第21話 上原恭平はクラスメイトとカラオケへ

そして時間はあっという間に過ぎ、放課後になった。

竜太からメッセージが来たので、僕は制服に着替えてカラオケに移動した。

みんなは学校が終わってカラオケに直行するから制服だ。それなのに僕だけ私服なのも変かなって思ったので制服で行くことにした。

カラオケ店に到着しても、まだみんなの姿は見えない。どうやら先に着いてしまったようだ。

五分くらい待っていると、クラスのみんなが到着した。

「よう、恭平。待たせて悪かったな」

竜太の後ろにはクラスメイトが十人くらいいた。みんな僕の心配をしてくれてたのかな? そう思うとなんだか嬉しくなる。

「!」

僕は竜太のすぐ隣にいる人を見て驚いた。

あの『聖女』と呼ばれている柊清華さんがいるからだ。

真面目な柊さんがカラオケに、それもテスト期間中に来るなんて信じられなかった。家が大きいって聞いてるから、てっきりこういった場所には無縁で、自宅でもっと優雅なプライベートを満喫しているのかと思った。

「みんな、ありがとう」

僕は来てくれたクラスメイトにお礼を言った。

「上原、大丈夫か?」

「そうだよ。元気そうにしてるのに、なんだかやつれた感じがしてたから」

そうやって、みんなが心配し、声をかけてくれた。

瑠美夏の話題が出なかったのは、多分竜太以外は僕と瑠美夏の関係を知らないから。瑠美夏に言われて隠していたから。

そう思うと、僕の胸がまたズキリと痛んだ。

「上原君、大丈夫? やっぱり体調が悪いんじゃ……」

「だ、大丈夫だよ! ごめんね」

「謝るなよ上原。今日は楽しく歌おうぜ!」

「こいつは今ちょっと精神的にまいってるからな。しばらく休むが、それが一日でも短くなるために今日はパーッと歌おうぜ!」

みんなの言葉が胸に染み渡る。クラスの三分の一程のみんなが、僕を心配してくれていたのか。

「よっしゃ! みんな、さっそく行こうぜ!」

竜太の掛け声にみんなは「おー!」と続き、僕達は店内に入った。


「恭平、驚いたかよ? 予想より多い奴らがここに来て」

「う、うん」

僕たちに割り当てられた部屋への移動中、竜太が声をかけてきた。

「まぁ、俺も驚いた。でもこの中でお前を心配してるのはせいぜい半分いればいい方だな」

「そうなの?」

「おぉ。他の奴らは単純にカラオケを楽しみに来た奴らがほとんどだろうしな」

それでも、僕は嬉しいよ。こんなに大勢来てくれて、今日は楽しいカラオケになりそうだという気持ちが溢れて、少しだけど高揚している。

「でも、みんなテスト勉強大丈夫なのかな?」

「それはこいつらもわかってるだろ。……現実逃避しに来てる奴らもいそうだが」

「竜太はテスト大丈夫そう?」

「俺はいつも平均点は取ってるからな。いざとなったらお前を頼るかもしれん」

竜太はバスケに力を入れているけど、勉強を疎かにするタイプではない。

普段から授業は真面目に聞いているし、予習復習も瑠美夏の家のことをした後にやっていたから、間違っても赤点を取るなんてことはないくらいの学力はあると思ってる。

「その時はいつでも言って」

「悪いな」

そう言いながら、竜太は部屋のドアを開けた。

部屋はとても広く、僕達全員が入ってもまだ余裕がある広さだった。

「恭平、お前は奥な」

僕は竜太に言われるがまま、奥の席に座った。

みんなも各々適当に席を決める。

「飲み物持ってこようぜ」

クラスメイトの男子の一人が言い、それに呼応するかのようにみんなも貴重品以外を置いてドリンクバーに行こうとするので、僕も席を立って移動しようとした。

「待て。恭平は立たなくていい。お前の飲み物は俺がとってきてやるよ」

竜太に制止され、僕は再び腰を下ろした。

「で、でも、それじゃあ竜太に悪いよ」

「今日お前はゲストで、俺たちがホストなんだから、そんなん気にしないで座ってろ」

「…………いや、やっぱり」

少しの逡巡の後、やっぱり取りに行ってもらうのは悪いと思って席を立った。

「お前ならそう言うと思ったからちゃんと対策もしてあるんだよ。柊さん、頼む」

「わかりました。きょ……上原さん。失礼します」

「!?」

竜太の合図で、柊さんが僕の傍にやってきた。

ちち、近い! 多分、お互いの隙間は十センチもないぞ。それに、これだけ近いと柊さんから漂ってくるすごくいい匂いがダイレクトで僕の鼻腔を刺激してくる。

これは良くない!

というか、柊さんは竜太に言われたからといっても、こんなに僕と近くにいて嫌ではないのだろうか?

柊さんは学校では『聖女』と呼ばれているから、怒ったところなんてもちろん見たことない。学校での彼女しか知らないからかもしれないけど、とにかく誰に対しても柔和で優しく対応している。

だから男子女子問わず絶大な人気がある。

柊さんの様子を伺うに、どうやら嫌ではないみたいだ。

だけど、なんか顔が赤いような……。

きっとこれだけ異性と近づくことはないから恥ずかしがっているんだろう。それならもう少し距離を開けて座ってもいいのに……。

それに今日は五月前半にしてはけっこう暑い。正直薄手でも問題ないくらいだ。

だけど柊さんはカーディガンまで着ているから、それはさすがに暑いよね。

……ただ、そんな厚着でも柊さんの胸はしっかりと主張していて目のやり場に困る。なるべく下を見ないようにしないと。

「柊さん。恭平が何か手伝おうとしてないか見張っててくれ」

「ええ。お任せ下さい」

竜太と柊さん。息ぴったりな気がするな。そんなに仲良かったっけ?

「恭平。お前何飲む?」

これは動けないと思った僕は、素直に竜太に頼むことにした。

「じゃあ、りんごジュースで」

「わかった。ちょっと待ってろ」

そう言って、竜太もクラスメイトと一緒に部屋を出て行った。

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