第3話 辺境から来た騎士
「ここに帰ってくるのも随分と久しぶりだね」
木こりが悪徳騎士と対峙する少し前。
長身細身の騎士は、色素の薄い緑色の短髪に当たる心地よい風を感じながら、平和で穏やかな空気が流れている城下町の大通りをオレンジの瞳をくまなく見つつ、ゆっくりとした足取りで随分と久しく来た王都に懐かしさを感じていた。
「あぁ、そうだな」
そんな彼の隣で、同じく長身細身で紺色の短髪をした騎士は、先程から向けられている令嬢達の熱い視線に鬱陶しさを覚えていた。
「何その返事? 物凄くつまんないんだけど」
緑色の髪の男がひどく不満そうな顔で隣を睨みつけると、紺色の髪の男は眉間の皺を深く溜息をつく。
「哨戒中だ。お前の戯言に付き合っている暇などない」
令嬢が聞いたら悪い意味で卒倒しそうな男の返事を聞いて、不服そうに唇を尖らせていた男は大袈裟に嫌そうな顔をした。
「うわっ、ひどっ! そんなことだから、世の貴族令嬢にモテないのですよ。ペトロート王国近衛騎士団第4部隊隊長、メスト・ヴィルマン殿」
「うるさい、さっさと仕事しろ。ペトロート王国近衛騎士団第4部隊副隊長、シトリン・ジャグロット殿」
眉間に皺を寄せる男メストの堅物さに、彼の同期であり数少ない友人でもある男シトリンが呆れたように溜息をつくと両手を頭の後ろに組んだ。
「は~い……全く、うちの隊長殿はどうしてこんなに頭が固いのかな?」
「おい、何か言ったか?」
「いいえ、隊長殿」
(全く、辺境を管轄する第二騎士団から晴れて近衛騎士団に異動になったのに、どうしてこいつは相変わらずこんな態度なんだ?)
心底つまなさそうな顔で哨戒をするシトリンを見て、メストが小さくため息をついた時、遥か遠くから女性の甲高い声が聞こえてきた。
「キャーー!!」
「っ!! メスト!」
「あぁ、行くぞ!」
女性の悲痛な叫びを聞いたメストとシトリンは、すぐさまアイコンタクトを交わすと、声が聞こえた方に向かって駆け出した。
その2人の様子を、畏怖の目や諦めの目で見ていた平民の存在に気づかず。
「クソッ! こんなに多くの人だかりが!」
目の前に現れた野次馬達にメストが悪態をついていると、隣で冷静に状況確認していたシトリンが、すぐ近くにいた平民の女性に声をかけた。
「あの、すみません。何があったか教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、良いですよ……って、騎士様!?」
シトリンとメストを見た瞬間、女性は怯えきったような顔で大きく後ずさる。
「シトリンお前、何か脅すようなことを言ったか?」
「いや、僕はただ紳士的に聞いただけだよ。あれかな、隊長の顔が恐ろしく見えたんじゃない?」
「おい、そんな冗談を言っている場合では……」
「お願いです騎士様!」
シトリンが真顔にメストが諫めようとした時、突然女性が地面に這いつくばった。
「っ!? 急にどうされたのですか!?」
「そうですよ! 我々はただ、この状況を知りたくてあなたに教えて欲しいだけ……」
「お願いです! お願いです!」
困惑した顔でしゃがみ込んだメストとシトリンに、土下座をした女性が必死に懇願した。
「あの子には、私から騎士様を近づけさせないようにきつく言っておきます。ですから、どうか、どうか……あの子とあの子の母親の命だけは取らないで下さい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます