5.小娘の色仕掛け
「ちょっとロキ、私の話聞こえてる?」
「聞こえているけど、あえて無視しているんだ」
「無視しないでよ!一宿一飯の恩という感覚はないの!!」
きーきーとうるさい小娘だ。
確かに飯を食わせてくれた恩は感じているが、宿はまだだ。
泊めてくれるならばありがたいが、チームに入れとうるさそうだな。
「わかった。とりあえずチームに入るのは保留でもいいから。しばらく泊っていってくれるだけでもいいわ」
「いいのか?僕はその程度のことで恩に感じてチームのために働くような人間ではないが」
「いいのよ。でも、ちょっとだけご飯と宿を提供した私のことを気にかけてくれるとありがたいかも。自分を守るついででもいいから」
まあその程度であれば構わないか。
おそらくスラムという場所はチーム同士の抗争などが頻繁に起こる場所なのだろう。
僕に降りかかる火の粉を払うついでくらいであればそれほど面倒でもない。
チームに入れとうるさく言わなければ僕としても多少の働きはやぶさかではない。
「わかった。宿代くらいには働いてやろう」
「ありがとう!」
にっこりと笑ったアイファの顔は、案外若い女も悪くないかもしれないと思わせるような魅力的なものだった。
「私の部屋はこっちだから」
チームの拠点だという3階建ての建物の階段を上る。
このチームはスラム最強と言うだけあって大きな建物を所有している。
この建物にチーム全員が暮らしているらしい。
1階は先ほど食事をとった食堂や食糧庫、武器庫などの皆が共同で使っている部屋が多い。
個人で使っている部屋は2階と3階だ。
男女が一つ屋根の下に暮らしていれば色々と問題も多いため、男と女は2階と3階に完璧に分かれている。
女が住んでいるのは3階で、アイファの部屋もそこにあるらしい。
「どうでもいいが、僕はお前の部屋に泊まるのか?3階に住んでいるのは全員女だろう。問題があるんじゃないのか?」
「大丈夫だって。男を連れ込んでいる子は私だけじゃないし。男女を分けているのはチーム内で男女関係のもつれがあると面倒だからだよ。チーム外ならいいの」
本当だろうか。
なんだか不安になってきた。
というか僕はいつからこの小娘の男になったんだ。
しかし今から断って別の宿を探すのも面倒だ。
一晩二晩我慢して泊まるか。
これから女だらけの中で暮らしていかなければならないのか。
王の妃が住む後宮みたいで少し緊張してきた。
いや、僕はあのワガママ自己中ド腐れ王妃相手に緊張したことはないのだが。
あいつもクーデターで死んだと考えると僕の気持ちは少し晴れた。
2階に上がった時、18歳くらいの青年が僕たちの前に立ちふさがった。
ここまで見かけた人間は13歳くらいから16歳くらいのガキばかりだったのに、こいつは少し年上だな。
「あ、リーダー」
「アイファ、そいつは誰だ」
「私の男よ。別にいいでしょ。他の子も連れ込んでるんだし」
「別に文句を言っているわけじゃない」
僕が言うのもなんだが、仏頂面の男だ。
この男がアイファたちのチームのリーダーか。
この砂漠の国にあって珍しいほど白い肌と短く刈り込んだ金髪、透き通るような青い瞳。
真面目そうなタイプであまり友達になりたいタイプではないが、そこそこガタイもいいし女にはモテるだろうな。
「あまり素性の知れない者を連れ込むな。他の奴らにも言っておけ」
「はーい」
「ちっ。行け」
アイファはあまり気にした様子もなくすたすたと階段を上っていく。
あまりチーム内の仲がよくないのだろうか。
チームの一員でもない僕には関係のない話かもしれないが。
男とすれちがう瞬間、ふんわりと甘い香りが漂ってきた。
僕はその香りに覚えがあった。
誘精香という精霊を集める効果のある香の香りだ。
この男、精霊術師だ。
よくよく観察してみると拙くはあるが精霊に意思を伝えていることが見て取れる。
しかし僕が精霊術師であることに気づいた様子はない。
ということは精霊を感知する能力は低そうだ。
精霊を集める香を使うことといい、この男は人工の精霊術師とみて間違いない。
なるほど、精霊術師がリーダーを務めていればスラム最強のチームになってもおかしくはない。
僕がそれほど頑張らなくてもアイファの身に危険が及ぶようなことにはならないのではないだろうか。
「ここが私の部屋。入って」
アイファの部屋は3階の一番奥にある部屋だった。
扉を開けるとそこは大人10人が寝られるほどに広い部屋だった。
そこにベッドが2つ置かれている。
「ここに1人で暮らしているのか?」
「うん。女の子はみんな2人部屋を1人で使ってるの。ここが仕事場にもなるから」
スラムで女の仕事といえば、想像はつく。
なるほど、それは男を連れ込んでもそれほど問題にはならないだろう。
「僕を連れ込んだのも、お前の仕事のうちか?」
「勘違いしないで。私はまだ、その、処女だから......」
こいつ、こんな格好をしてまだ処女か。
娼婦のような恰好をして街角で声をかけられたからてっきり、すでにその道で仕事をしている女だと思っていた。
だが、ならばなぜ僕のような素性の知れない男を自分の部屋に連れ込んでいるのか。
襲われるとは思わないだろうか。
「ねえロキ。わ、私のような女には本当に興味はないの?こ、これでも?」
アイファはただでさえ薄着の衣装を脱ぎ去る。
薄衣がはらりと床に落ち、下着も着けていない裸体がさらけ出される。
小娘のくせに色仕掛けか。
「ロキ。私の処女をあげるから、なんでも言うことを聞いてくれる私だけの奴隷になって」
僕は本来ならばアイファのような小娘は好みではない。
奴隷だとか言っている女はなおさらである。
しかし、今の僕は普通の状態ではなかった。
先ほどまで僕は餓死寸前だったのだ。
人間は死の危機に瀕すると子孫を残そうとする本能が強く働くそうだ。
端的に言って、僕はムラムラしていた。
この小娘の奴隷になどはなるつもりは全くないが、少しだけならばこいつのために働いてやってもいいかもしれない。
だから処女はもらう。
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