第27話 我輩 VS. 強者を従える者
我城に来訪者が現れた。
「強いっつうのはおめぇさんだな? 俺っちと戦おうぜ!」
その男は体が筋肉だけで構成されているかのような引き締まった肉体を持っていた。
スキンヘッド、太い眉、鋭い吊り目がいかにも好戦的な人間という印象を与えるが、黒い戦闘スーツが、好戦的なのは印象だけでないことを知らしめている。
こいつの前世は宇宙をまたにかけて傭兵をしていた戦闘民族だ。
女神のやつ、地球人では無理だと諦めて、宇宙人を転生させてきやがった。
「まあ待て。焦るな」
そう言ったのは我輩ではない。
今回の来訪者には、おまけが付いてきていた。
「お、おう。おめぇさんがそう言うなら」
「おい、玉座でふんぞり返っているおまえ、俺様の下僕になれ! そしてその席を俺様に譲れ!」
学生服を着た少年。言葉は強いが、根暗そうな容姿をしている。
センター分けの黒髪が目に刺さりそうなほど伸びており、耳周りと
こいつはY国に転生していた一クラスの生徒の一人、つまり我城を訪れた四人目の生徒だ。
我輩がY国にモノリスを落としたとき、ちょうど我城に向かっていて魔界入りしていたためにモノリスによる圧死を免れていた。
もちろん我輩はそれに気がついていたが、どうせ我城に来るからと放っておいたのだ。
こいつは女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》で《言葉で自在に人を操るカリスマ》になった。
この性質は人に命令して何でも言うことを聞かせられるような代物ではないが、人心を
「おい、聞こえなかったか? 俺様の下僕になれ!」
我輩が四人目の生徒を無視していると、再度要求してきた。
もちろん、絶対優位である我輩がこいつのカリスマに負けるわけがない。
「なぜ? なぜ我輩がおまえごときの下に付かねばならんのだ?」
自分のカリスマが通用していないというのに、こいつの顔にはいまだ確かな自信が貼り付いている。
コンプレックスが裏返って強みになったことで自信をつけたのはいいが、調子に乗りすぎて目が曇りきっているのだ。
「俺様には奇跡の力を持った手下がたくさんいる。俺様に逆らえば手下たちが総出でおまえに襲い掛かるぞ。そして何より、ここにいるのは俺様の最強の手下。おまえ一人ごとき――」
「あー、あー、ストップ。もういい」
我輩は小僧の能書きを止めた。
我輩はノータイムで処したくなるところを少しだけ時間を割いてやったのだ。これ以上、こんな
「おまえ、女神の説明をちゃんと聞いてなかっただろ。おまえより先に来た三人は我輩のことを分かっていたから、ある程度は
「どういうこと? なんで俺様に対してそんな偉そうにできるの?」
四人目の生徒はここで初めて自分のカリスマ性の影響が出ていないことに気づいたのだ。
あまりの愚かさに、こいつの
「我輩は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》だ。神をも遥かに超越した我輩という存在に対して、おまえごときが上に立てると思うのか?」
四人目の生徒は顔を青くした。
戦闘民族は隣でおとなしく待っている。
「で、でも俺様には強力な手下がたくさん――」
我輩はまた四人目の生徒の言葉を
「手下ってクラスメイトのことだろ? そいつらは全員死んだ。一人残らず。教師も含めてな」
「え、そんな……マジか……。でもこいつが――」
センター分けであらわになっている
「そいつのことはおまえより知っている。で、おまえは? おまえ自身は? 強いのはお友達なのに、なんでおまえが偉そうなの? いるよねぇ、親が政治家だとか、旦那が企業社長だとか、そういった自分の近親者やお友達でマウントを取る奴。でもそれを言っている本人は何も偉くないし、少しもすごくないからな。勘違いすんなよ。おまえが強者を腰巾着にしているんじゃなくて、おまえが強者の腰巾着だ」
噛みしめる唇、震える拳。
そして開き直った四人目の生徒は、我輩をビシッと指差し、戦闘民族に命令した。
「あいつをぶっ殺せ! 行け!」
開き直りの早さだけはカリスマ的だ。
戦闘民族が一歩前に出たところで、我輩がひと言放つ。
「止まれ。そっちの小物を先に処す。その後におまえの番だ」
戦闘民族は前に出した足を引いて床に腰を下ろした。
「そんな!」
四人目の生徒は首を突き出して目を丸くした。
自分の手下になったはずの戦闘民族が自分以外の者の言葉に優先的に従うとは思いも寄らなかったのだから無理もない。
「おまえ、自分のカリスマ力でそいつを連れてきたつもりだろうが、そいつはどちらにしろここへ来ていた。というか、我輩は今日、そいつを待っていたのだ。おまえはお呼びでない。消えろ」
我輩は四人目の生徒をZ国の下水菅の中に転送した。
そこは汚水で満たされているため、汚水を飲みながら
小物の処理が済むと、我輩は戦闘民族に声をかける。
「待たせた。おまえの用は我輩と戦うことだったな。さっき言ったとおり、我輩は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》だ。それでも戦いたいのか?」
そんなことを訊いてはいるが、気が変わったなどと言ったところで逃がしはしない。
もっとも、戦闘民族がどう答えるのかは知っているので、そっちの段取りを考える必要はない。
さあ、不快な時間が終わり、お楽しみの時間が始まる。
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