第12話 木こりの魔力

「爆発音の後に感じた魔力……まさか!」

「うん、僕も信じたくないけど、恐らく魔法だと思うよ」



(全く、非常時でもない王都で魔法を放つなんて、一体何を考えているんだ!)



「シトリン、急いで魔法をぶっ放したバカを捕まえに行くぞ!」

「了解、隊長」



 突然の爆発音に人々が怯える中、爆風に乗って流れてきた魔力を感じたメストとシトリンはアイコンタクトを交わすと険しい顔で駆けだした。

 そんな2人の姿を見届けた木こりは、近くにあった店に駆け込むと店先にいた店員に持っていた紙袋を渡した。



「すみません! 私が戻ってくるまで預かってもらえませんか?」

「分かったよ! 気を付けて!」



 突然の頼み事に笑顔で答えて送り出してくれた店員を一礼した木こりは、空を見上げると足元に透明の魔力を纏わせた。


(あの2人がいない今なら)


 纏わせた魔力をはじけ飛ばして体を宙に浮かせた木こりは、そのまま店の屋根の上に着地した。

 そして、足元に纏わせた魔力をはじけ飛ばしながら、木こりは屋根伝いで2人の騎士の後を追った。





「メスト、あれ!」



 爆発音が聞こえた方に駆けつけている最中、何かに気づいたシトリンが突然、メストの名前を呼んで建物の屋根に向かって指を差した。



「っ!?」



 シトリンに呼ばれて指を差された方を見たメストは、透明な魔力をはじけ飛ばしながら屋根伝いに走っている木こりに目を丸くした。


(あの木こり、いつの間にあんなところを走って! それに……)



「もしかしてあいつ、初級魔法一回分以上の魔力をはじけ飛ばしながら走っているのか!?」

「そうだね。それも、魔力切れを起こしていない。更に言うなら、宮廷魔法師顔負けの見事な魔力コントロールではじけ飛ばして走っているよ」



 木こり達が住むペトロート王国には、古くから言い伝えがある。


 大昔、突如大規模な厄災が起きた。

 それは当時、魔力を持たかった人間の力では鎮められないもので、人々は絶望した。

 しかし、そんな状況を憂いた創造神アリアは、厄災を鎮めようと人間に『魔力』という加護を与えた。


 ペトロート王国では、創造神から加護を受けて厄災を鎮めた人間の末裔が貴族や王族、加護を受けた人間から祝福を受けた人間の末裔が平民とされている。

 その為、貴族と平民は保有する魔力量は生まれた時から異なるとされ、王族や貴族は大量の魔力を持ち、平民は初級魔法一回分の魔力しか持っていないと言われている。


 だが、木こりが屋根伝いで走っている時に使っている魔力量は、初級魔法一回分を優に超えていた。



「あいつ、実は貴族なのか?」

「さぁ、少なくとも属性魔法の色じゃない魔力を持った貴族なんてよ」



 ペトロート王国では、貴族と平民が保有する魔力の差があまりにも大きいことから、身分によって魔法の使い方を決めている。

 貴族が魔法を使う場合は、『魔法陣』と呼ばれるものを展開するか、魔道具に内包されている魔法を使うこと。

 そして、平民が魔法を使う場合、魔道具に内包されている魔法しか使ってはいけない。

 故に、魔法の使い方や知識、魔力のコントロールの方法は貴族にしか教えられていない。


 稀に、平民から貴族同等の魔力を持った人間が生まれることあるが、その場合は魔法を一括管理している国が精査した上で、その平民に貴族位を与えたり、『見習い宮廷魔法師』として国自らが管理したりしている。


 また、この国で使われている魔法の大半は『火・水・雷・風・土・氷』の『属性魔法』と呼ばれる魔法で、それぞれ『赤・青・黄色・緑・茶色・水色』の魔力の色があり、『初級・中級・上級・超級』と魔法の強さが設定されている。

 そして、使える属性魔法の強さや、使える属性魔法の種類が多さに応じて見合った職が与えられる。

 1属性の中級魔法しか使えない人間は普通の貴族として扱われるが、2属性以上の中級魔法が使えたり1属性の上級魔法が使えたりする人間は、『宮廷魔法師』として国から召し抱えられる。

 ちなみに、メストやシトリンのような王国騎士は、1属性の中級魔法しか使えなくても剣に腕の覚えがあればなれる。


(初級魔法一回分以上の魔力を、屋根を崩落させていない程度にコントロール……)



「あいつ、一体何も……なっ!」



 魔力をはじけ飛ばしながらはしっている木こりに考えを巡らせていたその時、屋根伝いで走っていた木こりが突然屋根から飛び降りた。



「あいつ、突然何を……!」

「メスト。どうやらここが、爆発音の発生源みたいだよ」

「あっ」



(いつの間に着いたのか)



「すまん、考え事をしていた」

「全く、木こり君のことが気になるのは分かるけど、騎士としての役目を果たしてくださいね。隊長」

「わっ、分かっている!」



 シトリンに茶化されたメストは、大きく咳払いすると目の前にある人だかりをかき分けようと一歩を踏み出した。

 その時、突如人だかりが大きく二つに分かれ、その間から赤ら顔で斧を振り下ろした騎士と、その斧を辛うじて躱した2人の平民が現れた。

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