第20話 カーチェイス

~警視庁~

「最近教国人による犯罪が増えている……捕まった被疑者の証言は『なんとなく』や『蛮族への神の裁き』とか……意味が分からない」

「そうですね」

「そこで、パトロールを強化しようと思う。少しでも怪しい教国人がいれば、職務質問をするんだ!」

「わかりました!」

***

~東京・とある通り~

『今週ハ交通安全週間デス。交通事故0ヲ目指シマショウ』


旧式のpatrol advanceも駆り出され、都内を回っていた。

新型とは違い、機械っぽさが多く残っている。


「それでさ~あいつなんて言ったと思う?」

「えー?何て言ったの?」


話していた女子大生二人が、赤信号にも関わらず進もうとする。


『今ハ赤信号デス。渡ラナイデクダサイ。危険デス』

「あっ!気づかなかった……」

「旧式とはいえ、注意とかしてくれるんだね」

「みたいだね~交通安全週間だからかな?」


東京以外にも多くの場所でパトロールが強化され、日本中で旧式新式入り混じったpatrol advanceが指定されたコースを回っていた。

もちろん、普通の警察官もパトロールしていて……


「君、ちょっといいかな」

「な、なんすか」

「仕事教えてくれる?」

「えっと……騎士です」

「棋士?」

「いや、騎士。馬の方……」

「あ~馬の方ね。名前と年齢は」

「名前はイザナ。20歳っす」

「イザナで20歳……えーっと、出身国は?」

「トレイ教国」

「パスポートとビザある?」

「ああ」


教国人がパスポートとビザを出す。


「本物だね。ちょっと荷物見せてくれる?」

「いいけど……」

警察官がバックの中を見る。

「……怪しいものはないね。もう行っていいよ」

「はぁ……」


警察官はその教国人から離れて行った。


「何だったんだろ。あの人たち」


ちなみに、素直に職務質問を受けてくれる教国人は少なく、そもそも警察の存在を知らない者が多い。

そのため、「なんだお前ら!」という感じなのである。

***

~東京都・加原重工トラックターミナル~

「ふわぁ……眠い」


夜の加原重工。

警備員はあくびをしながら防犯カメラのモニターを眺めていた。

そのモニターには、数十台のpatrol advanceが積まれているトラックが映っていた。

patrol advanceは、警視庁に納品するためのものだ。


「しかし、警備なんて必要なのかね」

「必要だろ。盗まれるかもしれんし」

「でも、こんなの盗んでどうするんだよ」

「そりゃあ……運ぶんじゃないのか」

「どこへだよ。外国か?」

「知らんよ」


二人の警備員はそう言いながらモニターを眺めている。

だらけているように見えるが、彼らも一人の警備員。

ちゃんと見ている。すると、モニターの一つに不審な動きをする者がいた。


「あっ!おい、あれ見ろ!」


警備員はそう言いながらモニターを指さす。

それは、真っ黒な服装をした男だった。


「警察に通報だ!急げ!」


一人がそう言うと、もう一人が警察に電話をした。


「あっ!」


モニター越しの男はトラックに乗り込み、エンジンを始動する。


「だれだ!鍵を置いてたのは!」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇぞ!」


トラックは一気に走りだし、シャッターをぶち破って外に出た。

***

~東京都・首都高~

トラックは深夜の首都高を走る。

すると、検問に引っ掛かった。


「免許証を見せてください」

「……何かあったんですか?」

「いえ、ただの飲酒検問ですよ」


警官がそういうと、運転手の怪しい男は免許証を取り出した。


「外国人ですか?出身は?」

「教国です」

「なるほど。それじゃあ、これに息を吹きかけてください」

「えっ?なんで……」

「いいから早く」

「は、はい……」


男が言われた通りにすると、警官は機械の数値を見て言った。


「お酒は飲んでいませんね」

「そんなのでわかるんですか?」

「はい」


その時、コンテナを調べていた警官が走ってきた。


「……なんでコンテナにpatrol advanceが乗っているんですか?」

「え?」

「これは、警察専用ですよ?なぜ、あなたが……」

「……警視庁への、納品ですよ」

「納品日は明日のはずですが」

「……」


男は黙ると、アクセルを踏み込んで急発進した。


「あっ!待て!」


コンテナ車はそのまま走り去っていく。


「トラックが検問を強引に突破!ナンバーは練馬332、あ14-27!

ボディに『加原重工』と大きく書かれている!」


警官はパトカーにとびのると、無線にそう叫んだ。

***

「……チッ」



トラックを運転する怪しい男は、ドアミラーに映るパトカーを見て舌打ちした。


「……どうします?」


助手席に乗る仲間の女が聞く。


「……このまま走る」

「大丈夫なんですか?」

「……問題ない。お前は魔法で足止めしろ」

「わかりました」


仲間はドアを開けると、杖を振りかざした。

***

「誰かが身を乗り出してるぞ!」


パトカーに乗っていた警官がそう言った。

身を乗り出している女は、杖を握っていた。


「もしかして、魔法か!?」


その瞬間、杖から氷が飛んできた。

このパトカーは何とか避けられたが、後ろのパトカーが被弾。

凍りながら横転し、後ろのパトカーを巻き込んで停車した。


「魔法使いがいるなんて聞いてねぇよ!」


警官はそう言いながらアクセルを踏み込み、速度を上げる。

メーターはとっくに180㎞を越えていた。


「あの車、早くないです?」


助手席に座っていた巡査がそう言った。

確かに、普通のトラックは110㎞程が最高速度。

しかし、あのトラックは200㎞程出ているだろう。


「あのトラック、魔法か何かが掛けられえているんだろう」

「そんなことできるんですか」

「わからん。だが、そうとしか考えられん。盗難車だから、改造はされてないだろうし」


パトカーはトラックにどんどん近づき、その距離は約10m。


「しっかり狙って撃て」

「はい」


助手席の巡査が銃を構え、タイヤを狙って発砲。

だが、銃弾は跳ね返された。


「えっ!?」

「どんなタイヤ使ってんだよあのトラック!」

「多分、魔法ですよ」


巡査は冷静にそう言った。


「魔法って万能だな……」


トラックはドリフトしながらカーブを曲がり、さらに逃げて行く。


「くそ……このままでは追いつけん。どうすれば……」


その時、無線機に声が入った。


『機動隊によるバリケードの設営が完了した。高速起動隊は敵車を誘導せよ』

「了解」


警官は無線を切ると、サイレンを鳴らしながらトラックの後を追った。

しばらくすると、特型警備車によるバリケードが見えてくる。


「止まれぇ!」


警官はそう叫ぶが、トラックは減速せずに突入。

特型警備車を横転させ、機動隊員を撥ねとばし、そのまま走り去る。


『バリケードが突破された。高速機動隊はそのまま追跡し、横須賀I.Cまで追い込め』「了解」


パトカーは横転した特型警備車やパトカーをよけながら追跡する。

少しすると、救急車のサイレンが聞こえてきた。

***

「心肺停止を確認!胸骨圧迫を開始します」


救急隊が跳ねられた機動隊員や特型警備車の中にいた機動隊員を救護していく。


「……よし!息を吹き返した!」

「こっちは遅かったです……」

「まぁ、仕方ないですよ……」


一人の隊員がそう言うと、もう一人の隊員が言った。


「それより、早く負傷者を運ぶぞ!」

「はい!」


二人は重傷者を乗せた担架を持ち上げた。

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