第10話 『悪女』は計画を実行する その裏側

 ふふっ、上手くいったかしら?

 さっきのあいつの顔、傑作だった。

 中三の頃からずっと私と付き合っていたと思っていたなんて、どんだけ勘違いしてるのよ。

 中学からの私が好き好きアピール……それが本当にウザかった。

 ことある事に私に話しかけてくるし、あれだけ冷たい態度とってるんだから察しなさいっての。

 確かにあいつは私に良くしてくれる。私のご飯を作ってくれるし、こっちの家の家事もしっかりやってくれて、宿題も私の代わりにやってくれるのはありがたいって思わなくもないけど、それでも付き合ってるとかは違くない?

 付き合うならもっと男らしいイケメンで、私を引っ張ってくれる人じゃないとね。

 あいつは……うん。ペットね。

 どんなに冷たい態度をとっても、どんなにいじめても、それでも私が好きな忠犬みたいな存在。

 大好きな私には決して牙を向かない従順なペット。

 そう思うとしっくりくる。

 これからも私の為にしっかりと家事も宿題もやってよね。私のペットちゃん。

「……しかし、お前もえげつねーな」

 そう私に言ってくるのは、さっき私の彼氏君塚きみづか康太こうた

 SNSで知り合った他校の生徒。本当に付き合っている訳では無い。

 さっきあいつに見せたキスももちろん振りだ。こいつは別にタイプではないし、チャラついているから恋愛対象としては全く見れない。

「いやー、あいつが私の彼氏って勘違いしてるのを見るのそろそろ限界だったから」

「だからってここまでするかよ」

 君塚は渋い顔をしながら言ってくる。

「まぁいいじゃん。それより手伝ってくれたお礼にこのカレー食べて良いよ」

「……でもこれ、さっきの奴の分じゃねぇの?」

「いいのいいの。遠慮なく食べちゃって」

 私はそう言ってにやりと笑った。

「本当にエグイなお前。そんなんだから『悪女』なんて呼ばれんじゃねぇの?」

 私は教室では大人しい性格で通っているけど、私の本性を知っている奴らは決まって私をそう言ってくる。

 あいつに身の回りの世話をさせているのに私はあいつに普段から冷たい態度をとり、今日みたいなイタズラを仕掛けてあいつのリアクションを楽しんでいるから。

 普段はここまで重いイタズラはしないよ。もっと軽いやつ。

 でも、この後に考えているイタズラは、さっきのキスのフリよりもっとショックを受けるだろうな。あいつのリアクションが楽しみだ。

「言いたい奴には言わせとけばいのよ」

 私に対して文句を言える資格があるのはあいつだけ。だけどあいつは私が大好きだから私に口答えする度胸なんてないのよ。

 あいつの用意した夕食を食べ終え、食器はそのままにして、私の部屋に向かった。

 こいつを部屋に入れるのは正直嫌だけど、この後の作戦のために仕方なく入れた。

 私の部屋からあいつの部屋が見えるのだけど、あいつの部屋は明かりがついてないけど、まあ部屋にいるでしょ。

 まだ部屋で泣いてるのかな?


 でも、本番はここからだよ。


 私は自分のベッドに乗り、膝立ちをして激しく揺すった。

 何度か揺すっていると、ベッドからギシッと言う音が聞こえた。

 あいつの部屋を見ると、あいつらしき人影が見える。

 微動だにしないところを見ると、さっきの音は聞こえていて、ショックで固まってるみたい。

 私はベッドをリズムよく揺すり、ギシッギシッと音を出す。

 これを聞いてきっとこう思うだろう。


 私とこいつがセックスをしているのではないか、と。


 もちろんそんなのは死んでもゴメンだけど。

 私がこの身を捧げるのは、私が心から愛した人だけ。

 あいつの影は……まだ動いてない。どんだけショックを受けてるのよ。

 まぁ、あんなのでも好意を向けてくれるのは悪い気しないけどね。

 さて、もう一押しかな?

 私は自分のベッドをギシギシと揺さぶりながら、あいつから見えない位置でスマホを操作する。

 そして、音量を上げて、ある動画を再生する。

『ん……あっ』

 スマホから女の嬌声が大きな声で聞こえてくる。

 私は男女の営み的な動画を流している。

 ネットにはこういう動画もゴロゴロ転がっているし、DVDの公式販売サイトなんかに視聴動画もあるので今回はそれを使った。

『あなたは十八歳以上ですか?』なんて文字が表示されたけど、そんなもの『YES』を押すに決まってるでしょ。

 そこから適当な動画のサンプルを再生してあいつに聞かせている。

 少し流したら、突然あいつの部屋のドアが勢いよく開く音が聞こえてきた。

 ショックでも受けたのかしら?

 私は「もういいや」と思い、動画を消してベッドに普通に腰掛けた。

「お前……いくらなんでもここまでするか?」

 君塚が分かりやすくドン引きしている。

「いいのよ。これであいつが私と付き合ってるなんてバカな勘違いをしなくなるでしょ?」

 まぁ、多少やりすぎた感はあるけど、こうでもしないとあいつは勘違いをしたままだろうし、これでいいのよ。

 ちょっとメンタルやられたと思うから私の家の家事は明日一日お休みをあげて、明後日からまたやってもらうことにしましょ。

 作り置きのカレーもあるから食料には困らないわ。

『うぁ……うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 隣の家の一階で男の泣き声が聞こえる。多分あいつの泣き声ね。

 これしきの事でこんなに泣くなんて……女々しいったらないわ。

 まぁ、あんな奴でもそれだけ想われていたって思ったら少しは気分いいけど。

「俺、帰るわ」

 そう言うと君塚はそそくさと帰って行った。

 勘違いの幼馴染から解放されてスッキリした。

 じゃあ忠犬君。また明後日から私の家の家事、よろしくね。

 私はもちろん家事はしないから、二日分の量が溜まると思うけど、あんたならこれくらい楽勝でしょ?

 それじゃ、おやすみ~。

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