第22話
ランヴァルドさんからは、くれぐれも”忍者”の事は秘密にするように念を押された。<遁術>というスキル名についてもできれば知られない方が良いらしい。魔法の研究者なら知ってる人もいるかもしれないとの事。
その後、依頼完了手続きをして、金貨10枚という大金を頂いて(すぐに預金口座に預けた)帰って来た。
「ただいまぁ~」
宿の部屋にトボトボと入っていく。
「おかえり~、ってまた財布スられたの?」
とナタリーさんに驚かれた。
「いいえ、財布は無事です。はぁ~」
「ちょっとちょっと、どうしたの?」
う~ん、”忍者”については話せないけど、でも話は聞いてもらいたい。
ナタリーさんに差支えのない範囲で話した。
「はぁ~、つまりノア君のその異常さに目をつけられて、色んな人に狙われるかもしれないって事か。凄い話になったのね」
「はい。明日またギルドに行って、今後の事を話すことになってます」
「そっか。よし、明日はお姉さんも一緒に行ってあげよう」
胸をポムっと叩いてそう言ってくれた。
「えっ!でも、その~、色々と秘密にしなきゃならないことがあって」
「必要なら魔法契約も結ぶから。ノア君を一人にしておけないよ、そんな状況じゃ」
うぅっ、ナタリーさん。
「危険な目に、遭うかもしれませんよ?」
「私の知らないところでノア君が危機に陥るより全然いいよ」
僕は頷くしかなかった。ありがとう、ナタリーさん。
「それじゃあ、今度はこっちの話も聞いてもらおうかな」
ナタリーさんが空気を変えるように明るい声で話し始めた。
「何ですか?」
「んっふっふ、じゃーん!」
とステータスプレートを見せられた。
レベル25となっている。
20でベテランと言われるから、かなり高い方だよね。それで?
「レベル上がったのよ!凄いわ。もう2年間ずっと上がってなかったのに、この二日間の特訓だけで、上がったの!」
満面の笑みでナタリーさんが喜んでいる。
「わぁ、おめでとうございます!」
「ありがとー!これもノア君のおかげだよぉ~」
「むぎゅ」
思いっきりハグされて息が詰まった。
その晩は、レベルアップをお祝いするために、僕が夕食を奢った。
ナタリーさんは「先輩だから」と渋っていたけど、最後は折れてくれた。
僕も1杯だけお付き合いした。昨日の事を反省してそれ以上は飲まなかったぞ。
宿に戻って、ナタリーさんの抱き枕になるのもお祝いの一環だ。
「暑い~」
と言って、どんどん脱いでいくナタリーさんを止めようとしたが、力の差がありすぎた。
「むぎゅ」
ナタリーさんが熟睡して腕が緩むまで、僕は悶々としながら耐えていたのだった。
翌朝。
隣のベッドを見るとナタリーさんは既に起きていた。もちろん服を着ていた。
「おはようございます」
「あ、おはよ~。昨夜はごめんね、私、酔っぱらうと脱ぐ癖があるみたいでさぁ」
「い、いえ、大丈夫です」
全然大丈夫じゃなかったです。
身支度を整えて冒険者ギルドへ。
ランヴァルドさんの執務室へ直行だ。
「やぁ、ノアさん。あれ?」
ランヴァルドさんの視線がナタリーさんを捉える。
「私は銀級冒険者のナタリーです。ノア君と同じ“スンド東の町”支部所属で、彼と行動を共にしています。今日は彼の相談役として同行させていただきました」
と、ナタリーさんが今まで見たことのない真面目な態度で挨拶していた。
ランヴァルドさんはちらりと僕の方を見た。
「その、例の事はまだ話していないのですが、ナタリーさんは信用できる方です」
と追加説明する。
「なるほど。そうだね、銀級冒険者が一緒に行動してくれる方が安全だし。おっと、私はここの魔法顧問をしているランヴァルドだ。よろしく」
自己紹介をして、僕らにソファを勧めた。
「まずは、ナタリーさん、あなたに指名依頼とそれに伴う守秘義務魔法契約をお願いしたい」
「はい。ノア君のためなら喜んで」
「うん。では早速」
ランヴァルドさんがギルドの職員を呼び出して、色々と手続きを進めていく。
僕も初めて見るけど、魔法契約というのは、専用の魔道具を使って行う特別な契約だ。
契約した内容を守らない(故意にせよ過失にせよ)と、定められた罰則が強制的に適用されるというもので、場合によっては死ぬこともある強力なものだ。
今回は、僕の秘密を漏洩しない事が契約内容で、罰則は秘密を知ったものを拘束し連行する事、という物騒なものだった。
「このくらいはしないとね」「うんうん」
とランヴァルドさんとナタリーさんは意見が一致していた。
僕の方が危機感足りてないらしい。
指名依頼の内容は、今後30日間、僕を護衛および訓練することだ。依頼料はランヴァルドさんの個人負担だと言う。
「私の研究に協力してもらう上での必要経費だよ」
と軽く言ってたけど、銀級冒険者の報酬だからかなりの金額のはずだ。かなりのお金持ちなんだな。
「ノア君に関する情報は私の方で隠蔽工作を進めている所だ。まず大丈夫とは思うが、感づかれる可能性もゼロじゃない。だから、ノア君にはある程度強くなって自衛できるようになってもらいたい。ナタリーさんできますね?」
「頼まれなくてもそのつもりだったけど、ええ、任せて下さい」
そして、いよいよナタリーさんに僕の秘密を開示する。
「へぇ~、あの伝説の”忍者”なのね。何か凄そうってことしか分からないけど、おめでとうノア君。よかったね」
「ありがとうございます」
ナタリーさんが僕の頭をぽんぽんっと撫でた。
ランヴァルドさんから、今後の注意点として、例の”レベル買取”の依頼を請けないように言われた。
僕だとあまりにも短期間に何度も請けることになって目立ってしまうからだ。
その代わり、ランヴァルドさんの研究の一環として、あそこの祭壇を特別に使わせてくれるらしい。
ああ、良かった。
「さて、ナタリーさんが来てくれたことで、今日話そうと思ってたことは大半が片付いてしまったよ。そうだ、この後時間があるなら、”愚者の迷宮”に行かないかい?」
ランヴァルドさんがそんなことを言い出した。
ちなみに、”愚者の迷宮”ってのは、例のレベル買取で行くダンジョンだ。
「何をするんです?」
「実際にノアさんがドレインされてレベルの下がるところを、<人物鑑定>で確認したいんだよね」
まぁ、それくらいなら別にいいかな、と僕は思ったんだけど、ナタリーさんが口をはさんだ。
ナタリーさんがランヴァルドさんに質問する。
「いくつか確認したいことが。まずは報酬について、レベル買取依頼と同等以上の報酬はいただけますか?」
え?
「ああ、もちろん。そうだね、前回ノアさんが受け取った金貨7枚は保障しよう。得られた情報次第では上乗せもありだ」
なるほど、一流の冒険者は報酬についてきっちりしてるって、こういう事か。
さすがは銀級冒険者だ。
「では次ですが、そのドレインで、ノア君に本当に悪影響が無いか、調べていただくことは可能ですか?」
「そうだな、もちろん<人物鑑定>で確認できる範囲であれば、調査はするけど。それ以上となると、医術師を呼ばないとな」
「私が費用を負担するので、お願いできますか?」
「えっ、ナタリーさん?」
ビックリした。そこまでするなんて。
「ノア君、気づいてないだけで悪影響があるかもしれないよ。レベルは魂に関係するって説もあるし、命を削ってるかもしれないんだよ?」
ナタリーさんが真剣な表情で僕を見てくる。
そっか。心配、かけてたんだな。
ランヴァルドさんもナタリーさんの言葉に頷く。
「なるほど、ナタリーさんの言うとおりだ。これについては私の配慮が不足していた。すまなかったね。私の責任で医術師を呼ぶよ」
医術師を手配したり、指名依頼を作ったりと色々と準備をしてから、ギルドを出発した。
今回は、前回よりも高級そうな馬車に乗せられた。乗り心地もすごく良い。
僕の隣にナタリーさん、向かいにランヴァルドさんが座っている。
「ノアさんの使う<遁術>って、どのような魔術体系なのです?」
ランヴァルドさんが目を輝かせて身を乗り出してきた。
「えぇっと」
そこにナタリーさんが割り込んだ。
「ランヴァルドさん?そういう情報の提供には報酬が発生するのでは?」
「おおっと、そうだね。好奇心がうずいてしまって、つい。情報提供の指名依頼を後付けで発注するよ。一応これ、仮発注ね」
と言って、紙片に書き付けて渡してくれた。
「ええ。お忘れなく」
おぉ~!僕だったら普通にしゃべってたよ。ナタリーさん、凄いな。
道中、スキルで得た<遁術>の知識をランヴァルドさんに話してあげたら、目をキラキラさせながら聞いていた。さらには、熱心に質問までしてくるものだから、僕はタジタジになってしまったよ。
この人、魔術の事になると人が変わるよね。
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