137作品目

Rinora

01話

「見てくれこれをっ、やっと欲しかったタブレットがゲットできたんだ!」

「んー、学校に持って行くにはでかすぎないか? それにスマホゲームならアレでもできるだろ」

「いや、これがメイン端末だ」

「不便過ぎるだろ……」


 でかければいいというわけではない、きっと彼もすぐに本当のところに気づけるだろう。

 それでも入手できて喜んでいるところにマイナスの意見をぶつけ続けるというのも水を差すようで可哀想だからやめた。

 なんでもかんでも言えばいいというわけではないのだ、長く一緒にいる親友だろうと言葉は相手を傷つける可能性もあるから気をつけなければならない。


「まーたあの馬鹿二人組が叫んでいるよ」

「もう二年生なんだからもう少しぐらい大人の行動をしてほしいよね」

「私、あの二人はうるさいから嫌い」

「正論なのに睨んでくるぐらいだしね」


 どうしてこうなったのかはほとんど彼のせいだが、どうやら俺単体であっても嫌われているようだった。

 まあでも、どうせこの一年が終われば二度と会わなくなる……とまではいかなくても顔を合わせる可能性は低くなるわけだから気にしていない、言いたいやつには自由に言わせておけばいい。

 他者にこう動いてほしいと期待をしても無駄に終わることばかりだったから期待できなくなっているというのもあった。

 だからこいつは確かにうるさいが来てくれるとありがたかったりもするわけで、いつまでも同類でいてほしかった。

 とはいえ、別にこいつが一人で上手くやろうとそれも気にならないから自由にやってくれればいいと思っている。

 実際にそのときを迎えてみないとどうなるのかは分からないものの、多分いまと同じままでいられるはずだ。


「なんだあいつら、他にだって騒がしい奴もいるのによ」

「気にすんな、それよりそれちゃんとしておけよ」

「おう――そうだ、後で動画見ようぜ、無制限のプランだから見放題だぞ」

「じゃあほのぼの動画でも――」

「え、エロ動画を見ようぜ、学校で見るその背徳感が――おいっ、寝るなよっ」


 正直、ここだけは直してもらいたいところだと言えた。

 小学生の頃からこいつはエロガキで、何故かこいつが動く度にこちらまで同じ評価になっていくから困っていたのだ。

 先程も言ったように悪口を言われたりするのはいいのだがエロガキとは思われたくないというそれがあって上手くいかない。


「ねえ、白鳥君っている?」


 白鳥べん君は知らない人間に呼ばれても尚、馬鹿な話を続けようとしていた。

 いちいち気にしてしまうのは彼みたいなメンタルではいられていないからだ、卒業するまでになんとかしたいところだな。


「ねえ、あなたが白鳥君でしょ?」

「ん? そうだけど?」

「おい、先輩だぞ」


 いや、やっぱりいいわ、尊敬していなくても年上に敬語を使えないのは駄目だ。

 相手が許可をしてくれたのであれば構わないが、流石にこれだと引っかかる。

 相手も多分そうであるようになんでも擁護できるわけではないという単純な話だ。


「別に俺から近づいているわけじゃないからいいだろ。で、なに?」

「ちょっと付いてきてほしいの、いい?」

「ま、別にいいぞ、相棒とはいつだって話せるからな」


 その相棒君はなんか嫌な予感がして縮こまっていることしかできなかった。

 いやほら、あくまで俺のそれは対クラスメイトのみであって、下の学年や上の学年に敵的な対象ができるのは微妙なのだ。

 そもそもコントロールができないから自由に言わせておけばいいと片付けようとしているだけでなにも残らないというわけではない、そう、だからやはり彼みたいにはやれなかった。


「お、どうだった?」

「意味分かんねえ、次来たら一緒に過ごしてみるといいぞ」

「い、いや、やめておくよ」


 メリットがないことは受け入れないとかそういうことはないものの、急に近づいてきたりした人間が相手ならこれぐらいでいい。

 彼と過ごしていたり他の人間と過ごしているところをある程度は見なければ安心して一緒にいられない、何度も言っているように全く気にせずに動けるのであればこんな風にはなっていない。


「白鳥ー、さっきの女の人って誰?」

「知らない、誘ってきたくせに名字すら言わなかったからな」

「へえ、はは、変態に近づく奇麗な女の人ってことで気になるよ」

「変態は余計だ」


 でも、奇麗ということについては否定をしないと、彼は欲望に正直だ。

 つか、悪く言ってくる女子連中の中で彼女は天使みたいな存在だ、ちなみに彼にとってはであるが。

 実は彼が消えた瞬間に言葉で刺されたことがあるからなるべく来てほしくない。

 多分、悪く言われているのは俺のせいだとかそういう風に認識しているのだろう。


「それよりお前、昨日ちゃんと寝なかっただろ」

「え? ああうん、ちょっと夜更かしをしちゃってね」

「それってオナ――」

「なわけないじゃん、一度もしたことがないよそんなこと」


 いいから向こうに行けってっ。

 でも、まだ続けるみたいだったから突っ伏すことでなんとかしたのだった。




「あなた白鳥君のお友達よね?」

「勉ならもう部活に行きましたよ」

「あ、そういえばそうだったわね、私としたことが失敗をしてしまったわ」


 別にあのときだけというわけではないのか、んー、まあ異性からすればあの気にせず動けるところがいいように見えるのかもしれない。

 変態ではあるがこいつ動けて凄えなと感じるときの方が多いため、気に入ってしまってもなんらおかしなことではないように思えた。

 とはいえ、こうして勉のことで話しかけられるのは勘弁してもらいたいため、やるなら全く関係のないところでしてほしい。


「暇なの?」

「まあ、そうですね」

「それなら付き合ってほしいの」


 ……男子なら誰でもいいというわけではないだろうし、俺は面倒くさいことになるきっかけをとにかく潰したいから付いて行くことにした。

 彼女はどこに行くのかもこちらには説明せずにどんどんと歩いて行く、ただ、目的地が住宅街の中にあることはすぐに分かった。


「ここが私の家なんだけど、あなたには手伝ってもらいたいことがあるの」

「片付け……とかですか?」

「そうね、庭を奇麗にしたいの」


 だが、別に汚いわけではないからなにをしたいのかがわからない。


「この袋の中にここの土を入れてほしいのよ、それで私は奇麗になったところにこの新しい土を入れていくわ」

「分かりました」


 曖昧な状態でなければ俺でもなんとかなる、だから早く終わらせるために一生懸命にやった。

 残念ながらそれでもかなりの体力とそれなりの時間を消費してしまったものの、誰かのために動けたのはいいことだと言えた。


「助かったわ、ありがとう」

「いえ、いい運動になりました」

「飲み物と食べ物を持ってくるから待っていてちょうだい」

「あ、そういうのはいいです、別に礼をしてほしくてしたわけではないのでこれで失礼します」


 部活大好き君みたいに普段は全く動いていないせいで情けないことに足や手が駄目になっていたのだ、で、そんなところを異性には見せられないから離れた形になる。


「疲れた……」


 だが、悪くない疲れ方だろう、少なくとも夜更かしをして勝手に一人で疲れるよりはよっぽどいい。

 多分今日は飯が美味いし気持ち良く寝られる、ただ利用されただけにしてもあの名字も知らない先輩には感謝だ。


「ただい――」

「遅い、なんで部活にも入っていないあんたが遅いの」

「ちょっとだらだら歩いていたんだ」


 もう高校二年のうえに十九時を過ぎているなんてこともないのに大袈裟過ぎだ。

 でも、何故か昔から母がこんな感じで困っている、小学生のときなんかは十七時までに帰っても「遅いっ」と怒鳴られていた。


「あんたね、親としては心配になるんだからだらだらするなら家でしなさい」

「はは、普通は真面目にやれとか言うところなんじゃないのか?」

「外の手の届かないところにいられるぐらいなら家でだらだらとされていた方がましよ、だから守りなさい」


 所謂ムスコンってやつか? ただ、帰宅時間に関すること以外は特になにかを言ってきたりするわけではないから違うのだろうか。


「よいしょ……っと、だが、家にいられているときの方がいいな」

「そうよ、そう言ってもらえるように意識をして動いているから当たり前だけどね」

「パンツなんだが」

「だから? あんたのパンツなんて毎日洗濯をしているから見飽きているわよ、いいから風邪を引かないように早く着替えなさい」


 突撃してきていなかったらそんな状態で固まることもなかったわけだが~なんて言うのは違う、このまま続く方が微妙だからさっさと着替えてしまおう。

 部屋に引きこもる趣味はないから着替えたら一階に移動した、母は先に戻っていて煎餅を食いながらテレビを見ていた。


「まだ早いけどあんたどうすんの?」

「来年になったら就職活動だな」

「ふーん、ま、あんたが決めたなら文句はないわ」


 ソファは残念ながら一つしかないから横に座ると「狭い」と言われたがスルー。


「つか、さっきは気づかなかったけどなんか土臭い」

「ほじくって遊んでいたんだ」

「はぁ? そういうのは小学生で卒業しなさいよ」

「案外悪くないぞ、母さんも今度公園でやってみたらどうだ」

「あたしがやったら不審者扱いされるわよ」


 じゃあもし俺が一人あの作業を家の敷地以外でやっていたとしたら警察官に世話になるかもしれないな。

 若いようで若くない男が一人、それなりの大きさのスコップを使用して穴を掘ったりなんかしていたら絶対にそうなる。


「ただいま!」

「「帰ってきたか」」

「はっはっはっ、いま帰ったぞお前達よっ」

「「勉みたいだ……」」


 まあ、元気でいてくれているからいいという風に無理やりいい方に捉えることでなんとかしたのだった。




「母さん、用事を思い出したから先に帰らせてもらうぞ、荷物は持って帰るから心配しない――」

「駄目に決まっているでしょ、なんでそんな中途半端なことをするのよ」


 だ、だって割と近いところに先輩がいるのだ、学校ではいいが知っている顔の人間と外で会いたくはないから仕方がない。


「か、母さん、いいだろ?」

「駄目よ、いいから帰るわ――あら?」


 く、くそ、近づいてきやがったっ。

 俺は白鳥とかそういうわけではないのだから来るなよ、なんで来るのか。


「こんにちは、お手伝いをして偉いわね」

「別に俺の意思でしているわけではないですから」


 間違いなく気にしている母には話しかけずにあくまでこちらにか、俺と母で大して差はないのだから母の方に話しかけてもらいたいところだった。

 というか完全に自爆という形になってしまってる、先程みたいなことを言わなければ母が足を止めることなく済んだというのに俺ときたら……。


「ちょっとあんた、誰よこの子」

「……別に誰でもない、冬でも食材が悪くなるかもしれないから帰ろうぜ」


 字面だけで見れば仲のいい存在に見えるが、いや、仲はいいがもう少し言い方に気をつけてもらいたいところだった。

 つか、こういうことになるから避けたかったのだが、なんともまあ意地の悪い二人ということになる。


「ちゃんと答えなさい」

「私は昨日初めて息子さんに話しかけた瀧藤まりと言います」

「どうして話しかけたの?」


 いちいち話しかけた理由なんか聞くなよ、大した情報は得られないぞ。

 仮に説明をしてくれても母は彼女ではないのだから本当なのかどうかを確かめることはできない、だというのに聞いたところでなんになるのかという話だ。


「手伝ってもらいたかったからです、それで昨日彼は文句も言わずに一生懸命にやってくれました」

「ほー、なるほどね。あ、ごめんね」


 謝るぐらいならするなっ、や、まじで謝るぐらいならしない方が自分のためになるだろうよ。

 なんらかの言葉を発する度になにかを消費しているのだからそういうことになる。


「いえ」

「それじゃあ邪魔をしても悪いからあたしは帰るよ。祐輝ゆうき、荷物を貸しな」

「なにを言っているんですかお母さん、受け入れたからには最後までやらないといけないで――お、おいっ」


 はぁ、まあ別に死ぬわけではないからいいか……って、よくないだろ。

 これはあくまで勝手にこちらがしているだけでいまから買い物をするであろう先輩にとっては困るだろう。


「ふふ、面白いお母さんね」

「なんかすみません」

「別にいいわよ。んー、それじゃあちょっと待っていてもらえる? すぐに済ませてくるから」


 なんにも得られないまま家に帰ると当たり前のことをしているだけなのに「なんでよっ」と怒られそうだったからありがたい提案かもしれない。


「三十分以内で終わるということなら待っています」

「ふふ、大丈夫よ、それじゃあ行ってくるわね」


 いややっぱり違うだろこれと後悔したのは先輩が店内に消えてすぐのことだった。


「お待たせ、お醤油とみりんと料理酒を買ってきたわ」

「持ちますよ、あ、好感度稼ぎではなく母に躾けられているだけですから勘違いをしないでくださいね」


 そこまで勉のようには動けない、でも、守らなければならないこともある。

 改めて考えてみると若い内から尻に敷かれる訓練みたいなものをしている気がするがいいのだろうか? 父だって自由なようで母には勝てないようになっているから親子揃ってというか……。


「そもそも持たせるつもりなんてないわよ? あ……、ふふ、意外と大胆ね」

「駄目なんですよ、もしこのまま持たせたままだったら俺が怒られるんです。なのでどうか今回だけは見逃してください、お願いします」

「私は楽になるからいいけど……」


 とりあえずすぐに悪くなる物ではないが店のすぐ外で話していても邪魔になるだけだから先輩の家に行くことにした、昨日自然と知ることができてしまったことが地味に役立った形となる。


「どうぞ」

「上がってちょうだい、よく考えてみなくても働かせるだけ働かせてお礼をしないでその相手を返すなんて昨日の私はどうかしていたわ」

「じゃあこの三種の神器を置いたら帰ります」

「いいから来なさい」


 おいおい、俺はMというわけではないから引っ張られて喜ぶわけではないぞ。


「そこに座って」

「はい」


 もうこうなったら逃げられないから大人しくしておくだけだ。

 ただ、出会ってすぐの、しかも異性の家に上がっているとなると違和感がすごい。


「はい、あ、自分が好きでついつい紅茶にしてしまったけど大丈夫?」

「はい、ありがとうございます」

「それでなんだけど、今日のところはご飯を作るということでいい?」

「あ、食べて帰ると怒られるので無理なんですよ」


 これも本当のことだから深く考える必要はない。

 そう考えると結構制限してきているなという気持ちになったが、結局は「ちゃんとお礼を言ったの?」などと言われて終わるだけだから難しかった。


「じゃあ私の物をあげる――あげられても困るわよね」

「そうですね、仲がいい状態ならいいですが違いますからね――ではなくて、別に本当にいいんですよ」

「あのねえ、あなたはそれでいいかもしれないけど動いてもらった側は気になってしまうものなのよ?」

「じゃあ我慢をしてください、そうすれば無駄に家に上げる必要もなくなります」


 なので無理やりこの紅茶をそういう対象にして終わらせることにした。


「ありがとうございました、美味しかったです」

「馬鹿」

「そう言わないでくださいよ、あ、それじゃあこれで失礼します」


 もう意味はないだろうが距離は近いからその点で困らない、今度さり気なく勉に教えておくことにする。


「ただいま」

「一応聞いておくけどあんた、いままでどこにいたの?」

「先輩の家だな、部屋でゆっくりしてくるから飯の時間になったら呼んでくれ」


 ただ一つ気になるのは俺にだけやたらと厳しいあの女子だ、勉のことを気に入っているから先輩が一生懸命になった際に衝突することになるかもしれない。

 あとは勉が誰を好いているかにもよる、あの女子のことを好きだと言ってきたならそのときはじっとしているしかない。

 あの女子や先輩よりも長く一緒にいる勉のそれを尊重するのは当たり前のことだ。


「祐輝、勉が来たよ」

「土曜だぞ?」

「さあね、いいから来なさい」


 母に付いていくと確かに勉がいた、なんなら飯を食っていた。

 この短時間でどうやったんだ的なことよりも部活のはずなのにここにいることが気になってそのことを聞く、すると彼は食べ物を飲み込んでから「いま休憩中なんだ、腹が減ったから来た」と答えてくれたが……。


「どうせ山盛りの弁当を作ってもらったくせになにをしているんだよ」

「足りなかったんだよ、今日はやたらと練習が厳しくてな」

「だからってなんで俺の家なんだよ」

「しゅりさんの飯が美味いからに決まっているだろうが」

「あ、そうですか……」


 いや、それなら練習が終わった後に来いよなんて言うのは違うのか。

 まあ、母が決めることだから黙っておけばいいと終わらせてソファに座った。

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