第2章
第16話『隠し事』
「いたぞ!」
「全員、射撃用意!」
日の落ちた荒野。空は夕焼けが残って、濃いオレンジに染る。
政府の軍服を着た兵士らが、レイの周りをぐるりと囲んだ。
円のどこかで誰かが射撃用意と叫び、チャキっと銃が上がる音が揃った。
「撃て!」
発射の号令がかかる。発砲音はそれぞれ少しズレて。
迫りくる鉛玉。それでも円の真ん中から動こうとしないレイ。
背中に隠した彼の指がパチンと音を立てた時、この世界はピタリと止まった。
止まった世界の中、レイの足音だけが響く。
自分に向けられた鉛玉の方向を、逆に向けていく。これは手作業。
日に日に、鉛玉の数が増えている。
「能力者狩り、か、」
鉛玉を触りながら、小さな声が荒野に落ちた。
僕らは、知らないうちになにか悪いことでもしたのだろうか。
その悪いこととは、「大多数の普通」から逸れたことか、
それとも力を持ちながら生きていることか。
新しくこの地域の王座を手にしたのは、元西の地域の王を勤めていた人間らしい。普通から逸れることが、大嫌いなのだという。彼はきっと、勝ち目がないことに気がついていない。既に自分は死なないというのに。死なない自分が、そいつを殺しに行けばいい。
一つだけ鉛玉の向きを変えなかった。そのまま、また指を鳴らす。
動き出す世界と、次々に上がる血しぶきと、唸り声。
ピッと鉛玉が擦った頬がヒリヒリと痛む。
きっと赤い筋が入っているはず。
これは罰だ。
1回目、大切な人たちを守りきれなかったことに対する罰。
硝煙の香りに包まれながら、レイは今日も1人で戦う。
能力者が命を狙われる世界に変わってしまったことが、
どうか大切な人たちに気づかれませんようにと祈りながら。
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