第20話 上原恭平は親友の家で目覚める

 翌日の朝、小鳥のさえずりで僕は目が覚めた。

「ん、……ん~」

 僕は布団に潜ったまま、背伸びをした。

 上を見ると普段とは違う天井があり、僕は昨日のことを思い出した。

 そうだ。僕は竜太の家に泊まったんだった。

 昨日、学校を無断で休んだ僕を心配して、放課後に僕の家に来てくれた竜太。

 瑠美夏との間に何があったのかを話したら、竜太は真剣に怒ってくれた。

 そうして僕は、瑠美夏が帰ってくる前に、最低限の荷物をまとめて竜太の家に厄介になったんだった。

 本当、口は少し悪いけど、友達思いの親友を持てたことは嬉しい。

 時刻を確認すると、朝の六時半だった。

 いつもならとっくに起きて、瑠美夏の朝食を作っている時間だ。

 瑠美夏、大丈夫かな? 昨日は冷蔵庫に食パンがあったから今朝はなんとかなると思う。

 でも、夕食は……。

 やっぱり夕食は作った方が……。

「何考えてんだ?」

 僕のやや上の方から竜太の声が聞こえてきた。

 竜太が寝ているベッドを見ると、竜太は顔を覗かせていた。その表情は、僕を少し睨んでいた。

「お、おはよう竜太。その、瑠美夏は、夕食どうするんだろうって……」

「おはよう。って、お前。一昨日あれだけの事をされて、まだあの女のことを考えてるのかよ!?」

 やっぱりというか、竜太は少し呆れている様子だった。

 そうだよね。一昨日、瑠美夏が僕にしたことを考えたら、距離を取って放っておくのがベストなのはわかってる。

 でも、僕の中にはまだ瑠美夏への大きな恋心が残っている。好きな人の心配をするのは当然だと思うんだけど。

 竜太は嘆息して、ガリガリと頭をかいた。

「いいか恭平。お袋にも伝えてあるけど、今日、お前は放課後になるまでこの家から出るな」

「え? どうして……」

「お前、この後あの女の家に行って晩飯を作ろうと考えてるだろ?」

 竜太はあっさりと僕の考えを当てた。さっきそれっぽいことを言ったから、見透かされて当然か。

「お前はしばらくあの女の家には近づくな。今日、あの女が帰宅してリビングにお前の作った料理が置かれていたらどうなると思う? あの女はさらにつけあがるに決まっている。お前の気持ちも、まぁわからんでもないが、今は心を鬼にしろ。じゃないとあの女は何も変わらない」

 竜太の言うことはもっともだ。

 今の瑠美夏は、僕を彼氏とは見ていない。いや、それは僕の勘違いだったからいい。

 そう思った僕の胸がズキリと痛んだ。

 瑠美夏は僕を幼なじみとしても見ていないのかもしれない。一昨日も「不本意」なんて言っていたし。

 僕って、瑠美夏にとって何なんだろうな。

「わ、わかった」

 僕がここで抗議しても、竜太の考えは変わらないと思った僕は、竜太の案を受け入れた。

 いや、そもそも抗議する気力も削がれてしまっていたんだけど。

「悪いな恭平。でも、放課後はクラスの奴らとパーっと遊ぶからよ。放課後になったらお前もカラオケに集合な?」

「わ、わかった」

 正直、カラオケはあまり好きではない。歌うのが得意ではないから、僕はいつも聞き役に徹していた。

 でも、竜太以外にもクラスのみんなが僕を心配してくれているのは、嬉しかった。

 今日のカラオケは、いつもより楽しめそうな、そんな気がする。

「さ、とっとと朝飯食おうぜ」

「うん」

 僕は竜太と一緒にリビングに移動した。

 起き上がった僕の身体は、普段とは比べ物にならないくらい軽かった。

 ここ何ヶ月も、こんなにぐっすり寝たことはなかったから……。



 竜太が学校に行った後は、おばさんの家事の手伝いをしたり、竜太の部屋に戻ってテスト勉強をした。

 今日、カラオケに誘ってくれたのは嬉しかったけど、テストは再来週に迫っているのに、それなのにカラオケに行って大丈夫なのかな?

 まぁ、まだ日はあるから、そこまでネガティブに考える必要もないかな。

 それにしても、瑠美夏……ちゃんと朝ごはん食べたかな? お昼はどうするんだろう? コンビニ? 学食?

 宿題もちゃんと出来たのかな? 竜太が宿題のこと、何も言ってこなかったから昨日も宿題は出なかったのかもしれないけど、やっぱり心配だ。

 僕の心の中には、やっぱりまだ瑠美夏が大きく残っていた。

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