第46話 演習 子供でも


演習 子供でも


しかし驚きましたわね。


まさか皆さんが此処までだとは思いませんでしたわ。


特に理人様は素晴らしいですわ。


初めて人を殺した人間は普通は少しは精神的におかしくなりますわ。


それは将来は黒騎士になれる位精神力のある人間でも同じですわ。


人を殺した事を無い人間をチェリーとまぁ性交に例えて異世界人は言いますが、それだけ大きな出来事なのですわ。


剣の達人と言われる天才も実戦でこの『チェリー』を卒業できずに騎士にすらなれずただの兵士で生涯を終える場合もありますわ。


幾ら理人様でも初めて人を殺したのです、なにかしらショックがある筈ですわ。


まして、平和な世界からこの世界に来たのですから、かなりショックな筈ですわ。


人を殺せば場合によっては光すら失われる事もありますわ。


どんな正義感のある人間、 どれ程優しい善人でも影が落ちたように性格や人柄が変わる場合はありますわ。


それがゴブリンを殺し、2人の罪もない人間を殺しても失われませんでしたわ。


ほんの少しだけ、泣いていましたが、すぐに真っすぐな目で私を見つめる姿は…そうまるで太陽のよういえ、そう『神』ですわ。





此の世界の女神とは違う私を照らす明るくて暖かい光のような『本当の神』に私には思えましたわ。


私からしたら、此の世界の俗物的な存在の女神とは違う。


本当の意味で闇に染まらない『光を宿した存在』そういう存在に思えましてよ。


それと、塔子に綾子。


あれは私と同類ですわね。


まぁ、殺しの経験こそ無いですが『人の事などどうでも良い』そういう碌でも無い人間ですわね。


本当に私に似ていますわ。


ゴブリンを殺した時に笑いながら殺していましたわ。


あれは、残酷な人間の証ですわ。


最も、理人様にはその姿を見せたくないのか、上手く取り繕っていましたわね。


理人様なら、きっと『その残虐性』も受け入れてくれるのに…馬鹿ですわね…面白いから態々お教えしませんわ。


まぁ同類と言う事が解って良かったですわ。


善人ぶった、脳味噌お花畑を抱えて旅をするなんて大変な事、したくありませんから。



◆◆◆


「流石は、聖女パーティーですね。問題無く討伐はクリアです。次はいよいよご要望の『盗賊』の討伐です」


「「「宜しくお願い致します」」」


「宜しくですわ」


フルールだけ挨拶がぞんざいだ。


ただ、よく考えてみれば、黒騎士を率いていたフルールは騎士より恐らく立場が上だった筈だ。


そう考えたら『これで良いのかも知れない』


「これから、ご案内する場所は盗賊団『悪魔の子』の住処です」


「悪魔の子?」


「はい、おおよそ20名位の小さな盗賊団です。恐らく住処は複雑で無い分討伐はゴブリンより楽かも知れません」


騎士が何か言いたげな顔をしている。


迷っているのなら無理に聞く必要は無いだろう。


「さぁ、今度は対人戦ですわ」


フルールは普通に笑っていた。


だが、不思議な事に塔子も綾子も会話に怯え等が無い。


これから『悪人』とは言え人を殺すのに、大丈夫なのだろうか?


昔、友人から『女の方が生理がある分男より残酷で血に強いんだ』と聞いた事があった。


案外、本当の事かも知れない。


◆◆◆


「我々は此処で待機しています、小さな盗賊団なので3時間もあれば討伐は可能でしょう。もし3時間経って危ないようでしたら我々が飛び込みます…その頑張って下さい。」


『頑張って下さい』態々気を使った言葉が何故か気になった。


「有難うございます」


お礼を伝え、俺達は、前回と同じで先頭が俺、塔子、綾子、フルールの順で入っていく。


見た目洞窟みたいなのだが、何故見張りも居ないのか解らない。


今回は棍棒ではなく『ショートソード』を全員が装備していた。


魔法がメインの塔子や綾子が居るのに俺は敢えて全員の武器を刃物を選んだ。


フルールの『最初から魔法を使うと隙が生まれるのですわ』との意見を採用したからだ。


『魔法や飛び道具を使う人間は殺し合いをしていた相手なのに、命の重さを知らず、命乞いに簡単に応じる』その結果、隙をつかれ殺される。


だから、こそフルールは


『人を殺す、殺される。その重みを知るべきなのですわ』


と刃物を提案してきた。


汚れ仕事をしていた彼女だからこそ、その言葉には凄く重みがある。


暫く進むと、少女が三人居た。


日本で言うなら小学生位の年齢にしか見えない。


俺に気が付くと、ナイフを抜いて襲い掛かってきた。


「危ないのですわ! 理人様!」


フルールの声で我に返った俺は、ショートソードで斬りかかった。


俺の剣は相手の首すじを切り裂き、そのまま動かなくなった。


「よくも仲間を殺してやる」


「殺してやるー――っ」


何故俺は気が付かなかったんだ。


『悪魔の子』という名前の盗賊団だ。


どう考えても『子供』の盗賊団じゃないか?


この世界は貧しい人間が多い。


スラムにだって子供は居るのだ。


盗賊団に居ても可笑しくない。


「私は子供でも敵には容赦しませんよ!まして理人を殺そうとした人間の仲間なんですから、殺す以外の選択はありません」


「貴方の仲間は理人くんを殺そうとしたんですよ? 死んだ方が良い人間ですよね!」

「そんな、お姉ちゃん許して」


「私、まだ子供だよ…」


相手の言葉に惑わされず、二人は走り出して、塔子は相手の喉を切り裂き、綾子は相手の腹を引き裂いた。


塔子が切り裂いた相手は息苦しそうに、綾子が切り裂いた相手は内臓をまき散らして死んでいった。


情けない。


相手が子供だからって油断したのは俺だけだ。


騎士が言い淀んだのは多分、これの事だろう。


フルールに黙っておくよう言われたのか、あるいは子供を殺させるのを躊躇したのか、その両方かも知れない。


「悪かった、もう油断しない」


「気を付けて下さい。相手は子供でも盗賊、平気で人を殺す相手ですわ」


「ああっ面目ない」


本当に油断した。


もし、フルールが声をかけてくれなかったら『危なかった』


俺だけじゃなく、後ろには仲間がいる。


場合によっては塔子や綾子が怪我した可能性もある。


もう油断はしない。


「待ってお兄さん、私子供だよ助けてー-っ」


「死にたくない、まだ死にたくないよおーーーーーっ」


「助けてくれたら何でもするよ、私なんでもするからーーーっ」


情け容赦なく殺した。


殺した相手は全員が少年少女。


だけど、彼等は盗賊だ。


此の世界の盗賊に生ぬるい者は、恐らくいない。


前の世界とは違い『盗賊』に人権は無い。


捕まれば死罪が確定しているから『相手を殺しにくる』のは当たり前だ。


相手は確かに子供だ。


だが、もし俺達が負ければ、俺は殺され、塔子や綾子フルールは売り飛ばされるか、殺される。


『殺し合い』の場所に相手は立っているんだ。


ここで偽りの慈悲など意味は無い。


もし俺が情けをかけて捕まえるだけで済ませても、『盗賊』なのだ、後で確実に死刑になる。


見逃せば、他で盗賊になりまた同じ事をする可能性だってある。。


『殺す以外の選択は意味が無い』


敵に強者はいなかった。


幾ら盗賊でも子供だ当たり前と言えば当たり前だ。


騎士に対応できるレベルなら、俺達には余裕だ。


『可哀想だ』確かにそう思うが、皆殺しにした。


せめて苦しまないように一撃で確実に仕留めた。


相手が子供だからとはいえ『殺しにくる相手』だからだろうか?


前の二人とは違い『悲しい』という気持ちにはならなかった。


それは塔子や綾子も同じようだ。


流石に子供を殺したあとだ、顔色が悪いんじゃないか?


気にかかって二人を見たが。


なんて事は無い平常通りだった。


多分、今回の事はフルールが仕組んだのだろう。


『異世界で生きる』その本当の意味を教える為に。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る