第12話 我輩 VS. 真の力をひた隠す聖女
我城に来訪者が現れた。
女性単身での来訪は初めてだ。
そいつは聖女だった。
聖職者らしく白いローブで全身を包んでいる。手には青い玉がはめ込まれた魔法の杖。
「はじめまして。わたくし――」
「知ってるよ。K国の聖女だろ?」
「……ええ」
聖女はムッとしたが、体裁をつくろって
まあ、我輩はこの聖女が心の内では「このガキ、聖女のわたくしの挨拶を
「で、何だよ。さっさと用件を言え」
我輩はそう言うが、もちろん、訊くまでもなく知っている。
「わたくし、和平交渉に来たんですのよ。どうか人類と魔族で――」
「おい。おまえ、他人に指図されたことをそのまま実行するだけの指示待ち人間か?」
再び我輩が話を遮ったので、聖女はさらにムッとした。
感情を抑えきれず、少し厭味を入れて言い返してくる。
「何がおっしゃりたいんですの? 人の話を最後まで聞きもしないで」
「おまえの話、お角違いなんだよ。我輩は魔族ではない。人類と魔族が争おうが仲良くしようが、我輩にはいっさい関係のないことだ。これから交渉しようって相手のことを全然調べてないじゃん」
「わたくしは魔王としか聞いていませんわ」
「魔王は我輩が殺した。けっこう前にな。情報のアンテナを張っとけよ。おまえ、我輩のことを失礼な奴とか思っているようだが、交渉相手の種族から間違えているおまえのほうがよっぽど失礼だからな」
「……それは申し訳ありませんでしたわ」
聖女は小さく舌打ちしてから謝った。我輩にはバッチリ聞こえているが。
「それともう一つ」
「何ですの!?」
聖女はヒステリック気味に返してきた。普段は「聖女様」と様付けで呼ばれているから、「おまえ」と呼ばれることに腹を立てている。
「おまえさぁ、バリバリに武装しておいて『和平交渉に来ました』はねーだろ。和平交渉したいなら丸腰で来いよ。その杖、おまえの自称すんごい魔力を存分に引き出すために必要な魔杖なんだろ? 話がこじれたら我輩を攻撃する気満々じゃん」
「これは護身用ですわ」
「おまえが我輩を攻撃したくてウズウズしてんの、我輩知ってんだけど。聖女として人々からの尊敬を集めていたいがために、いっつも正当防衛と称して相手に先に攻撃させてから反撃してるんだよな? しかもおまえのそれ、正当防衛じゃなくて過剰防衛だよ」
「…………」
聖女は押し黙った。ハラワタが煮えくり返っているが、何も言い返すことができない。なぜ自分の心の内が筒抜けになっているのか気になっているが、プライドのせいで素直に訊くこともできない。
「交渉は決裂したんだから、攻撃してくれば? 我輩を消してしまえば、誰もおまえから攻撃したなんて知り得ないんだから」
聖女の堪忍袋の緒がブチィと完全に切れて、鬼の形相で魔杖を我輩へと向けた。
「うるさぁああああああいっ!!」
聖女が放ってきたのは爆発魔法。杖の先から高密度エネルギー塊を放出し、それを爆炎で着火することで大爆発を引き起こす魔法。
部屋は閃光と高熱と爆音と爆風で満たされた。
聖女は魔法耐性の強いローブと魔法によるバリアで守られている。
「あら、わたくしったら、またやっちゃった? ちょっと魔法を使っただけなのに」
こいつはいつも、周囲から「いまのでちょっとだけ!?」と驚かれ、平静を装っていながら内心で鼻を高くしている。まさに自尊心の塊。
すっかり我輩を消し飛ばした気でいるようだが、やはり確かめもせずに自分の思い描いた結果を信じ込むところは実に浅はかだ。
「ずいぶん得意げだが、何をやったって? 粗相か?」
もちろん、我輩も無傷だ。膝の上に眠るモフも無傷だ。
爆発による光も熱も音も風も、すべて我輩の正面で遮断した。
「何ですって!? なんでいまので無傷なの!?」
だいぶ驚いている。ちょっと魔法を使っただけとか言っていたくせに、本心では
「いい加減、そのプライド捨てたら? 我輩の能力とか知りたくてしょうがないんだろ? ちなみにおまえのことは聞くまでもなく知っている」
この聖女はまるで自分の魔力がすごいかのように見せているけれど、実際のところは聖女の持つ杖がすごいだけだ。
この聖女は転生時に女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》で《無尽蔵な魔力》を欲した。それによって大気中のマナと呼ばれる魔力の源が見えるようになり、それらを利用して魔法を使うことができるようになった。
ほかの聖女や魔法使いは自分の中にあるマナを使うので魔力量に限界があるが、この聖女は自然界の力を使うので、魔力切れとは無縁で魔法が無尽蔵に使えるというわけだ。
もちろん、そのおかげで魔法一発の威力もかなり強いものとなる。
「はぁ……。あなた、何者なんですの?」
「我輩は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》だ。だからおまえがどんだけ強い魔法を使えようと、我輩には絶対に敵わないのだ」
「そんなのどうしようもありませんわ。
ここでふて腐れるなんて、自分の置かれた状況がまるで分ってないな。
こいつは単純に頭が悪いのだ。
「おい、人のことを殺そうとしておいて無事に帰れると思ってんの? どんだけ甘やかされて生きてきたんだ。温室で育てられた繊細なお花かよ。枯れて死ね」
聖女は目、鼻、口、耳、そして全身の毛穴からピューッと血を吹いて倒れた。
白いローブは真っ赤に染まった。
ミイラのようになった死体は、我輩が瞬間的な業火で焼き尽くして消した。
「あんなしょうもない奴を遣わせるなんて、K国もたいがいしょうもない国だな」
我輩は嫌がらせをしてからK国を潰そうと思ったが、こんなしょうもない国に我輩が少しでも手を
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