幽霊女子高生と幽体離脱おじさん
柏堂一(かやんどうはじめ)
第1話
「1日だけ私を無料レンタルしてみませんかぁ」
歩行者用信号が青に変わり、オフィス街の大通りにある横断歩道を渡ろうとしたとき、突然後ろから声をかけられた。
振り向くと黒いメイド服に白いエプロンという格好をした高校生くらいの女の子が、ニコニコしながら俺の目をじっと見上げてきた。
何故こんな所にメイド服の女の子が居るんだ?それにレンタルだって?
俺みたいなおっさんにこんな子が声をかけてくるなんて、きっとこれはいかがわしい何かで、無料といいつつ後で怖いお兄さんが大金をむしり取りに来るに違いない。
俺は無視を決め込むことにした。
「ねーねー、私をレンタルしてくださいよー」
女の子はしつこく食い下がってくる。周りの視線も冷ややかだし適当にあしらおう。こういう時の断り方はこうだ。
「猫耳じゃないから嫌だ」
女の子はポンと手を打ち頷くと、胸元から猫耳のついたカチューシャを取り出して頭に装着した。そしてぐいっと猫耳頭を俺の顔に近づけて、上目遣いで言った。
「はい、猫耳でーす。これでレンタル契約成立!ですね」
あ、これははっきり断らないと駄目なやつだ。
「いやいや、そういう意味じゃないよ。レンタルはしないよ」
これ以上関わると厄介だ。俺は無視を決め込みスタスタと横断歩道を渡り始めた。
しかし女の子は俺の前に立ちふさがり、さっきまでの笑顔を消して、今度はプンスカしながら言った。
「あれれ?おかしな事を言いますね。猫耳じゃないから嫌だ、つまり逆さまに言うと猫耳ならオッケーだってことですよね?」
「いや、だからそういう意味じゃないよ」
女の子は胸元から今度は目薬を取り出して、口を半開きにしながら目に差した。うん、わかるよ、俺も目薬を差すとき口が半開きになるからな。
「よいしょっと」
女の子は横断歩道の上に寝転ぶとバタバタしながら泣き真似をした。
「おじさんの嘘つきー、えーんえーん」
周りの視線が冷たい。いや待て、そんなことよりも大変だ!歩行者用信号が点滅し始めたぞ。
「おい、このままじゃ危ない。歩道に戻るぞ」
俺は女の子の手を引っ張って起こそうとした。
「やだやだやだー、レンタル契約してくれないとやだー」
「わかった、契約するからさっさと起きろっ」
女の子はその場にペタンと座り、ニコッとして今度はICレコーダーを胸元から取り出した。
「今の会話、しっかり録音しましたよ」
歩行者用信号は赤になり、けたたましくクラクションが鳴った。交通の妨げになっている。早く歩道に戻らなきゃ。
だけどもその時、クラクションを鳴らしながら止まっている車の間をすり抜けて、バイクが俺たちに向かって突っ込んできた。
あ、ダメだ。俺は女の子をバイクから守るように抱き締めた。
「あらやだ、おじさん積極的」
なに暢気なことを言ってやがるんだこいつは。
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