第22話 取り乱す団長

「はい。今回も、例の平民お陰でリースタを捕えることが出来た上に、周辺住民への被害を最小限に抑えられました」

「『その平民のお陰で』ですか」

「そう、ですね……」



 メストの報告に目を細めたフェビルとグレアが揃って溜息をつくと、顔を引き攣らせたメストとシトリンの肩が僅かに震えた。


(辺境にいた頃は、こいつらも勇猛果敢な騎士として活躍していたが)


 深く溜息をついたフェビルは、持っていた報告書を机の上に投げる鍛え上げられた屈強な両腕を組んだ。



「まぁ、本来、国民を守るべき騎士が罪も無い平民に手をあげるのも問題だが、それを止めたのが騎士のお前達じゃなくてレイピアを持った一風変わった平民だなんて……これじゃあ、騎士の面目丸潰れだな」

「「申し訳ありませんでした」」

「いや、俺に謝られても……なぁ、グレア」

「そうですね。そもそも、騎士が平民に手をあげる時点で騎士の面目は丸潰れですから」

「それもそうだな」



 深々と頭を下げた2人の部下に、フェビルとグレアがアイコンタクトを交わすと再び溜息をついた。

 すると、机の上に投げ出した報告書を一瞥したフェビルが眉を顰めた。



「それで、これも本当なのか? 『その平民が、闇魔法を使える可能性がある』というのは?」





 フェビルとグレアからの鋭い視線に、息を呑んだメストが頭を上げて小さく頷いた。



「はい。厳密には、魔力を使って戦っていたので、それが魔法なのか定かではありませんが……」

「『もし、魔法であった場合、その魔法が闇魔法である可能性が高い』ということか?」

「そうです」

「では、でもないのですね?」

「はい」



 特別魔法とは、非属性魔法の中でも希少かつ強力な魔法のことである。

 ペトロート王国では、術者保護の観点から、特別魔法を使う術者に対して多くの制約を課しており、国から斡旋された場所でしか働くことが出来ない。

 つまり、特別魔法は闇魔法と同じく厳重に管理された魔法なのだ。

 ちなみに、現時点で王国が認めている特別魔法は治癒魔法と浄化魔法のみで、この2つの魔法は、どちらも王国から委託された教会によって管理されている。


 メストとシトリンが揃って頷くと、フェビルの顔が険しくなった。



「それで、その平民が使っていた『魔力』っていうのはどんなやつだったんだ?」

「それが……その平民は、足元に纏わせた魔力を弾け飛ばしながら屋根の上を走ったり、所持しているレイピアに魔力を纏わせると、リースタが放った魔法をレイピアで受け止め……いや、りしていたのです」

「っ!?」



(『魔力で魔法を打ち消す』……まさか!?)


 突然、椅子から立ち上がったフェビルの鬼気迫る顔に、横にいたグレアが目を見開く。



「団長、急にどうし……」

「なぁ、そいつの魔力の色は何だった!?」

「えっ!? ええっと……確か、無色透明だったはずです。ねぇ、メスト?」

「あっ、あぁ……確かに、あいつが使っていた魔力は透明だった」

「っ!!」



(無色透明の魔力で、魔法を打ち消す……間違いない)



『だったら、君が次の第二騎士団の団長になってみない?』



「団長、突然どうされましたか?」

「あっ……」



 驚いた顔でこちらを見る3人の部下に、我に返ったフェビルは大人しく椅子に座った。



「すまん、珍しく取り乱した。忘れてくれ」

「はっ、はぁ……」



(そうだ、であるこいつらを巻き込んではいけない)


 魔法陣に使われる魔法文字が刻まれた銀色の腕輪を一瞥したフェビルは、深い溜息をつくと険しい顔でメストとシトリンを見やった。



「一先ず、このことは俺から陛下に伝えておく。お前達は引き続き、第一騎士団と連携しつつ、王都の警備にあたれ。報告ご苦労だった。下がっていい」

「「はっ!!」」



(木こりが使っていた魔力を聞いた時の団長、今まで見たことがない焦った顔をされていた。もしかして……)


 シトリンと共に部屋を出て行こうとしたメストは、ドアノブに手をかける前にフェビルの方を振り返る。



「団長、もしかして木こりについて何か心当たりが……」

「それについては、単に俺のだったから気にしないでくれ」

「あっ、はい……それでは、失礼致します」

「失礼致します」



 上司の苦い顔を見たメストとシトリンは、揃って小首を傾げると執務室を後にした。


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