第84話 緑川さん モヤモヤする
「此処が皆さんの居住区域になります」
これが理人が考えた住処なのか、確かに凄いな。
だけど、私はこんな所で暮らしていていいのか?
頭の中に迷いがある。
確かにあの時に女神であるイシュタス様は言っていた。
『この世界を救って下さい。この世界を救えるのは貴方達だけなのです』
あの時の慈愛に満ちた顔は正に女神にしか見えなかった。
確かに理人には真面なジョブをあげていなかったのは知っている。
だが、何か事情があるのかも知れない。
少なくとも元教師である私が片方だけの意見を聞いて決断するのは良くない事だ。
もし生徒が揉めていたら、両方の意見を聞いてから平等に判断する。
それが私の考えだ。
「貴方、本当に凄いわ、こんな所に住めるのね」
「本当に信じられない」
「見たことも無い物ばかり、本当に凄いよ」
「確かに凄いな…」
何故だろう? なんだかモヤモヤする。
「それでですね、この部屋は凄い事に魔石を使った冷暖房にキッチン、お風呂にトイレもあるんですよ」
「確かに凄いなこの世界に来てまさかマンションみたいな建物を見るなんて思わなかった」
「この建物は、理人様の肝いりで作られましたから、しかも家賃は金貨1枚、それに魔石代金も含みますから、凄いでしょう?」
前の世界で言うなら電気ガス水道、家電、家具がついて4LDK 10万円 確かに安い、トイレにはウオシュレットもどきに洗濯機もどきもある..部屋だけ見たら前の世界に戻ったようだ。
「案内、有難う」
「今日は、ここ迄です。あとはゆっくりお休みください」
凄くはしゃいでいる三人の妻を見ながらも心は何故かモヤモヤしていた。
◆◆◆
本当に此れで良かったのだろうか?
私は女神様からも王様や王女様からも『この世界を救って欲しい』そう頼まれた。
神代君のように『頼まれなかった』訳じゃない。
しっかりと頼まれたのだ。
あの中で大人は私一人だった。
だから、交渉は私がした。
(回想)
「こちらの国の事情は女神様に聞きました。そして我々が戦わなくてはならない事も...だが私以外の者は生徒で子供だ..できるだけ安全なマージンで戦わせて欲しい。そして生活の保障と全てが終わった時には元の世界に帰れるようにして欲しい」
「勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もします。そして、生活の保障も勿論しますご安心下さい。 元の世界に帰れる保証は今は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事も約束します」
(回想終わり)
私は王女に約束した。
私との約束を守り、マリン王女は訓練も生活の保証もしてくれた。
もし送還呪文も研究していたのなら…向こうは約束を果たしているのに…こちらは約束を果たさないで反故にした事になる。
本当にそれで良いのか?
もし、神代君が魔族の討伐をしているなら、手伝えば良い。
それだけだった。
だが、神代君は、女神こそが本当の敵だと言っている。
幾ら考えても…私にはそうは思えない。
誘拐と言えばそうだが…それを持ちだして良いのは神代君だけだ。
他の人間はジョブにスキル充分な対価を貰っている。
それにあの女神様は自分達でどうする事も出来ないから我々を呼んだ。
女神として自分の力じゃ助けられないから…我々に縋った。
これを悪と言っていいのか?
どうしても心がモヤモヤする。
新しい新居ではしゃぐ妻たちを前に私の心は…モヤモヤが晴れなかった。
それは言わないで欲しかった
「ユウナにユウ、凄く頑張っているな」
「あはははっお兄ちゃんの為だからね」
「うん、幾らでも頑張れるよ」
2人ともよく頑張っているな。
フルールの指導は多分相当きつい筈だ。
今は、もう生物の解体位はさせられている筈だ。
流石は元盗賊と言う事か…そういう事に免疫があるのだろう。
「フルール、2人の調子はどうだ?」
「筋は良いですわね…なかなか才能はありましてよ」
子供なのに頑張っているんだ、少し位何かしてあげてもよいだろう。
「フルール、少し二人の訓練を休ませてよいかな?」
「理人様がそう言うなら構いませんわ」
「それじゃ、これからお茶にしようか? ユウナは木崎君を呼んできて、ユウは悪いけど綾子と塔子を呼んできてくれるかな?」
「「解りました」」
これは皆驚くだろうな…今から楽しみだ。
「神代君、これからお茶をするんだって」
「ああっ木崎君もユウナもユウもかなり頑張ってくれるから、個人的なお礼だよ」
「と言う事はただのお茶じゃないんだよね」
「流石、木崎君、多分ユウナとユウは凄く驚くと思う」
「サプライズが好きだったのか? 神代君にそんな面があるとは知らなかったよ」
「理人様、私には、私には無いのですか…酷いのですわ」
「理人君…酷い」
「理人は…」
ハァ、子供相手に何でムキになっているんでしょう。
「ちゃんと感謝しているからこうしてお茶に誘っているんじゃないか…勿論三人には感謝しているよ」
「それなら良いのですわ」
「理人君…ありがとう」
「それなら良いのよ」
「神代君…大変だね、まだうちの方が楽だな」
木崎君は本当に凄いな。
こんな何もしなくても生活が出来る環境でも、何かしら仕事を探して頑張っている。
ユウナにユウもフルールの訓練にちゃんとついて来ている。
多分、本物の日本人に成れるとしたら…次は木崎君達だな。
「あはははっまぁね! だけどその分毎日が楽しいんだ。木崎君も同じだろう?」
「当たり前じゃ無いか」
「それでさぁ、一応テラス様にお伺いを立てたんだけど、テラス教ではロリコンって罪には成らないってさぁ! テラス様曰く『年齢制限を設けたのは人間側で関与してないわ。大昔には1ケタ代で結婚した時代だってあるのよ』だって神的には問題ないそうだよ。それで、まだ時期は決めていないけど、三人の結婚式をしようと思っている」
「僕はロリコンじゃ…無いよ」
「木崎君がロリコンなのは有名だよ、ねぇ塔子ちゃん」
「そうね知っているから隠す必要無いよ」
「ロリコンって何ですの?」
「お兄ちゃんロリコンってなに」
「お兄ちゃん教えて」
「ううっ、後で話す。それより神代君、君はどうなんだ? 僕より先に祭主である君が結婚するべきじゃ無いか?」
「確かにそうだな、それじゃ結婚するか」
「理人様…嬉しいのですけどこれはありませんわ」
「理人君…うれしいけどさぁ…もう少しね」
「理人、貴方場所と雰囲気を考えなさいよ..まぁ嬉しいけどさぁ」
「神代君…今のは無いよ…」
確かに今考えたらそう思う。
だけど...流すしかもうないな。
「それじゃ、二組一緒に結婚する、それで良いかな」
「ハァ~そうだね、腹を括るかな。うん結婚するよ、ユウナ、ユウ、本当に僕で良いの?」
「「はい」」
なんで、三人とも俺を見てくるんだ。
「綾子、塔子、フルール、俺と結婚してくれないか?」
「もももも勿論ですわ」
「お嫁さんえへへっ」
「私も、うん花嫁さんになってあげるわ」
勢いって怖いな、まぁこうでも無ければ話が進まなかったから良いか。
◆◆◆
「それで、これが実は皆へのお礼…じゃじゃーん」
「こここれは、シュークリームにエビマヨか? 神代君、これは一体」
「なんだかすごく美味そう」
「なにこのお菓子、凄い」
フルールに綾子に塔子は驚かないよな…何時も食べているし。
よく考えたら、材料は持って来れないけど知識は持ち込める。
僕達は図書館にもネカフェにも行ける。
解らない事はそこで調べて来れば良いだけだ。
これは建物にも生かしているが、料理だって調味料だって知識があればこの世界の材料で再現すれば良い。
「覚えていた知識を元に再現してみたんだ、本物には及ばないけど食べて見てよ」
「ああっ、凄く懐かしいありがとう」
「こんな美味しい物初めて食べたよ」
「凄く美味しい」
いつか木崎君達にも本物を食べさせてあげたい。
心から思った。
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