第31話 騎士の暴走と木こりの魔力
「あの、検問じゃないのですか?」
後ろの馬車を一瞥した木こりに対し、下卑た笑みを浮かべた2人の騎士が揃って切っ先を向ける。
「へへっ! 俺たちが本当に検問するわけが無いだろうが! バーカ!」
(まぁ、そうだろうと思っていたけど)
「ハァ、だとしたら、何が目的なのですか?」
周囲の冷ややかな目線をものともしない2人の騎士に、溜息をついた木こりがレイピアを抜く。
すると、黒い短髪に紅色の瞳をした騎士が、歪な笑みを浮かべながら切っ先に魔法陣を展開した。
「それはもちろん、お前を倒すことだ! 《ファイヤーアロー》!」
赤い魔法陣から放たれた無数の火の矢に、周囲の人々が悲鳴を上げる中、無表情の木こりは呆れたように小さく溜息をつくと、魔力を纏わせたレイピアで火の矢を全て打ち落とした。
「へぇ、俺の魔法を全て避けたのか。よし、次は俺の番だ! 《ウォータースラッシュ》!」
黒髪紅目の騎士からの魔法攻撃を『避けた』と勘違いした、くすんだ青色の短髪に黒い瞳をしたもう1人の騎士は、展開した青い魔法陣から水の刃を放った。
すると、再びレイピアに魔力を纏わせた木こりが、飛んできた水の刃を真っ二つに切った。
「ほう、今度は切り裂いたのか。これは楽しめそうだ」
「そうだな。じゃあ、準備運動はここまでにして、ここからは本番だ!!」
楽しそうな笑みを浮かべた紅目の騎士が、青髪の騎士と共に後ろに大きく飛びのいた。
そして、木こりの足元に少し大きな魔法陣を展開した。
「くらえ! 《ファイヤープリズン》!!」
紅目の騎士が大声で唱えた瞬間、展開された魔法陣から炎の牢獄が現れ、あっという間に木こりを閉じ込めた。
「ギャハハハッ!! これで、俺もアルジムのような上級騎士になれる!!」
「おい、ズルいぞ! 俺だって上級騎士に……」
下品な笑いを上げる紅目の騎士に、青髪の騎士が羨ましがったその時、濛々燃えあがる炎の牢獄に横一線の亀裂が走り、瞬く間に消え去った。
「「なっ!!」」
炎の牢獄が突然消え、2人の騎士は茫然とする。
すると、消えた牢獄から無傷の木こりが現れ、構えていたレイピアを降ろすと服に着いた埃を払い落とした。
「それで、これで終わりですか?」
「っ!!」
涼しい顔をする木こりに、怒りを露にした紅目の騎士が得物を捨てると両手を翳す。
「ちくしょう、このまま平民になめられて終われるかよ!!」
「えっ!? おい! それはマズいって!!」
「うるせぇ!! 黙ってろ!!」
青髪の騎士からの制止を振り切った紅目の騎士は、怒りに身を任せて先程よりも巨大な魔法陣を足元に展開した。
「ギャハハハハッ!! これで、これで俺の勝ちだ!!」
周囲を巻き込む巨大な魔法陣に、その場にいた野次馬達が阿鼻叫喚をあげながら逃げ始める。
(全く、この程度で感情的になりすぎ。この人、騎士失格ね)
目の前に広がる地獄絵図に、再び小さく溜息をついた木こりは、展開された魔法陣を一瞥するとレイピアを地面に突き刺した。
「くらえ! 《インフェル……」
「《範囲干渉》」
下卑た笑みを浮かべた紅目の騎士が上級魔法を放とうとした瞬間、木こりは誰にも聞こえない声で小さく呟く。
すると、透明な魔力がレイピアを伝って足元に広がる赤い魔法陣を覆い、あっという間に消失した。
「なっ!? どうして!?」
突然魔法陣が消え、目を丸くした2人の騎士が揃って膝から崩れ落ちたその時、逃げ惑う人々の流れに逆らうように、銀色の鎧に身を包んだ2人の騎士が人混みの中から現れた。
「貴様ら、一体何をやっている!」
「ラピス!! それに、シトリン様まで……」
茫然としていた2人の騎士は、つかつかと近づいてきたラピスの色素の薄い黄色の瞳に怒りの炎を宿していることに気づかぬまま、必死な形相をしながらラピスに縋りつく。
「ラピス聞いてくれ! この平民が突然暴れたから俺とこいつで止めようと……」
「はぁ? そんな真っ赤な嘘で許しを乞うのか?」
「嘘じゃない! 本当に俺は平民を止めようと……」
「ごめんね」
あからさまな嘘を吐く騎士の言葉を遮ったシトリンは、2人の騎士の前にしゃがむと冷たい笑みを浮かべた。
「僕たち、君たち2人がここにいる平民に魔法を放っていたところを見ていたんだ。まぁ、集まっている人達が多すぎて止めることが出来なかったけど……だから知っている」
不自然に口角を緩ませたシトリンが、見たもの全てを凍てつかせるような目を赤目の騎士に向ける。
「君が愉悦に浸った表情で、広範囲の上級魔法を放とうしているところを」
「っ!!」
シトリンの言葉で肩を落とした紅目の騎士と、シトリンの冷たい目に体を硬直させた青髪の騎士は、その後ラピスが手配した騎士達によって連行された。
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