第47話 災害発生1日目 護衛艦「しなの」と歌浜区

~護衛艦「しなの」艦橋~


「いたたた……」


木村は、頭をさすりながら立ち上がった。

当時、護衛艦「しなの」は宮都県南部巨大地震、通称「神水大震災」の震源地直上にいた。

艦全体が揺れて壁に叩きつけられ、意識を失っていたのだ。

幸いにも怪我はなかったが、目を覚ましたらこの状況である。


「しかし暗いなぁ……」


電力が落ちており、非常灯しかついていない艦内はかなり暗かった。

とりあえず倒れていた他の乗員たちを叩き起こし、状況を確認することにした。

ちなみに、外は夜である。


「格納庫で火災が発生しています!」


艦内を確認しに行っていた乗員が、そう言いながら駆け込んできた。

地震により電子機器が故障し、そこから出火したようだ。


「えぇい、みんな消火器を持て!」


木村たちは消火器をつかみ、格納庫へと走った。


***

~護衛艦「しなの」格納庫~


「貨物が崩れてて入れない!」


格納庫に並べられたダンボール箱が地震の影響で倒れ、入れなくなっていた。

火元の近くには、潜水用の酸素ボンベが転がっている。

それのせいで火の勢いがどんどん強まっており、このままではヤバそうだ。


「この段ボール、全く動かない!いったい何が入ってんだコレェ!」


押しても引いても、ダンボールは動かない。

ダンボールには『加原重工業』と書かれていた。


「別の入り口は!?」

「もう火が回ってました!」


別の入り口から入ろうと思ったが、すでに火の海だったようだ。


「仕方ない、パワーアーマーを取ってきてくれ!」

「あ、はい!」


乗員が作業用パワーアーマーを着て、走ってくる。

そしてそのまま、段ボールを蹴散らした。


「よし、消火ー!!!」


木村の指示により、全員が消火剤を撒く。

消火剤のおかげで火はすぐに消えたものの、

火災によって発生した煙が大量に立ち込めてしまった。


「けほっ、けほっ。シャッター開けろ!はよ!」


乗員の一人が手動ハンドルを回し、格納庫のシャッターを開く。

煙は、外へと吸い出されていった。


「はぁ……さて、電気をつけないとな。電気室に向かうぞ」


***

~護衛艦「しなの」電気室~


「ここも暗いな……」

「ですね……通電させたことで、火災が起きなきゃいいですけど」

「もう起きてるだろ」

「それもそうでした」

「はい、電源オン」


照明が煌々と灯り、室内全体を照らし出す。


「よし、艦橋に戻るか」

「はい」


***


その後、「しなの」の被害を確認。

格納庫に積まれていた物品は多くが燃えたものの、幸い死者はいなかった。

ただ、負傷者は何人か出たらしい。

他にも、通信機やGPSアンテナが損傷。使用不能に陥っていた。

現在、「しなの」は座礁し、停止している。

これは、乗員が気を失ったことで「しなの」の制御が効かなくなったためだ。


「ふむ……海上でもあんなに揺れたんだ。陸地は大変なことになってるだろうな。

被害状況を確認するためにも、陸地に向かってみるか?」

「それはいいとして、『しなの』は動けませんよ?どうするんです?」

「そりゃ、あれだろ。上陸艇」

「なるほど」


***


その後、数人の乗員が内火艇に乗り、宮葉県へと向かうことになった。

ほとんどの乗員は「しなの」管理のため残るが、

まず、パワーアーマーや車両の整備要員として内村。

次に木村と太田。「しなの」管理は副長の篠原に任された。

最後に戦闘要員として佐藤翔一等海曹。

彼らは、上陸艇に資材やらパワーアーマーやら、

トラックやらを積み込み、出発した。


***

~宮葉県沖・「しなの」内火艇~


「これは……団地か?」


しばらく進むと、中が見えないほど濁った場所に入った。

周りには下半分の沈んだ団地が並んでいる。


「街が海に沈んでるって……相当な被害ですね」

「ああ。沿岸部の土地が沈下して、そこに海水が流れ込んだんだろう」

「なるほど」


木村と太田がそんなことを話していると、佐藤がこういった。


「ここまでくれば、ラジオの電波が通るはずです。聞いてみましょうか?」

「お、頼む」


佐藤はラジオを取り出し、電源を付けた。


『現在、被害の多い南方から救助活動が行われています。

しかし地盤沈下により甚大な被害を受けている歌浜区での救助活動は難航しており――』

「地盤沈下……なるほど、ここが歌浜区なんだな」

「でしょうね……」

「なら、北に行けば陸地がある。そこを目指してみるか」


木村たちは北を目指し、さらに進んでいく。

しばらく進むと、誰かの声が響いた。


「そこのボート!止まってくれー!」

「ん?誰だ?」


上陸艇を止め、周りを見る。

すると、一階部分の沈んだ団地から老人が乗り出して、こちらを見ていた。


「じいさん、大丈夫か!?」

「あぁ、なんとかな……しかし、この団地ももう沈みそうだ!助けてくれないかい!」

「よし、わかった!今すぐそっちに行く!」


木村たちは、内火艇を発進させる。

直後、地面が揺れ始めた。


「な、なんだ!?」

「余震です!」

「マジかよ!」


直後、轟音を鳴らしながら老人のいる団地が、こちらに向かって動き始めた。


「団地が動くってなんだよ!避けろ!」

「は、はい!」


佐藤が速度を上げ、ぎりぎりで避ける。

団地は歩道橋にぶつかり、止まった。


「爺さん、今のうちに飛び移れ!」

「あ、あぁ!」


直後、歩道橋が大きく傾き、海に沈む。

それに追随するように団地も傾き、海へと沈んでいった。


「「……」」

「……行きましょうか。北に」

「……ああ、そうだな」


上陸艇を起動し、北へと向かった。

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