第21話『本物か偽物か』

 ターゲットは白い服を着ている、とノイズと共に短い通信が入った。


 まだ日が高い今日の戦い。水色の空と荒野の茶色しかない世界で、白い服というのはあまりにも目立ちすぎではないだろうか。そんなことを考えながら、見張っているポイントに白が来ないか、兵士は視線を巡らせていた。


 眺めていた視界の端で、白がちらりと駆け抜けて行ったように見えた。見つけたと、自分の口角は静かに上がる。物音と気配を殺して、高台の建物の影に潜めば、スナイパーライフルの銃口を、未だこちらに気づいていない白に向けた。


 パシュリと音を殺し、空気を引き裂いて放った弾丸は進んでいく。

 ヒットだ、と白が崩れ落ちていく様を想像していたのに、


「は?」


 ぼうっと、大きな火柱に包まれてその白は消えた。



 この時、既に過ちを犯していた。目の前で起こる非日常的な光景に目を奪われ、自分の身の回りの確認を怠ってしまっていた。足音を殺したターゲットに、背後を付かれていた。


 これが、お望みだろ?という言葉と共に、何かが空気を引き裂く音。胸に強い衝撃。ばたりと倒れ込んだ時に見えたのは、自分の血の赤とまだ高い青い空。胸に手をやればひんやりと冷たい。何故なのか考える前に、意識が落ちた。


「氷でも殺せるんだよ」


 その言葉は、目の前の敵に届くことは無かった。




 ナギを連れて、近接戦を繰り広げていた。


 背中を合わせた時に伝わる人間でない温度は、今の彼が偽物だという俺にしか分からないこと。それでも動きは本物と狂いなく、目線だけの意思疎通も出来て、本物の彼と一緒に戦っているのと遜色なかった。


 敵の刃物がナギの腕にあたる。ポッキリと折れて落ちたそれ。

 切れ目からは、透明な薄青が覗く。


 ひぃと、敵が小さく悲鳴をあげた。氷?こいつ偽物か!と、繰り広げていた息をつく間もない近接戦がほんの一瞬だけ止まった。この戦いに蹴りをと、火柱でぐるりと自分の周囲を囲う。偽物の彼も、火の中で横たわったまま。


「そんな顔すんな。あいつは偽物だ」


 出来た人間の黒く焦げた死体など全く興味がなく、さっきまで偽物の彼がいた今は何も無い地面をじっと見つめていれば、斜め上から相方の声が降ってくる。どうやらそっちも片付いたらしい。




 ブースト剤のおかげで、何でも作り出すことが出来る。

 故に、今目の前に見える相方は本物か、偽物か、たまにわからなくなる時がある。


 ヒイロはおもむろに手を伸ばす。

 ……暖かい。ナギからは、生きている人間の淡いぬくもりが伝わってくる。


「ヒイロ、帰ろうか」


 伸びてきたその手は見なかったことにして。


ーーー


ヒイロ ブースト剤使用時

炎の使い+創造


ナギ ブースト剤使用時

水の使い+創造


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