第46話 上原恭平と君塚康太①
僕が彼と一緒に入ったのはハンバーガーショップ。
彼が僕の分も奢ると言ってきたので、断ろうとしたら『あの時の詫びをさせてくれ』と、彼も頑なに譲らなかったので、僕がお礼を言い折れることにした。
そうして窓際に対面で座った僕たち。逃げ場がないこの状況はかなり気まずい。
「そういやまだ自己紹介してなかったよな? 俺は君塚康太。お前と同じ高校一年だ」
あ、同い年だったんだ。
「僕は上原恭平です。その……よろしく」
「おう。よろしくな」
そう言って彼はニカッと白い歯を見せて笑った。
竜太とはタイプが異なるイケメンだ。
「早速だけど上原。……その、この前は本当にすまなかった!」
君塚君がいきなり頭を下げてきた。僕たち同様の学校帰りの生徒がちらほらいるから目立つ。
「ちょ、頭を上げてよ!」
僕が慌てた感じで言うと、彼はゆっくりと頭を上げた。
「いや、俺が小泉に加担してお前にやったことは、マジで許されることではないから……」
「悪いと思ってるなら、普通に接してよ」
彼はそういう義理や人情……っていうのかな? そういうのを重んじる性格なのかもしれない。
「それで、君塚君はどうして瑠美夏と一緒にあんなことをしたの?」
僕はいきなり本題……君塚君が頭を下げることになった当時の経緯を聞くことにした。
「小泉とはSNSで知り合ったんだ。それで、『私の彼氏面するウザイ奴がいるから、そいつの立場を分からせるために彼氏の振りをしてくれ』って頼まれてな」
「そう、だったんだ」
『ウザイ奴』、か……。
もう決別したはずなのに、どうしてこんなにも心が痛いんだろう?
「俺は特に考えもせずに小泉の頼みをのんだ。正直少し楽しみでもあった。だがまさか……あいつがあそこまでするとは思わなくて……」
君塚君は、僕を軽く懲らしめる……そんな程度に思っていたはずだ。だけど、あの日に瑠美夏がしたことは……。
「結果、お前の心をズタズタにしちまった。上原、本当にすまん!」
「だから頭を上げてってば!」
僕も君塚君の立場ならそうしていたと思うけど、やられる側としては時と場所を考えてほしい。
「それから……」
「なに?」
君塚君はまだなにか言いたいことがあるみたいだ。表情から謝罪ではないみたいだけど……。
「あの日食ったお前のカレー……めちゃくちゃ美味かった。その、勝手に食ったのは悪かったけど、ありがとう」
「っ! ど、どういたしまして……」
突然お礼を言われてびっくりした。
でも、やっぱり自分の作った料理を『おいしい』と言われるのは嬉しいな。
「とにかくだ。今日俺がお前に言いたかったのは、この前の謝罪とカレーの礼。そしてあと一つあるんだ」
『カレーの礼』ってダジャレかな? なんて思うくらいには緊張がほぐれてきた。
「あと一つ?」
「ああ。お前には迷惑かけちまったからな。小泉になにか仕返しをするなら俺にも言ってくれ。なんでも力になるからよ」
「仕返しって……」
僕は、そんなつもりはないのに。それに……瑠美夏とは、もう……。
「仕返し、しねーのか?」
「う、うん」
「お前……俺が言うのもなんだが、あれだけのことをされて悔しくないのか?」
「悔しいっていうよりは、やっぱりショックの方が強かったかな。それに、僕が瑠美夏を憎んでいたとしても仕返しなんてしないと思う」
「…………」
「それに、瑠美夏とは、もしかしたらもう話すこともなくなるかもしれないから……」
「どういうことだよ?」
僕は、今日の昼休みの瑠美夏とのやり取りを君塚君に話した。
「マジかよ」
「うん。本当だよ」
「…………」
君塚君は僕の話を聞いて、顎に手を置いて何かを考えているようだった。
瑠美夏の件は一応の決着はついてるので、多分君塚君と関わるのもこれっきりだと思っていた。だけど───
「なら、お前の言うことをなんでも一つ聞く!」
「へ?」
君塚君の言葉に僕は素で驚いてしまった。
「ど、どういうこと?」
「言葉通りの意味だ。謝罪だけしたんじゃお前への償いは果たせてない! 小泉へ仕返ししないとなると、俺がお前にできることはこれぐらいだ。だからなんでも言ってくれ」
僕の意見を聞かずに、君塚君は一方的に自分の意見を言ってくる。
「でも、突然なんでもって言われても……」
正直困る。ちゃんと話したのも今が初めてだし……。えっと、えっと……。
「別に今言えとは言ってないさ。お前が俺に頼みたいことが出来たら言ってくれ。その時はお前の力になるからよ」
「う、うん……」
多分僕が何を言っても君塚君は折れないと思ったので、僕が彼の言うことをのむことにした。
それから僕達は連絡先を交換した。もちろん君塚君主導で。
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