第37話 王都見学 お茶とドラッグストア



残りの王都見学はフルールを交えて三人で見てまわる事になった。


奴隷商を出た俺達は少し話をする為に近くの喫茶店に入る事にした


「ご主人様、此処のお店のケーキは物凄く美味しいのですわ」


「そうか?それじゃ入るか?」


前の世界のケーキの味を知っている俺からしたら、この世界のケーキは微妙に思えた。


「「…」」


二人の様子が何やら可笑しい。


「フルールさん、貴方は奴隷ですわよね?」


「はい塔子様奴隷ですわ! それがどうかされましたの?」


「その割には随分と理人と馴れ馴れしいと思うのは気のせいでしょうか?」


「私が見てもそう思います」


「塔子様、綾子様、当たり前の事ですわ! 私は理人様の奴隷なのですわ! いわば身も心も主である理人様に捧げた身なのです。ご主人様が喜ぶように行動するのは当たり前のことですわ」


「ですが、此処は大通りです。もう少し慎みを持って行動なさい」


「私もそう思います」


「あらっ二人ともヤキモチですか? 奴隷にヤキモチ焼いてどうするんでしょうか? みっとも無いですわよ」


「別にヤキモチなんて焼いてません! ただ私はもう少し慎みを持ちなさいと言っているんです!」


「なぁ~に変な事を想像してるんでしょうか? ただ私は理人様の手を引いただけですわ…この位貴族の子女では普通の事ですわよ! それとも二人ともご主人様の『手も握った事も無い』なんて言いませんわよね?」


「「ううっ」」


「俺たちはまだそういう関係じゃないんだ、余りからかわないでくれ」


「そうですの? まぁそれなら私と同じですわね、まぁ拷問という仕事柄、裸にしたりちょん切ったり、四肢の切断とかは経験ありますが、それ位ですわ」


フルールが話していると、たいした事をしていない様な気がするのは気のせいか?


ちょっと待て『ちょん切る』。


思わず俺は股間に手をあてがいそうになった。


「凄いな」


「拷問とか毒殺は慣れですわ!最初は抵抗がありますけど、慣れてしまえばどうって事はありませんわ。お肉を料理するのとなんだ変わりませんわ…どちらかと言えば目を潰したり、溶かした鉛を口に流し込む方がよっぽど…」


「フルール、その話はもう良いから、早くお店に入ろう」


「そうですわね」


四人でお店に入り、ケーキと紅茶を注文した。


フルール曰く、コーヒーは基本美味しくない店が多いから紅茶がお勧めなのだとか。


しかし、貴族令嬢なのになんでこんなにお店に詳しいのだろう。



◆◆◆


「そう言えば、塔子はどうして話し方を変えたんだ?」


凄く気になっていた。


最近の塔子は『私(わたくし)』『ですわ』と貴族風に話すし、俺に『様』をつける。


これはこれでお嬢様の塔子に似合うが『塔子じゃない』そういう気がする。


「塔子ちゃん、貴族と余り話せてない理人くんが可愛そうだから、令嬢風にしていたみたいですよ?」


「そうなのか?」


「ええっ、そうですわ、それに…この方が」


「塔子は元の方が似合って良いんだけど?」


「え~と理人様」


「塔子に『様』とかつけられると他人行儀みたいで寂しいんだけど?」


「わっわかりました…理人! 理人…これで良いですか?」


「うん! やっぱり塔子はその方が似合っているよ!」


「そう?解りましたわ…から」


この方が塔子に似合っている。


別に、石のやっさんがフルールが加わる事を忘れて、加筆して塔子と喋り方が被るから焦って、なんて事じゃないからな。


「その方が塔子らしくて良い」


「そうですか? なら戻します」


うん、この方が余程良い。


◆◆◆



話せば、離す程フルールを仲間にしたのは正解だったようだ。


「随分とフルールは色々な事に詳しいんだな」


「『汚れ役』でしたからね、小さい頃から奴隷商に人を売り飛ばしたり、犯罪者ギルドと付き合ったりしていましたわ。案外依頼する時は『場所』に拘りがある協力者も居ますから自然と詳しくもなりますわ」


此の世界に疎い俺達には一番必要な人間、それがフルールだったのかも知れない。


「凄いな…」


「そうですわね。私は凄いですわ!何しろこれでも『黒薔薇』ですから」


「黒薔薇?」


フルールから聞いた話だと『黒薔薇』と言うのは公爵家に置いて代々『裏事』を取り扱う人間に与えられる称号なのだとか、そしてそれには女性が選ばれるそうだ。


「先代はお母さまでしたわ。『殺人を恐れず』『知恵が回り』『残酷な事に手が染められる』それを持って『黒薔薇』になれる。 そして私は劣等生ながら黒薔薇になれましたわ。あとは咲きほこるだけでしたが…摘まれてしまいましたわね」


本来ならフルールは『黒薔薇』になる事で公爵家の裏でナンバー2になり、将来は約束されたような物だったが…失脚してしまった。そういう事だ。


しかし、塔子も綾子も凄いな。


普通なら引く話なのに、さっきから驚いた様子が全く無い。


塔子は何となくこういう事は嫌いじゃ無さそうだが、綾子が普通に聞いているのが不思議でならない。


「綾子、大丈夫!」


「えっ何がですか?ちょっと驚きましたよ!まるで小説や映画みたいな話ですね…絵空事のようです。ですが、フルールさんが味方になるなら心強いと思います」


そう言いながら驚いた顔に見えないのは気のせいだろうか?


俺が綾子を見つめると綾子は慌てて口にハンカチをあてがった。


気のせいだよな?


「ちょっと、なんで理人は私には聞かないのよ」


「塔子は、こういう事に慣れていそうじゃないか?」


「確かに…って一緒にしないでよ。私も流石に人なんか殺して居ないわよ!」


塔子に追い詰められて自殺した子の話を俺は聞いた事がある。


『自殺に追い込むのが殺人』なら経験はあるよな?


下手したら、俺もその的の1人だったかも知れないし、それを今言うのは野暮だな。


「そうだな。綾子はあまり聞きたく無いなら、耳を塞いでいても良いよ」


「大丈夫です! 此処は異世界だから、私も頑張らないと」


そう言ってガッツポーズをとる綾子はハムスターみたいで可愛い。


「扱いが違いすぎます!」


「悪い、塔子も聴きたく無いなら耳を塞いでいて良いよ」


「大丈夫よ」


しかし、女の子って凄いな。


フルールの話を普通に聞いていられるんだから。


◆◆◆


夕方になり鐘がなった。


お城に戻る時間になった。


「ごめん10分だけ待っていて」


「どこか行かれるのですか?」


「ちょっと買い忘れ」


そう言うと俺は三人に背を向け走り出した。


此処は安全だと聞いているし、フルールが居るから大丈夫だよな。


俺は三人と別れ、テラスちゃんがくれたご利益『世界観』を使った後に、近くの『薬店』に入った。


やはりそうだ。


只の薬店、が前の世界のドラッグストアになっている。


この品揃えはまるで『ヨンテンドラッグ』みたいだ。


売っている物は、全部日本と同じ。


更に手持ちのお金が『円』に変わっている。


俺は目薬とコーラのペットボトルを20本買うとアイテム収納に放り込んだ。


地味に前の世界と違い消費税が免除なのが嬉しい。


『世界観』 

異世界で不自由しないように『日本』のルール、環境を理人のみ適応。

本来の理人は日本で平穏に暮らす権利があったから、その権利を理人に与える。

この世界は理人が本来住む世界で無いので、神の権限で税金も免除。


やはりこう言う意味だったのか。


だが、これは『理人のみ』だから塔子や綾子、フルールは連れて来れないんだろうな。


今度時間がある時に検証してみるか?


俺はドラッグストアから出て後ろを見たが…もう只の『薬店』だった。


三人の元に走って戻り、若干後ろめたさを覚えながら城へと一緒に帰った。




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