第83話 ユウナとユウ 薔薇



「此処が皆さんの居住区域になります」


凄いな、これエレベータは流石に無いけど、団地とかマンションに近い。


「お兄ちゃん、本当に凄いね、こんな所に住めるんだね」


「お兄ちゃん…あの人と知り合いなの?」


「一体どうしたって言うんだユウ」


「ううん、何でもない…」


凄くユウナははしゃいでいるのにユウの様子が可笑しい。


さっきから何故だか浮かない顔をしている。


気のせいか。


「それでですね、この部屋は凄い事に魔石を使った冷暖房にキッチン、お風呂にトイレもあるんですよ」


「成程、凄いですね」


「家賃は金貨1枚、それに魔石代金も含みますから、凄いでしょう?」


前の世界で言うなら電気ガス水道、家電、家具がついて4LDK 10万円は安い、トイレにはウオシュレットもどきに洗濯機もどきもある..まぁ全部劣化品だが、これまでとは大違いだ。


よくぞまぁ、おもちゃみたいなレベルだが再現した物だ…流石だな。


「有難うございます」


「今日は、ここ迄です。あとはゆっくりお休みください」


凄くはしゃいでいるユウナに対して暗い顔のユウが凄く気になった。


◆◆◆


私は今ユウと一緒に外にいる。


お兄ちゃんには夜の街を歩いてみたい。


そう言って出て来た。


「俺も行こうか?」


そういうお兄ちゃんに「女の子同士の話があるから」そう言った。


「それなら仕方ないな」


とお兄ちゃんは留守番だ。



「それで、ユウ何かあったの? 昼間から様子が可笑しいけど!」


「あの..どうすれば良いのかな? あの理人さんが『悪魔の子』達を壊滅させて殺した人なんだよ…ユウナ」


「そうなの…それでユウはどうしたいの? 仲間の復讐? それともこのまま黙って暮らす? まずはそれを決めないといけないよ」


どうしたものかな。


確かに身を寄り添って生きては来たよ。


だが、友達かどうかと聞かれたら多分『友達じゃない』


お互いが生き残る為に寄り添っていた。


それだけの関係。


私が頭目になったのは容姿が悪いから皆から嫌われていたからにすぎない…舐められる訳にいかなかったからだ。


運よく子供の中だけだけど…実力はあった。


頭目になってからも何回仲間に襲われたか解らない。


私を殺して頭目になりたい人間が数人いた。


私の命が助かったのは、あの場に居なかったからだ。


誰が敵なのか炙りだす為に…少し距離を置いた。


まぁ、誰が敵か、知る前に全員殺されちゃったんだけどね。


ユウは逆に弱いから虐められていた。


聞いてはいないけど、あの時にユウが死ななかったのは虐められてアジトに居なかった可能性が高いよね。


さぁどうするのかな?


『今更、あいつ等なんてどうでもいいんだよ』


ユウ、私は今の生活を捨てるのはまっぴらごめん…


私にとって大切なのは『お兄ちゃん』だからね。


理人さんと会った時、お兄ちゃんは嬉しそうだった。


多分、友達それも親友に近いかも知れない。


復讐しても勝てない相手だし…万が一成功してもお兄ちゃんは悲しむし、此処に住めなくなる。


ユウ、貴方は今の私にとって命の次に大切な仲間。


だけどね…お兄ちゃんは命より大切なんだよ。


家族すら嫌った私。


仲間からも嫌われた私。


そんな私を心から愛してくれたお兄ちゃん。


沢山の沢山の愛情をくれたのに…私は膝枕しかしてあげていない。


だから…ユウごめん。


貴方の選択次第じゃ『貴方を殺す』…ごめんね。


「ユウナ、彼奴らは友達じゃないからどうでもいいんだ。だけどね、だけど『元悪魔の子』だってバレたら不味くないかな?」


うん、ホッとしたよ。


「確かに不味いね、万が一バレてお兄ちゃんの立場が悪くなると不味いもんね。最悪追い出されちゃうかも知れないけど、正直に理人様に言いに行こう…私達は追い出されるかも知れないけど…多分、お兄ちゃんは残れるよ」


「此処に住みたいな」


「そうだね」



◆◆◆


急に木崎君の仲間が会いたいと言って来た。


「こんな遅くにどうしたんだい木崎君は一緒じゃないのか?」


「はい…私達二人だけで会いに来ました」


「大体、何の用事か解るけど…自分の口から聞きたい」


「私達は…『悪魔の子』なんです。更に言うなら私は頭目でした」


「私も…ごめんなさい」


「それで仇でも取りにきたのかな」


「違います、そんな事しません。ただそれがバレてお兄ちゃんが困った事になるのが嫌なんです」


「場合によってはユウナと一緒に追放されても構いません…お兄ちゃんは此処に置いて下さい」


今の俺は道真を使っている。


だから、これが本当だと言う事が解かる。


二人ともガキだけど良い奴だ。


木崎君は本当に仲間に恵まれたな。


「木崎君は『き』俺は神代だから『か』 前の世界では出席番号が近いから何かと一緒に何かする事が多かったんだ。 悪魔の子の時の事は加害者の俺が言うべきではないが気にはしていない。ただ、あの時、あの国の法律では『殺されても仕方が無かった』これは解かるよな」


「それは解ってやっていた…殺されて仕方ないよ」


「盗賊だもん…それしか無かったんだもん」


「二人とも考えて欲しい。この国ならいやテラス教が目指す世界なら、全員盗賊に成らないと思わないか?」


「「思う」」


「全て貧しさが悪かったんだ。あの時の俺には救う力が無かったんだ、だが今なら救える。寧ろ助けてあげられなくてすまなかった。ごめんな」


「良いよ、謝らなくて、盗賊だもん」


「殺されても仕方ない」


「そうか、俺と木崎君は結構、仲が良かった。許してくれてありがとう。それと、彼奴の好みも知っている《ロリコンなのは当人から聞いたし、その手のアニメも好きだったよな》 君達二人は木崎君の理想の女の子だよ。そうだ落ち着いたら三人の結婚式を俺があげてやるよ..どうかな」


「「本当ですか!」」


「約束するよ…それで、今現在テラス教団では少年少女部のリーダーを必要としている。そこでユウナがリーダー、ユウが副リーダーになって纏めてみないかな? 暫くは、指導者について勉強になるけど…月に金貨5枚更に上乗せして報酬を払うよ…どうかな」


盗賊団の頭目とその部下…うってつけだよね。


「喜んで引き受けます、やった…これで私もお兄ちゃんにプレゼントをあげれる」


「うん、やった」


「それじゃ、指導係のお姉さんも折角だから紹介するね」


「「はい」」


「私の名前はフルール、黒薔薇のフルールと言えば解りますわね! 薄汚くか弱い少女から2本の美しいバラに育てあげましょう! 私に黙ってついて来れば良いのですわ。咲き誇るバラに確実に育ててあげますわ。 大丈夫ですわ。安心して良いですわ。死なない限り確実にバラにして差し上げます。さぁ一緒に咲き誇りましょう、まずは半年で黒騎士並みに育てて差し上げますわ」


「あっあああっ、黒薔薇のフルール様、目をつけられたら即自殺した方が幸せだっていう恐怖の代名詞」


「黒騎士並みって..あの死神より強いって噂の騎士…本当に居たの」


「丁度仲間が少女を育てたい。そう相談を受けていたんだ。頑張れよ」


「あら良くご存じですわね。『悪魔の子』そんな謙遜は要りませんわ。直ぐに本物の悪魔なんて雑魚だと思える位にはして差し上げますわ」


「「宜しくお願い…致します」」


「宜しくですわ」


良かった、良かった。


少年少女部のリーダー候補も見つかったし、フルールの『薔薇』を育てたいって希望も叶った。


明日は久しぶりに木崎君からオタ話でも聞こう。



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