛じゃなくて宰相家令嬢の護衛!?)
思わず素の驚き声を上げたカミルに、気を良くしたダリアが集まった野次馬達にも聞こえるように自慢げに話す。
「私は、この国の宰相家令嬢! つまり、この国で一番高貴な令嬢! だから、国王の護衛をしていて、私と体の相性が最高な見目麗しい彼らを私の護衛にしても良いの!」
「そんなわけないでしょうが!」
(宰相家令嬢だからといって、陛下の護衛を主としている彼らに護衛されても良いなんて理屈はどこにもないわ! というより、婚約者以外の人と寝たの!?)
本能に忠実で傍若無人な振る舞いをするダリアに対して、いつもの冷酷をかなぐり捨て、怒りを露にしたカミルが思わず声を荒げる。
すると、カミルの顰め面を見たダリアが扇子を広げると楽しそうに嗤った。
「まぁ、頭の足りない愚民には、私の高貴な考えは到底理解出来ないでしょうね」
「あなたにだけは言われたくないわ!」
「アハハッ! 良いわね、その薄汚い醜い顔! 愚民のあなたには、お・似・合・い!」
「あなたねぇ!」
(どこまで、どこまでその地位を汚せば気が済むのよ!)
『フリージア。宰相家令嬢とはこの国の貴族を象徴する令嬢のこと。だから、どんなにお父様が国のために良いことをしても、あなたが間違ったことをすれば、お父様だけでなく国全体の品格を貶めるようなことにもなることを忘れてはいけないわ』
『はい、お母様!』
(ドレスよりも剣を振ることが大好きな私が、幼い頃からお母様や家庭教師に言われ続けた言葉。その言葉があったお陰で、私は厳しい淑女教育にも耐えられた。だから……)
「今のあなたの振る舞いは見るに堪えるわ」
(奪った地位で好き勝手しているあなたの振る舞いは!)
私怨を含んだカミルの呟きは、耳をつんざくようなダリアの笑い声にかき消された。
すると、一頻り嗤ったダリアが下卑た笑みを浮かべ、開いたままの扇子を目の前の騎士達に向けると声高らかに命じる。
「さぁ、処刑の続きよ! あんた達、私のためにそこにいる愚民を殺しなさい!」
「っ!」
(まさか、この人達もダリアの魅了魔法に!?)
ダリアの命令を聞いてカミルが顔を強張らせた瞬間、金色の騎士達がカミルに向かって一斉に剣を構えた。
「なんてことをしてるのよ」
(陛下の護衛を魅了して操るなんて、下手した国家反逆罪で処刑されるわよ!)
魅了された騎士達を見てカミルが下唇を噛むと野次馬達に目を配る。
(それに、このままだとみんなを守りながらこの人達を倒すことが出来ないわ!)
金色の騎士達に怯えた表情をしながらもその場から離れない野次馬達に、少しだけ苦い顔をしたカミルは、大きく息を吐くとレイピアを構える。
とその時、王国騎士団が身につけている鎧とは明らかに異なる、使い込まれた銀色の鎧に身を包んだ男が、突然カミルの前に現れた。
「あなた、一体何しに……っ!?」
諌めるように声をかけたカミルは、鎧の襟元に小さく刻まれている家紋と鎧男が携えている双剣に再び言葉を失う。
(襟元の家紋は、もしかしなくてもフォルダン家の家紋! そして、青と黄色の魔石が嵌め込まれた双剣を携えているってことはまさか!?)
「誰よ、あんた!?」
鎧男の登場に動揺したダリアが令嬢らしからぬ声を上げると、小さく笑みを零した鎧男がゆっくりとカミルのいる方を振り向いた。
「久しぶりだな、フリージア嬢」
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