第66話 恭平は格ゲーをプレイする

 ゲームエリアの奥へと進み、僕はそのゲーム筐体の数に目移りしていた。

 このエリアの出入口には、ファミリー層にも手が出しやすいクレーンゲームが多く並んでいたけど、奥に進むにつれ、メダルゲームやプリクラ、ガンシューティングや格闘ゲームの筐体が多くなっていった。

「いろんなゲームがありますね」

「本当だね」

「恭平さんはこういう場所にはよく来るのですか?」

「ここ数年は全くかな。小学生の頃は竜太たちとよく来ていたけど」

 竜太と少し濁してしまったけど、その中には当然、瑠美夏もいたからなんだけど……。

「そうなのですね」

 清華さんは一言だけ、そう返した。

 その表情から、瑠美夏もいたとわかっているみたいだ。

「……では、今日は当時恭平さんが遊んでいたゲームをしましょう」

「でも、何年も前だからきっとそのゲームはないよ」

「もしかしたら後継機があるかもしれません。それを探してみましょう!」

 そう言って、清華さんはエリアの奥へと歩を進めてしまったので、僕もそれに続いた。


「あ、これ……」

 僕たちが今いるのは格闘ゲームの筐体がある場所。そこで当時やっていたゲームのナンバリングを見つけた。

『クロスファイター6』

 これは、キャラクターの中から二人を選択し、CPUと対戦して先に二人とも倒した方の勝利となるゲームだ。

 基本は一対一なんだけど、控えのキャラと交代できたり、控えが相手を攻撃したりも出来る。

「このゲーム、やったことがあるんですね?」

「そうだね。といっても当時は3だったけどね」

 多分仕様も大分様変わりしてるんだろうなぁ。

「やらないのですか?」

「う~ん……久しぶりすぎて操作を忘れてるかもだし、これだと清華さんを待たせてしまうことになるからさ」

 それに、格闘ゲームが苦手な女の子もいるだろうし、それだったらもっと清華さんの興味を引きそうなゲームを選ぶべきだと思う。

「ありがとうございます……。ですがお気遣いは不要ですよ」

「え?」

「わたくしは、恭平さんのゲームをしているところを見たいのですから。それに、このゲーム自体も面白そうですから、ぜひ見せてください!」

「っ!」

 そ、そんなことを言われたら、さっきの君塚君の言葉が嫌でも頭の中で反芻してしまう。

 ダメだ。落ち着くんだ上原恭平。

 清華さんはこのゲームに興味があるだけなんだ。『聖女』が僕に惚れてるなんて思い上がりも甚だしいぞ!

「じ、じゃあ、一回だけ……」

 僕は心を落ち着かせながら椅子に座り、財布から百円を取り出して筐体に入れた。

 あ、3までのキャラもいるから今回はその中から選ぼうかな。

 僕は以前にも使っていた、長い金髪を後ろでひとつに束ねたイケメン、ケニーと、黒髪ロングな和装美女キャラ、千歳ちとせを選んだんだけど、僕は千歳を選んだあとで気づいた。

「あら? このキャラクターって……」

 清華さんも気づいてしまったようだ。

 この千歳ってキャラ、顔こそは違うが、外見は清華さんのそれに近い抜群のプロポーションを持った美女だ。

 清華さんがいるから選んだんじゃなくて、僕は本当に以前からこの千歳を使っていたから、何も気にせずに選んでしまったがそれがいけなかった。

 そうして始まった第一戦。最初はCPUが弱く設定されているので、ブランクもあり少し苦戦したけど勝利した。

「……」

 うしろで清華さんがソワソワしている。

 第二戦も勝利。ケニーは倒されてしまったけど、千歳で勝利をおさめた。

 清華さんが見ている手前、なんとか千歳は倒されないようにしないと。

「…………」

 清華さん……やっぱりソワソワしてるな。

 第三戦もケニーは倒され、千歳も体力ゲージギリギリで勝利。

 クロファイって、CPUはここまではまだ弱い方なんだけど、次から難易度が上がるから、多分次で負けてしまうかな。

「…………」

 清華さんは千歳の活躍を後ろで一喜一憂しながら見ている。

 続く後半戦最初の第四戦。CPUのレベルも上がり、やっぱりここで負けてしまった。

「惜しかったですね」

「ブランクがあって後半戦までいけたのなら上出来かな? じゃあ移動しようか」

「は、はい」

 僕たちはまた移動を開始したけど、やっぱり清華さんはソワソワしたままだった。

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