第13話 酔っ払い騎士と木こり(前編)
「見つけた」
メストやシトリンと並走していた木こりは、酒場の前で尻餅をついている男性と、鎧を纏った体格の良い騎士が男性に向かって大きな斧を向けているところを見つける。
(あいつ、また……!!)
一瞬眉を顰めた木こりは、鞘からレイピアを抜いて魔力を弾け飛ばすと、勢い良く屋根から飛び降りた。
そして、尻餅をついている男性の前に立ち、目の前いる騎士に向かってレイピアを構えた。
「木こりさん!」
「おや、あんたは騎士殺しさんじゃねぇか」
(へぇ、この騎士は私のことを覚えていたみたいね。まぁ、前に一回だけ対峙したことがあるから覚えられていても不思議じゃないけど)
そんなことを思いながら、木こりは後ろにいる男性に目を向けた。
「大丈夫ですか?」
「はっ、はい! 酔っ払い騎士から助けていただきありがとうございます!」
「いえ、それよりも私が彼の気を引く間に、早くここから立ち去って下さい」
「わっ、分かりました!」
顔面蒼白の男性が首を大きく縦に振り、立ち上がって逃げようとした瞬間、アルコールの匂いを纏わせた赤ら顔の騎士が、男性に向かって緑色の魔力を纏わせた斧を大きく振り上げた。
「っ! 危ない!!」
すぐさま魔力を足元に纏わせて木こりは、男性の体に勢いよく抱きつき横に倒れ込んだ。
その瞬間、辺り一帯に轟音が響き渡り、周囲に大量の砂埃が巻き上げられた。
「ゴホッ、ゴホッ……大丈夫、ですか?」
「えっ、ええっ! ありがとうございま……」
「おぉ! よけた、よけた! さすが、無力な平民を守る凛々しい平民ですなぁ」
「…………」
(全く、あなたって方は!)
「だが、次はよけられるかな?」
下品な笑みを浮かべた騎士は、倒れ込んでいる2人の平民に片手を向けると緑色の魔法陣が展開した。
すると、男性を背に庇った木こりは、静かにレイピアを構えると透明な魔力を剣身に纏わせた。
(大丈夫、この程度の魔法なら簡単に打ち消せる)
「へへっ、これでもくらえ~! 《ウインドカッター》!」
遊び感覚で放たれた中級魔法に、一瞬眉を顰めた木こりは一直線に飛んできた風の刃を己の魔力を纏わせたレイピアで受け止めた。
その瞬間、透明の魔力にぶつかった風の刃があっけなく消え去った。
「ほう、やはり『魔法を剣で打ち消せる平民』というのは、貴様で間違い無いようだな」
涼しい顔で魔法を打ち消した木こりに、満足げな笑みを浮かべた騎士はゆっくりと手を下ろした。
「だったら、どうされますか?」
レイピアで魔法を受け止める隙に男性を逃がした木こりは、ゆっくりと立ち上がると騎士との間合いを取りながら人があまりいない方に移動する。
すると、振り下ろした斧を肩に担いだ騎士が、メストとシトリンの存在に気づいて声をかけた。
「おい! そこにいる辺境から来た上級騎士ども! 悪いが、この前のアルジムみたいに興が冷めるようなことをするなよ! さもないと、ここにいる平民全員、俺が処罰してやるからな!」
「なっ! リースタ貴様! 何を言って……」
「行くぞ、騎士殺し!」
(騎士が平民を人質にとるなんて、騎士がすることではない!)
メストの言葉を遮った騎士リースタは、持っていた魔道具で自分自身に強化魔法をかけると担いだ斧を再び構え、砂ぼこりを上げながら木こりに向かって突進した。
「どうする、メスト?」
「くっ!」
(下手に刺激して、無関係な人達を巻き込むわけにもいかない……)
強く拳を握ったメストは、大きく息を吐くとシトリンに指示を出す。
「シトリン、俺たちはここにいる人達の避難誘導をしつつ、2人の間に入れるよう間合いを取ろう」
「了解。皆さん、危険ですのでこちらから逃げて下さい!」
(平民の彼に、大変酷なことを強いてしまい申し訳ない! だけど、俺たちが無関係な人々を避難させている間、どうかリースタの攻撃から耐えてくれ!)
周囲にいる人達の避難誘導しているシトリンの隣で、小さく唇を噛み締めたメストは嬉々として斧を振るうリースタとそれをあっさりと躱す木こりに注意を向ける。
「オラッ! チッ! ハアッ!」
(こいつ、平民のくせに貴族であり騎士である俺の攻撃を躱し続けるとは!!)
強化魔法で突進してきたリースタを軽く躱した木こりは、間髪置かずに繰り出されるリースから攻撃を飄々と躱し続ける。
それに対し、最初のうちは楽しいそうな笑みを浮かべたリースタも、段々といら立ちを募る。
(クソッ! 強化魔法で素早さも威力も強化されているのに、どうして当たらない!)
「これでもくらえーー!!」
大振りの攻撃をあっさりと躱した木こりに、攻撃を止めたリースタが苛立ちを露にする。
「貴様、俺と剣を交えないとは一体どういう了見だ?」
リースタの攻撃を躱している間、ずっとレイピアを下ろしていた木こりは、涼しい顔のまま冷めた答えを口にした。
「そんなの、あなたの攻撃が剣を交えるに値しないからに決まっているじゃないですか」
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