第68話 恭平は過去を少し思い出す
僕は清華さんを近くの長椅子に座らせて、パンプスを脱いでもらった。
清華さんの白く芸術品のような美しい足に見惚れないように注意しながら、僕は患部を見た。
「うん。赤くなってるけど大したことないかな。これなら絆創膏を貼って安静にしてたらすぐに治るよ」
跡が残るくらい擦れてたらどうしよう……なんてちょっと大袈裟な考えもよぎったけど、本当に大したことなくてよかった。
「ですが、絆創膏なんて持ってません」
清華さんはそう言って、しゅんとしてしまった。清華さんが気に病む必要はないのになぁ。
「大丈夫だよ」
「え?」
僕は持っていたバッグに手を入れてゴソゴソと目当てのものを探す。
「あったあった」
僕がバッグから取り出したのは大きめの絆創膏だ。何かあったときにいつも持ち歩いていたんだけど、それが功を奏したみたいだ。
「もしかして恭平さんは、いつもそういったものを持ってるのですか?」
「そうだね。大体は持ち歩いてるかな」
「……」
清華さんは少しの間、口を開けて驚いていた。こんな表情するのは珍しいな。
だけど清華さんは、すぐに目を細めて笑った。
「やはり恭平さんは……頼りになりますね」
「え?」
僕が頼もしい? そんなの初めて言われたんだけど。
「いやいや! 僕なんて全然頼りないでしょ!? それを言うなら、竜太みたいな人にだよ」
実際、僕は何度も竜太に助けてもらった。小さい時も、この間の瑠美夏とのことだって……。
「確かに坂木さんは頼りになると思います。ですが、わたくしは恭平さんこそ頼りになる方だと確信しています。それこそ、坂木さん以上に……」
「っ!」
どうして……どうして清華さんはこんな僕のことを?
だって、高校入学から僕は清華さんとはほとんど喋ったことはなかったし、それこそ頼りになる場面なんて僕の知る限り見せた覚えはない。
だけど、清華さんは嘘をついていたり、その場の雰囲気で言ってるわけじゃない。本心で言っている。
でも、なぜ……?
「と、とりあえず、この絆創膏を貼るね」
「はい。お願いします」
僕は清華さんの患部に絆創膏を貼ろうとして───
「!?」
───直前でその手を止めた。
僕の脳裏に、子供の頃のある記憶が呼び起こされた。
確か……今みたいな、女の子の足を手当てしたことが……ある、気がする。
あれは……小学生の時、夏休みで……可愛い女の子だったはず。
治療が済んだあと、その子の名前を聞いた気がするんだけど……思い出せない。
「恭平さん?」
「えっ!?」
考えたのはそこまでで、なかなか絆創膏を貼らない僕を不思議に感じた清華さんによって現実に引き戻された。
僕は視線を清華さんの足の患部から清華さんの顔へと上げた。
清華さんはなかなか絆創膏を貼らない僕を不思議そうに見ていた。
「どうされたのですか?」
「な、なんでもない! 今、貼るから……」
僕は動揺を隠し、心を落ち着かせてからそっと清華さんの患部に絆創膏を貼った。
「ありがとうございます恭平さん。やはり恭平さんはすごく頼りになる方です」
「そ、そんなこと……」
「謙遜なさらないでください。こんなに早い処置は、絆創膏を常備していた恭平さんじゃないと出来ないことですから、もっと自分を誇ってください。わたくしは今、そんな恭平さんとデート出来てとても嬉しいです」
清華さんの言葉が、そして笑顔が、僕の中に染み込んでいき、僕の中の清華さんに対する想いがさらに大きくなる。
顔が熱い……心臓の鼓動も早くなっている。
もう、気持ちを抑えるのも限界に近い。
「清華さん……ありがとう」
僕が清華さんへの告白を決意した瞬間だった。
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