第4話 騎士の現実

 恐怖で体を震わせている女性の切実な訴えに、頭を上げさせようしたメストとシトリンの動きが一瞬止まる。


(どうして俺たちに対して『命を取らないで』と懇願する? それじゃあ、まるで騎士が平民に対して……)


 女性の懇願にメストが眉を顰めていると、優しい笑みを浮かべたシトリンが女性の体をそっと起こした。



「大丈夫ですよ。我々騎士は、国民の味方です。ですから、あなたが助けたいを願っている人の命は取りません。むしろ、救います」

「あなたたちは、一体……」

「一先ず、あなたが知っていることを教えてもらってもいいですか?」

「あっ、はい」



 女性はシトリンの言葉に啞然としつつも、2人に騒ぎの経緯を簡単に説明した。

 すると、女性の話で苦い顔をしたメストとシトリンが、揃ってお礼を言うとすぐさま立ち上がる。



「おい、シトリン。行くぞ」

「分かっているよ、隊長殿」



(これが本当なら、俺たちと一緒に来た団長が黙っていない)



「あっ、あの……あなたたちは……?」



 拳を握り締めるメストとシトリンに、女性が遠慮がちに問い質した。

 すると、アイコンタクトを交わしたメストとシトリンは、胸に手を当てると優しく微笑んで自己紹介をした。



「我々は、ここ最近配属された近衛騎士団の一員です」

「以後、お見知りおきを」





 女性に自己紹介を済ませると、2人の存在に気づいた野次馬達がいつの間にか道を作ってくれていた。



「メスト」

「分かっている」



(分かっているが……)


 野次馬達の怯えや畏怖の表情を目の当たりにしたメストは、苦々しい表情をしながら野次馬達に頭を下げると目の前にある一本道を駆けた。

 その横でシトリンは小さく溜息を零す。



「僕だって最初聞いたときは、本当だなんて信じたくなかったよ。でも、この人達の表情を見る限り……」

「あぁ、あの女性の話は本当だろうな。だとしたら、そんな奴は騎士じゃない。俺たちが捕まえるべき犯罪者だ」



(平民が騎士に土下座で命乞いしたりするなんて本来あってならない。ましてや、騎士が平民に対して刃を向けるなんて以ての外だ)


 土下座で懇願した女性の姿を思い出したメストが、携えていた剣の鞘に更に力を込める。

 すると、前からで言い争っている声が聞こえた。



「とぼけるな! 貴様が携えているそのレイピアで、前に我らの同胞を殺したじゃないか!」

「私が騎士様を? とんでもございません。私はただ、あなた様のように平民に向かって理不尽に剣を振り回す騎士様を止めているだけです」

「止めている? ふざけんな! あれは止めるなんて域じゃなかった! あいつは……」



(平民に向かって騎士が理不尽に剣を振り回す? それに、レイピアで騎士を殺した?)


 俄かに信じがたい言葉が耳に届き、メストとシトリンが妙な胸騒ぎを覚えた瞬間、2人の視界が開けた。



「なっ!」

「っ!!」



(本当に、本当に……!!)


 目に飛び込んできた光景にシトリンは言葉を失い、メストは怒りを声に乗せて叫ぶ。



「お前達! 一体、何をやっているんだ!!」

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