閑話1(閑話は主にロキがいなくなった国の様子)

 ドミトリー王国の元副将軍ケニウスはクーデターのどさくさに紛れて将軍を殺害し、その地位を奪い取ることに成功していた。

 現在は精霊術師ロキ・ウォーレンが暮らしていた離宮を捜索している途中である。

 捜索というよりも家探しだろうか。

 略奪と言い換えてもいい。

 ロキの持ち物を片っ端から自分の物とする権利を、この男は革命軍のリーダーであるリグルという男から褒美として貰っていたのだ。

 この男が革命に協力したのはその実目先の利益のためだった。

 王が無能だの、民の声を聞かなかっただのはこの男が自分と部下を納得させるために作り上げている虚構の大義名分である。


「おい、なんだこれ」


「あん?なんかの魔道具か?」


「どうした」


「あ、将軍閣下。それが、何やら魔道具のようなものが壁にめり込んでやがるんです」


「壁に?」


 魔道具は非常に高価な代物だ。

 壁になどめり込まれては回収できないではないか、と男は憤った。

 だが同時に疑問に思う。

 なぜそのようなことをしているのか。

 持ち出し防止のためか、それともこの部屋自体になんらかの効力を発するものなのか。


「魔導士に調べさせろ」


「わかりました」


 ケニウスはその魔道具を絶対に自分の物としてやると思った。





「なに、封印具?」


「ええ、それは私が陛下から......いえ前王から命令されて作ったものです。なんでも精霊術師の力を弱めるためのものとか」


「それをロキ・ウォーレンの部屋に?おかしいではないか。あのお方、いやあいつは精霊術をバンバン使っていたぞ。曲がりなりにもこの国一番の精霊術師だった男だ。それがずっと力を弱められていたということか」


「実際に使われていたのかどうかは私にはわかりかねます。もしかしたら、ロキ様が謀反を起こしたときのための備えだったのかもしれませんし」


 ケニウスはなるほどと思った。

 精霊術師ロキ・ウォーレンの力をケニウスはちっぽけなプライドから認めたくはなかったが、客観的に見てこの国一番の脅威だった。

 ロキを国外追放にするため護送しているとき、ケニウスは生きた心地がしなかった。

 死なばもろともという気概で向かってこられたら王軍が全滅していたかもしれない。

 冗談抜きでロキという存在は一軍に匹敵する力を持った精霊術師だったのだ。

 王が恐れてそのような魔道具を用意していてもおかしくはない。

 ケニウスはその魔道具が使われることは無かったと判断した。

 そしてもしロキに匹敵する精霊術師が出てきたとしてもその魔道具さえあれば弱体化することができるとほくそ笑んだ。

 砂漠の真ん中に放置された温室育ちの精霊術師がまさか生きているとは誰も思いもしなかったのだった。

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