第29話 塔子 その想い



私の名前は北条塔子。


北条の家に産まれましたわ。


だから、神になんて祈らない。


おじいさまは良くこう言いますわ。


『北条こそが神なのだ』と。


北条財閥は日本だけでなく世界的にも有名な財閥。


お金なら、それこそ一生懸命私が焼却炉に放り込んでも、増える方が遥かに多い位増えていく位あるらしいわ。



欲しい物で手に入らない物はなにも無いのよ。


例えばハリウッドスターに会いたい。


そんな事願っても一般庶民じゃ簡単には叶わない。


殆どの人は夢で終わるわ。


だけど、北条は違うの。


すぐに飛行機に乗って会いに来るわ。


どんな凄いスターも政治家も北条が『会いたい』と望めば最優先で飛んでくる。


飼いたいと望めば天然記念物だってペットに出来るし。


美術館に飾ってある絵画でも、博物館の展示物でも直ぐに自分の物になる。


その位なんでも出来るの。


『神になぞ祈るのは人間として二流なのだ! 北条こそが神なのだ、だから神に等祈る必要は無い!』


それが、おじいさまの口癖です。


『お父さまに出来ない事は無い』そう私は思っていましたの。


お父さまに愛人が何人も居たけど、その中には恋人や夫がいた存在もいましたし芸能人すらいましたわ。


勿論お父様を拒んだ方もいたそうですわ。


これは一例ですが、お父さまの愛を拒んだ方は、全て裏から手を回し『仕事に就けなくしましたわ』それも彼女だけでなく家族全員に恋人や友人まで。


その上で真面な所ではお父様の権力でお金を貸さないように手を回しますの。


真面じゃない所はお金を貸しますが最終的にはその債権はお父様が手に入れます。


この方法なら、お父さまの愛を拒んだら生きていけない状態になり借金ダルマになるのです。


その債権はお父様がお持ちですから、もう『お父様の物』になるしか無いのです。


弁護士を入れて自己破産しようとしても北条お抱えのスーパー弁護士軍団で戦います。


まぁ死ねば、流石に無理ですが『もし死んだら家族や恋人は地獄を味わう』そう言えば大体話が終わります。


酔っぱらったお父様はよく私に


「塔子、欲しい物があったら言うんだぞ! 人でも物でも何でも買ってやるぞ!お前は我が娘なんだからな」


そう言っていました。


多分お父様の中では『北条』以外は人ですら無い。


そう思っている様に思えましたわ。


こんなお父さまが『神社の氏子』をしているのが不思議です。


おじい様は言いました『北条は神なのだ』と。


だから、私は神に祈った事は『理人』の時しかありません。


あの時だけは『北条の力』でも無理だと思ったからです。


北条の力でも死んだ者は蘇えりません。


奇跡的に助かったと聞いた時は、凄く嬉しかったのを今でも覚えてます。


酸素マスクをして死んだように寝ている理人を見て、心を痛め、命が助かると解りどれ程喜んだか解りません。


『理人は生きていました』


私は初めて『神』に感謝したのです


その後、お父様は凄く怒り、私に初めて手をあげました


生れてはじめてお父さまが私を怒りました。


私は理人の事を本気で好きになっていました。


責任をとるつもりもありました。


「傍に置いて、一生面倒をみるから、理人が欲しい」そう頼んだのです。


その結果はお父様からの更なる怒声でした。


その時お父様は初めて『神代家』について私に話しました。


神代家は由緒ある家系で古くは卑弥呼に連なる血筋であり、暗躍する事が多く表にこそ出ないが、武家や旧華族すら敵わない程の血筋なのだそうです。


古い時代であれば、神代家から『養子や養女』をとれば、その一族は一代栄華が保証された程らしいですわ。


「それが理人の家系なのですか」


「そうだ、俺はお前の婿に欲しいと頼んだ事があるが『最早、神代に価値などは無い、孫の理人には自由にさせるつもりじゃよ』と断られてしまったよ」


今の時代に北条との婚姻を断ることが出来る。


それだけでも『神代』の凄さが解ります。


「ですがお父様、今の話では昔と違い神代家には力が無いように思えるのですが…」


「実際は解らない、だが『神代』を敵にすると何故か破滅を迎える。逆に味方に付ければ逆境すら跳ね返し運が味方し好転するのだ」


「まさか、そんな…神代家にも暗躍する存在がいるのですか」


北条に裏の顔があるのだから、理人の所にも何か裏があっても可笑しくありません。


「それが、違うのだ、幾ら調べてもそんな存在は居ない、だが神代に都合の悪い存在は何故か消えていく。まるで、そう天が味方についているように神代の意のままになるのだ」


「まさか」


「それがまさかと言えないから困るのだよ。数代前の祖先が病魔に侵された。幾らお金を積もうが治せないと断られ、どんな医者も匙を投げたのはお前も知っているだろう?」


「たしか、その後、奇跡の様に病気が治ったとの事でしたわね」


「その病魔をはらったのが神代家のその時の当主だった。それ以来、北条家はお金でも権力でもどうにもできない時に『神代家』に頼るようになったのだ」


「そんな夢みたいな事がある訳ないですわ」


「そうか? お前は見たでは無いか? 忘れたのか?恐らく理人くんは死んでいた筈だ。そうじゃ無ければ北条の血を引くお前が泣く筈が無いでは無いか! 普段のお前なら『お金なんて幾ら掛かっても良いから、すぐに名医を連れて来なさい』『もしくはすぐに手術室1つあけて名医を確保しなさい』そう叫んだはずだ」


そうですわ...私は理人が血だらけになって死んだのを確信した。


だからこそ神に祈ったのです。


そう…あの時、理人は、死んでいたのです。


「そうですわ…」


「良いか塔子、神代だけは敵に回さないでくれ」


「はい…」


理人を私が敵にするわけが無い。


こんなに愛おしいんだから。


「あと悪いが、理人くんには近づかないでくれ…お前は転校させる」


「何故ですか…私は理人を愛しています! 理人さえくれれば他は何も望まない位に愛しています!」


「神代家が怒っている、暫くはおとなしくしておくんだ! これは北条家当主としての命令だ!」


「わかりました」


「いいか! この際だから教えておく、北条家が絶対に敵に回さないのが『神代家』、そして同等に扱うのが『平城家』だ。この二つ以外ならどうとでもしてやる。この二つとは今後揉めない様に気をつけるのだ」


「『平城家』もですか?」


「そうだ『平城家』は政治家や警察、官僚を輩出している家系で我が家とは共闘関係にある。いわば盟友だ」


そんなのもあったのね。


「解りました」


理人と会えない時間が私を狂わせました。


言い寄ってくる男は山ほど居ます。


このままでは理人と結ばれない可能性もありましたので、少し他の男にも目を向けましたの。


もし理人と同じ土台に立てる人が居たら心が動くかもしれない。


そう思ったのです…ですが、皆クズばっかりでした。


好きだと告白してきた男は監禁して、ちょっと拷問の真似をしたら泣き叫びます。


「指で良いんで切断してくれます」そう言ってナイフを渡すとガタガタ震えて出来ません。


本当にクズですよね?


あの幼い理人は『私の代わりに滅多刺しにされたのに』こんなことも出来ない。


こんな人間が愛を語るなそう言いたくなります。


『嫌だ、嫌だ、死にたくない』


『助けて、助けてもう近づかないから』


馬鹿です。


こんな人間に恋する資格はありません。


まぁ腹が立ちますが可哀想だから抵当にボコらせて返して差し上げました。


ですが、死んでしまったら『私を貰える』という権利が無くなってしまうので少し低くしてあげましたの。


『利き腕1本斬り落としたら付き合う』という感じです。


本当に馬鹿ですわ…私は条件を出しているのに、それ以下の告白をするクズばっかり。


ですが、それでも良いと言う方が現れました、今迄と違い、自分から私の条件を飲んだのです。


「塔子さん、好きです、付き合って下さい」


「私、結構簡単に落とせますのよ! 腕一本斬り落とせば大丈夫ですから」


「僕は塔子さんの為なら腕の一本位捧げられます」


「そう、素晴らしいわね」


そんな事言っていた癖に…いざその準備をしたら…


「止めろ、止めて下さいーーーっ」


折角、私の屋敷に招きましたのに。


鼻水を流して喚いてばかりですわ。


約束ですから、使用人にチェンソーを用意させまして取り押さえさせました。


可哀想だから局部麻酔はしてあげました。


それなのに更に泣き喚くのですから、可笑しな話ですよね。


「貴方は私に腕を捧げると言っていましたよね!さぁ頑張って下さい!これさえクリアできれば私は貴方の者ですよ」


「嫌だ、嫌だいやだーーーーーっ」


呆れました。


嘘をついたのですね、此奴も口先ばかりのクズでしたわ。


「言葉だけじゃなく、貴方はもう挑戦してしまったのです…館迄きて、私はシャワーも浴びていますし、貴方を受け入れる準備をしていましたわ。貴方が愛を示せばこの後お父様に合わせる、その準備も更にしていましたの。ただの虫けらが北条家の娘を抱き、当主に挨拶するチャンスを貰ったのです…ただではすみませんわ」


まぁ、余り惨い事はしたくないので指三本で済ませてあげました。


切断では可哀そうですのでただ折っただけです。


その後は、本当に腕一本取られると解り、告白する人間は少なくなりましたわ。


やはり私には理人しか居ません。


理人は私の為に滅多刺しになってくれました。


あんなに勇ましくカッコ良く『愛』を示して下さった方は他には見つかりませんわ。


やはり、私には理人しか居ない様です。


お父さまのせいで会えませんから…仕方なく探偵を雇って『理人の全て』を集めて貰いました。


噛んでいたガムに抜けた髪の毛、そして洋服まで…コレクションはどんどん増えていきます。


私以外の女が理人と付き合うのは許せないので、全力で潰しました。


私は『理人への愛』に狂ってしまったのかも知れません。


時人(ときひと)お兄様に『流石に妹ながら気持ち悪い』といわれる様になった頃、お父さまが私を気遣って理人と同じ高校に入れて下さいました。


ですが『手を出したら直ぐに転校させる』という条件付きです。


仕方なく距離を置いて眺めるだけでの生活で我慢しましたわ。


大樹達は男女としてではなく悪い友達として仲良くなりましたが


『全然満たされません』


そして嫌な事に…『平城』が傍に居ます。


どうすれば良いのでしょう?


気が付くと私の中で『理人』は『理人様』に変わってしまいました。


誰にも跪くことは無い…私が唯一尊敬しお慕いする存在。


それが理人様なのです。


『異世界』に来るなんて…此処にはお父様は居ません、私の恋は自由です。



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