第4話 ツーショット。


 放課後の屋上。もう夕陽が沈みかけている。写真を撮るなら夕陽がある方がいいだろう。


 小さい頃、写真で凛翔が笑わなかったと瑞葉は言った。でも、どうしてそれが分かるのだろう。一枚笑顔じゃないのを見つけた、というなら分かる。けれど、全部笑ってなかったとは限らないじゃないか。


「あのさ、本当に俺は笑ってなかったのか? 全部笑ってなかったとは、限ら、な、い――」


 凛翔は言葉が尻すぼみになり、恐怖のあまり唖然とした。

 その理由はすぐに分かる事になる。


 なんと、瑞葉が制服のポケットの中からうじゃうじゃと写真を取り出したのだ。ざっと見ただけで100枚以上。どれも凛翔が写ってる写真。小学校の時のから、昨日の入学式の時の写真まである。こっそり隠し撮りされていたのだ。

 そして、写真は綺麗なフィルムに仕舞われている。


「ほら、見て? 笑ってないでしょ?」


「これも、これも、これも」


 指差して示す瑞葉。

 狂気でしかない。どうして、そこまで彼に執着するのか。


「……怖い」


「何が?」


 自覚無いのが一番怖い。


「あたしが全写真確認してみたけど、笑ってる写真は一枚も無かった」


 瑞葉は儚げに呟く。目が虚ろだった。


「うーん」


 あまりの衝撃に唸る凛翔。もうこの子の愛は重くて、自分に対しては徹底していると彼は気づいた。


「俺、写真撮られるの、苦手かもしれない」


「なら、あたしが笑わせてあげる」


 その言葉に凛翔は口をつぐんだ。


「じゃあ、いっくよー」


 こちょこちょこちょこちょ。


 くすぐられた。けど、彼は無表情。確かに彼はデフォルトが無表情なのかもしれない。


「神経、通ってないの?」


「通ってるよ」


 次は愛の言葉を言ってデレて、照れ笑いしてもらう作戦!


「好き、大好きだよ」


「急に何だよ」


「愛してる」


「ずっとそばにいちゃ、ダメ、かな?」


「凛翔くん、カッコいい」


「ははっ」


「空笑い禁止っ!」


 今の凛翔の笑いはわざとらしかった。だからノーカン。


 最後はもう作り笑いでもいいという許しを彼女から得た。笑わせようと思ってもなかなか笑わないから。

 だから、笑顔の練習。


「口角を吊り上げてー」


「こうか?」


「そうそう!」


「あとは、ニコッとするの」


「ニコッ」


「言葉にしてもねぇ……」


 それから凛翔は笑顔の特訓を受けた。


 数分後。ツーショット本番だ。

 もう夕陽が沈んでしまうので、早く撮らなければならない。


「無理に笑わなくていいよ」


「え? 分かった」


「本当に楽しかったら、笑おうとしなくても、自然な笑顔になれるはずだから」


 瑞葉は続けて言う。


「だから、あたしは一緒にいて楽しいって思ってもらえるような人になりたい。特に凛翔には」


「……あ。ありがとう」


 凛翔の心は嬉しさに包まれた。


「今が楽しい?」と瑞葉は問いかける。


「うん! 楽しい!」 



「せーの、ハイチーズ!」


 カシャッ、という音がした。


 確認してみると、綺麗な夕陽がまだ微かに残っていた。そして、肝心の笑顔だけど、無理して笑ってるようにも見えるけど、過去一の表情だと思う。二人とも笑っていた。

 それはとても綺麗で、青春って感じがした。


「笑ってるじゃん!」


「ああ」


「ありがとう!」


 瑞葉は大事に今日撮れた写真をお気に入りフォルダに追加した。後でプリントアウトでもするのだろう。


「さ、一緒に帰ろ。もう遅いし」


 瑞葉は凛翔の手を引く。そういえばさっき、写真を撮る時も二人の手は重なっていた。距離が近づいたという事ではないだろうか。


 瑞葉の言う通り、遅いから二人で帰るのが妥当だ。


「先行ってて」と言われたので、凛翔が先に屋上を出る。


 そして、溜め息を一つ吐いたのち、彼女は屋上の床からスッと何かをつまむ。


 それは――凛翔の髪の毛――だ。

 一本だけ落ちていた。その一本も見逃さず見つけて、瑞葉は大事そうにを見ていた。


 を夕陽にかざした。夕陽に反射して、髪の毛は美しく煌めく。


「凛翔の髪の毛! やっと手に入れた。うふふ」


 瑞葉は拾ったをポーチに仕舞った。


 そして、少し遅れて凛翔と合流し、その日は一緒に帰った。

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