なづななコンビニエンス-コミュ症を極めた幼馴染がレジで「ふぁむチキください」を唱えることができず自宅で手作りし始めた件について-

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

第1話 嫁系幼馴染(コミュ障)

 私の幼馴染は凄い。


「なづななぁ~数学の宿題見せて」


「うん。机引っ付けよ」


「あ……シャーペンの芯が切れてる」


「はい。あげる」


 成績優秀で。


「オワタ……。今日体育なのに体操着忘れた」


「大丈夫。美羽ちゃんの分の予備あるから」


「さすがなづなな!」


 準備万端で。


「お昼。お昼。なづななお弁当」


「はい。美羽ちゃんの分」


「今日は唐揚げだ! なづななありがとう!」


 家事万能。

 おまけに可愛くスタイルもいい。

 なづななこと七十七奈々は、私――百瀬美羽の嫁である。

 ただし弱点が多し。


「あんたらさすがにおかしいやろ!」


「ひゃぁっ!」


 なづななはビクッと跳びあがり私の背に隠れた。

 大声でツッコミを入れた三刀屋舞歌がやっちまった表情で傷ついている。

 我が幼馴染はほんの少し人見知りだ。コミュ障をこじらせている。

 新しいクラスになって早二か月経過。私がいないところで、クラスメートと話しているのをまだ見たことがない。

 

 ツッコミ将軍の舞歌は顔が広くフレンドリー。お友達認定イージーモードの人材だが、あまり打ち解けてくれない。

 やはりノミの心臓たるなづなな嬢と毎日ツッコミという戦場で戦いに明け暮れる舞歌将軍では相性が悪いのか?


「マイカーおかしいってなにが?」


「……今ウチのことを乗り物扱いせんかったか?」


「そんなことなか。それで舞歌はなにが気に入らなくて声を荒げたの? なづななを私の背中にくっつけさせて、二人羽織でお弁当を食べさせようとする遠大な計画?」


「そんなわけあるか!」


「え……えーと。はい美羽ちゃん、あーん」


「あーん」


「本当に二人羽織開始しようとすな!? つーかそれただ単に後ろからあーんしているだけや! 二人羽織というのは二人で一つの羽織を被って、箸持つ方は前が見えないから成立するもんで――」


「――舞歌ズレてるよ。美羽なづなな夫婦漫才のダブルボケに呑まれてる」


 隣の席から眠たげな声で訂正が入った。

 常にテストで学年一位の四童子ルル様だ。今日も眠たげである。さすがは授業中に寝るためだけに、学年一位となり教師を黙らせた神童。眠気を催すことに余念がない。

 そんなルル様の机には三段重の弁当が置かれている。今日は和食だ。たまに瓶のジャムか餡バターと食パン一斤のときがある。


「せやなって……ルルあんたもおかしいからな」


「ん? 今日はちゃんとお弁当だよ。電動ホットサンドメーカーを持ち込んで、教室でアツアツのホットサンドを作ってない」


「ちゃうねん。職員会議で問題になって『電動の調理機材を弁当として校内に持ち込むのはやめましょう』って校則に付け足された件とちゃうねん。単純に量の問題でな」


「なづなな。右右。ちょっと行き過ぎ」


「ってあんたらはハンカチで目隠しして本当に疑似二人羽織始めんな! 自由人か!」


「えっ!? 私は両腕を封じて、なづななは視覚を封じたのに!?」


「ごっつ不自由人やな!? 訂正させてもらうわ!」


 舞歌のツッコミが教室に響く。

 誰も気にしない。クラスメートもいつものこととスルーだ。

 我がクラスは今日も平和である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る