後編 そしてその時は訪れた

 そしてその時は突然訪れた。



「心から好きな人ができた」


 突然のルイス様の言葉が私の胸に深く突き刺さった。


 あ、そっか。

 これが婚約破棄というやつなのね。


 私はだんだんとルイス様の言葉が自分の胸に響いてきて、その言葉は全身を蝕んで苦しくて涙が溢れそうになった。

 ダメよ、そうよ。

 この時を待ってたんだもの。


 この時を待ってた……。



 ルイス様はいつも優しくお茶に誘ってくださった。

 

 ルイス様はいつもその声で私を魅了した。

 

 ルイス様はいつも私の手を取って無邪気に微笑んでくださった。

 

 ルイス様は……ルイス様は……。




 私は必死に涙を抑えながら、そっと右手を胸の前に持っていって想いを込めた。

 すると、私の右手の中はぼわっと熱くなり、やがて温かく淡いピンク色の光集まる。


「リズ……?」

「ルイス様……」


 私はそっとその光をルイス様に向かって放つ。


「最後にあなたに魔法をかけるわ」


 その光はルイス様の胸元に入っていくと、ルイス様がわずかに温かく光る。


「リ……ズ……」

「さようなら、ルイス様。あなたが大好きでした」



 私はその言葉を告げると、そっと扉を開けて部屋から出る。

 すると思いが止まらなくなったように涙が止まらなくて、私が歩いた床を濡らしていく。



 私の治癒魔法は強力だから人生で一度きりしか使えない。

 発動条件は2つ。


 一つは「私がその人を好きであること」。

 

 もう一つは……「その人が私を好きでないこと」。


 今までお互いに好きだから使えなかった。

 だけど、これであなたの余命わずかだった身体を治してあげられた。

 あなたが好きだから、これから生きて好きな人と一緒になってほしい──





「リズっ!!!!!」

「──っ!」


 声のしたほうを振り向くと、そこには息を切らして追いかけてきたルイス様がいた。


「なん……で……?」



「君のことが好きになった」

「え?」


 ルイス様は私を抱きしめて耳元で語り掛ける。


「今まで親の決めた婚約者だからって思いがどこかにあって、リズのことを本気で好きになれてなかった。政略結婚なんだからって。だけど、段々と好きになっていって気持ちが収まらなくなった」


 ルイス様がさらに力強く私を抱きしめる。


「僕は君を本気で好きになった。だから言わせてほしい」


 私の身体をそっと離すと私の前で跪き、その美しい瞳が私を捕らえた。



「リズ、僕と結婚してください」



 どうして、私の欲しかった言葉を言えるの?

 私の魔法は確かに発動したはずなのに、どうして。


「リズは魔法を使って僕の身体を治してくれたんだね?」

「え、ええ。でも私の魔法は私を好きじゃない人にしか発動しない……」

「それは違うよ、リズ」

「え?」

「その魔法はお互いに想いあっていることが発動条件だ」

「うそ……でもなんでルイス様が魔法の発動条件を知ってるのですか?」

「僕の母親も同じ魔法が使えて、それを父上に使ったからだよ」


 父上ってことは国王様。それに亡くなった王妃様が同じ魔法を使っていた……。

 じゃあ……。


「リズ」

「は、はい」

「私と一緒にこれからもいてくれますか? 隣でずっと、ずっと私と共に歩んでくれますか?」


 そんなの答えは決まってるじゃないですか。


「ええっ! 喜んで!!」

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最後にあなたに魔法をかけるわ 八重 @yae_sakurairo

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