第95話 王国SIDE: マリン王女の憂鬱

ああっ怖くて仕方が無い。


国からどんどん人が流出している。


王都ですら廃墟に近い状態になっています。


貴族街すら屋敷に住んでいる人間はまばらになっています。


宝物庫のお金や宝が無くなるのは時間の問題です。


父は、異世界人にお願いして数日後から、もう世を嘆いて部屋に籠ってしまいました。


これもあの、異世界人…理人のせいです。


確かに、女神は彼に酷い事をしたのかも知れません。


ですが、私達アレフロードは彼に酷い事をしていない筈です。


確かに他の転移者と最初は違ってましたが…途中からは同じ、それ以上に扱っていました。


聖女と大魔道と一緒にパーティを組む事すら許しました。


勇者や剣聖と同じに扱う事が出来ないのは当たり前です。


少なくともそんな酷い事をした覚えはありません。


それなのに、それなのに…あの男は…何故この国をここ迄貶めるのでしょうか?


このままでは、もう国そのものが終わってしまいます。


理人を敵に回せばフルールを敵に回す。


そんな事は解っています。


ですが、お父さまがこうなってしまった以上は私が頑張るしかないのです。


私はアレフロードの王女なのですから。


◆◆◆


理人暗殺から、異世界人が帰ってきました。


「吉川殿、その御姿は…」


「ハァハァ、どうにか理人は殺したぞ」


ですが…それと引き換えにこれですか。


黒薔薇や黒騎士が使う王硫酸攻撃。


流石はフルール、酷い攻撃をしますね。


硫酸を使い体を溶かされると、回復魔法やポーションでは治療が出来ません。


焼けただれ固まった皮膚を正常と判断されるからだそうです。


兎も角、この攻撃は恐ろしいのです。


剣で避けられない。


鎧を着ていても、隙間から入り込み焼けただれる。


避ける事しか出来ない、恐ろしい攻撃です。


吉川と内通していた緑川は特に酷く、顔は焼けただれていて二目と見れない顔をしています。


他の仲間もそこまででは無い物の皆が酷い有様です。


貴族と婚約していた者や貴族の妻となった者は…どうなるかは私にもわかりません。


その分を上乗せして報奨を与えるべきですね。


『心から感謝していますよ』



「貴方達の恩には充分報いましょう。此処にいる者には最低限男爵以上の爵位を与えます。特に中心となって働いた吉川殿には伯爵も検討したします…まずはヒーラーに頼んで全員の治療を致しますわ、取り敢えずは下がってお寛ぎ下さい」


「ああ、有難うございます…ハァハァ」


可哀想ですがあの傷はもう…治りません。


きっと後遺症も…治りません。


その分は爵位とお金で保証してあげます…ごめんなさい。



◆◆◆


「それで、今回の異世界人に渡す爵位なのですが…」


「好きな様に差し上げて問題ありません…爵位の返上が相次ぎ、60以上の爵位が返上されています、貴族街の屋敷も30近い空き家がありますから差し上げられますよ…問題はお金と人です」


「そんな財務状況なのですか…仕方ないです、宝物庫から国宝を幾つか手放しましょう」


「そうですね…ですが此処の所美術品も安く買い叩かれますから…」


「それでも…金策に走って下さい」


『平民が貴族になるのは、トカゲがドラゴンになるより難しい』そう言われていたのに…


自ら返上するなんて…うふふふふ、本当にどうなってしまうのでしょうか…


きっと、もうこの国も長くない…そうかも知れません。


それでも、私は1日でも長くこの国が続くようにしなければいけません。


私は王女なのですから。


◆◆◆


手紙が届きました。


差出人の名前は…神代理人…


死んだ筈です…


駄目です…頭の中がグルグル回ります。


これから、私は、私の国はどうなってしまうのでしょうか…


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