第30話 さよならテラスちゃん  皆リア充じゃないか!



『それじゃ理人私は他にもやる事があるから』


そう言ってテラスちゃんは去っていった。


今迄は俺の相談相手として常に傍にいてくれた。


それが居なくなる事で急に寂しさがこみあげてくる。


俺は城の内庭にある木を拾ってきて小刀で彫刻をし、懐中仏ならぬ懐中神を作ってみた。


『何時も神は見守っている』


それを実感できた出来事だった。


この世界に来る前に読んだライトノベルで、本当に駄女神だが、ずっと一緒に居てくれる話や、焼きもちやきの女神と暮らしている話があった。


その設定が凄く羨ましく思えた。


『どんな時でも傍にいてくれる神』その幸せにきっと彼等主人公は一生気がつかないだろうな。


テラスちゃんが居なくなった今、本当にそう思える。


テラスちゃんが此処に居たことは俺しか知らない。


だが、俺は彼女の存在を死ぬまで絶対に忘れないだろう。


そう思い、懐中神に手を合わせた。


すると…


『よんだ~』とテラスちゃんの声が聞こえてきた。


寂しさからきた空耳かと思ったら違っているようだ。


『理人は神職の卵だったからこうなるんだね』


テラスちゃんもなんだか驚いているみたいだ。


『どういう事でしょうか?』


理由は簡単だった。


此の世界で神主(の卵)は俺1人だけで懐中神(ご神体)も1つ、そして地球の神様はテラスちゃん1人。


おのずと俺が祈ればその祈りはテラスちゃんに届く。


そういう事か。


『そういう事だよ! 流石にもう姿は滅多に現す事は出来ないけど、困った事があったら祈ると良いよ。絶対とは約束できないけど神託位はしてあげるからね』


『有難うございます』


ちょっと締まらないが完全なお別れじゃ無くて本当によかった。


それと同時に『俺は凄く恵まれている』


心から本当に思った。


『神託』とさらりとテラスちゃんは言ったが、それは一生信仰に生きる、そこまでした神主ですら生涯数度しか貰えない程貴重な物だ。


それがこんな頻繁に貰えたなんて知ったら爺ちゃんは卒倒するかも知れない。



◆◆◆


結局、俺は平城さんと塔子と一緒に過ごす事が多くなった。


塔子は聖女の専門の授業、平城さんは大魔道の専門の授業があるので、その時は最初、一人で過ごしていたが…態々居心地を悪くする事も無い。


こちらから皆に積極的に話し掛けていった。


「緑川さん」


俺が話し掛けると緑川は驚いた顔になった。


「どうした…理人?」


顔が一瞬青ざめていたが、何とか声を出した、そんな感じに思えた。


「いや、この間の件ですが、緑川さんのいう事も最もだと思いまして、気にしないで下さい。そう言おうと思っていたのです」


「許してくれるのか?」


「いえ、そこの問題じゃないんですよ。此処に来た時点から先生と思っていたのがお互いの間違いなんですよ。緑川さんは給料を貰っていないんだからもう先生じゃない。もし、緑川さんが『勇者』だったら違ったかも知れない。だけど『生徒を守ると言うのなら緑川さんが魔王と戦う力がなければ無理な話し』です。実質戦う力は無いのだから『教師ではいられない』そう思いました。違いますか?」


「いや違わない、俺は大河が怖かったから脅しに負けた。そして大河にお前が勝った後はお前が怖かったのさ。この時点でもう教師じゃ無いな」


最もな話だ。


此処には仲間の教師は居ない。


そして大河が暴れた時に止めてくれる警察も無い。


大人だから、教師だったからと期待したのがそもそも間違いだ。


「今迄交渉役有難うございました。緑川さん。これから俺は貴方を『先生』とは呼びません。他の人はどう思うか知りませんが、これからは皆の事なんて考えないで『自分の事を考えて』行動して下さい。 多分この世界は思っているより厳しい世界です。自分一人生きるだけでもきっと大変だと思います」


「そうだな、悪い…本当にそうだ」


「だから、顔見知りの緑川さん、顔見知りの神代くん。その関係からお互いスタートしませんか?」


「確かにそうだ、神代君。それが本来の関係だね。少し気が楽になったよ」


多分、緑川さんは解っていない。


残酷な話だがこの先苦労するのは確実に緑川さんだ。


もう暫くしたらパーティを組む事になる。


その時に態々教師と一緒にパーティを組む生徒が居るのだろうか?


賭けてもいいが『居ない』


これがイケメンで女の子の憧れ、もしくは気さくな教師なら別だが、緑川さんはどちらからと言えば口うるさい教師だったから恐らく無理だろうな。


それに、男女交際に憧れ、性的にも嵌めを外すつもりの生徒にとって教師とは一緒に居たくない。。


下世話な話かも知れないが、このクラスの男女共に真面目にそうなのだ。


勿論、居心地を良くするために他のクラスメイトにも積極的に話し掛けていった。


俺の中には平城さんと塔子の事で大きな不安があった。


平城さんの時はすんなりと受け流して貰えたが此処に塔子が加われば『俺は二股男』とか『ハーレム野郎』と呼ばれても可笑しくない。


なにしろ、この2人は同級生の中で1.2を争う美少女なのだ。


今度こそ『リア充死ね』とか罵詈雑言を覚悟していたが…


「いいんじゃない?此の世界は一夫多妻OKなんだからさぁ」


「俺からしたら理人お前貧乏くじだぞ!」


「俺の方がリア充だかんな!誤解するなよ」


「そうね、私も凄くモテるけど、妥協はしないイケメンエルフ一択よ」


「俺もエルフ一択だな…理人俺は『異世界ハーレム』を作る男だ! あんな2人には興味など無いわ!理人にくれてやる!」


「俺、メイドさんのルノールさんと付き合っているから、別に気にならないよ!」


「私はリアル貴族と今度お見合いなのよ!理人くんもガンバってね」


なんて事は無い。


同級生達は、恋愛観が変わっていた。


『奴隷購入予定組』はこの世界では人族の女なら金貨3枚(日本円で30万円)位から購入できること、エルフであっても金貨100枚(日本円で1千万)で購入できることに胸を膨らませていた。

自分達は強くてお金が稼げるという事を知っているからの余裕だ。

意外にも男子だけじゃなく、『奴隷購入予定組』に女子も多くいる。

もう暫くしたら連れていって貰える王都見学で『奴隷商に行きたい』と要望を伝えた猛者も居た…マリン王女は凄く冷たい目で見ていた気がするが全く気にしてないようだ。



『もう食われた、もしくは食われ掛かっている組』 異世界人(元日本人)は凄くモテルようだ。


そこに容姿は関係ない。


塔子から聞いた話では五大ジョブ以外はかなりの率で遺伝する。


体力とか身体能力ではなく、ジョブとスキルだけらしいがかなりの確率で引き継げ、もし引き継げなくても優秀なジョブやスキルを持った子が生まれてくる。この世界ならではの一発逆転のチャンス。嫌な話だが優秀な子種欲しさからの行動だ。確実に素晴らしい子が生まれ上級冒険者、騎士への雇用が確定なら将来に心配が無い『生活が不安定な者』や『お金のない者』には成功の切符になる。 ちなみに隅田くんが言っていたメイドのルノールさんは結婚している。だが、これは浮気ではない『旦那公認』の種付け。隅田君の子を妊娠したらそのままお城の仕事を辞めて息子を8歳(この位で異世界人(元日本人)の子はオークが狩れる位強くなるらしい)までしっかり育て寄生して生きていくらしい。あくまで噂だが、恐らく間違っていないだろう。


そんな訳で、このクラスの男子はかなりの率でメイドに食われているか、食われ掛かっている。


未婚のメイドの中には既成事実を作り嫁の座を狙っている者も多くいるらしい。



『貴族のお嫁さん、夫組』異世界人は前の話にある通り遺伝子的に優秀だから貴族としても子種、もしくは苗床が欲しい。また異世界人(元日本人)を伴侶にするのが一種のステータスになるから婚姻相手として、引く手あまたなのだとか。

特に女子は『此処の扱い』の子が多い。

それは男子と違って『もう食われた、もしくは食われ掛かっている組』には居ないからだ。

男子と違い妊娠してしまったら、そこから子供を産むまで戦えなくなる。

将来的には別としてもお城から出ていくときに妊娠していたら外面が悪い。

その為王様は厳しくその辺りの事を管理させている。

その代り『貴族とのお見合い』や『騎士とのお見合い』を望む者に積極的に斡旋している。


噂では貴族から断られる事はほぼないらしい。


そんな訳で皆が『リア充』なので誰も俺に絡んで来ない。


いや、寧ろ皆して、俺に哀れみの目を向けてくる。


正直嫌なニヤニヤ顔の笑顔で口にこそ出さないが見下しているのが良く解る。


俺は『無能』だからこの恩恵に預かれないのは誰もが知っている。


ちなみに平城さんも塔子も異世界人には不人気なのでそちらも大丈夫だ。


五大ジョブは遺伝しないから、優れた後継ぎが生まれる確率は普通にこちらの世界の人間と同じ。

戦力と名誉はあるがジョブが有名すぎて扱いにくく、生活習慣の違いから、嫁姑で過去に大きな争いが起きた事もあり、その伴侶としてのプレッシャーも大きく心労になる貴族も多くいたとの事。兎も角女の五大ジョブは不人気なのだとか。


そんな訳でなにも問題は起きない。


クラスの皆はリア充と俺を攻めてくるどころか、逆に哀れみの目さえ俺に向けてくる。


もし、大樹もこの事を知っていたら平城さんを襲わなかったかも知れないな。


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