第27話 邪神と魔王とテラスちゃん【リクエスト部分】



「魔王ケスラーよ!我が云った通りであろう?異世界から人等攫っても良い事など無い。」


自分が庇護する存在が攫われれば、誰だって良い気はしない。


当たり前の事だ。


我にしたってもし異世界の神が、我が庇護する存在を攫えば、何かしらの報復は考える。


自分の庇護する存在を攫われて黙っている神は居ない!


「ははっ 誠にもって邪神様の言う通りでございます」


「解れば良いのだ」


今日、我はテラスという名の異世界の神の分体に会った。


かの女神は『女神による自分の世界の人間の誘拐』についてかなり怒っていた。


見た瞬間から解った。


分体だと言うのになんて『神力』だ。


もし我が戦ったとしたら、恐らく負ける。


これが只の分体なのだ。


分体がいるなら、本体が存在する筈だ。


そんな女神を敵にしたら我など赤子を捻るように殺される。


『手を出さないで良かった』

そう判断した我は正しかったのだ。


しかも異世界にいる神は彼女一人だけでは無い…かなり沢山の神が存在し、その神々の多くが『女神』に対して怒っているそうだ。


そんな存在を怒らせて無事に済むわけが無い。


◆◆◆時は少し遡る◆◆◆


突然、魔王ケスラーに神託を降ろしている途中、我の前に異世界の女神の分体、テラスと名乗る存在が現れた。


有無を言わさずに彼女は我に聞いてきた。


邪神である我が、その力を感じ動けなかった。


「貴方達はやって無いよね?」


何の事か解らぬので話を聞けば『自分の世界の人間がジョブをエサに女神に誘拐されるという事件を追っている』そういう事だった。


ルールを破ってはいけないのだ。


人間という存在は何処の世界でも神の作った最高傑作だ。


我が子、作品、神によって違いはあれど、大切な物なのだ。


我の場合は大切な存在は『魔族』だが、姿、形、能力は違えど人間の範疇に納まる。


最も、この世界の場合は少し事情が違い、我や女神が造ったのではない。


上位の存在『創造神』様が元を作り、我らの手で進化させてきた。


創造したのでなく進化させた我でも『我が子のように可愛い』存在だ。


それを奪われたのだ、怒るのは当たり前の事だ。


女神だってこの世界の創造神様が造った『人間の管理』を任されている。


そして、その進化を任されている。


その存在の大切さが解らぬわけ無いだろうに…


自分が強い存在を作れなかったからと言って『他の世界から攫う』のは間違えている。


誘拐犯と言われても何も言い返せないだろう。


『日本という国』の人間はこの世界の人間より『容量が大きく』強いジョブやスキルを与えても簡単に適合する。


どうしてそれに気がついたかは我には解らない。


だが、かなり昔から、女神イシュタスはジョブやスキルをエサにしてこちらに日本人を連れてきていた。


「それは神であればやってはいけない事だ!恥知らずな女神とは我は違う! その様な事など、たとえこの身が滅びようとしない」


「そう、それなら良いよ」


これはチャンスなのかも知れない。


忌々しい位強い『異世界人』を送り返す事が出来たら、それは魔族側にとっては素晴らしい話だ。


「もし、連れ帰りたいと言うなら手を貸そうぞ」


「殆どの奴らはもう要らないわよ『異世界の女神のくれるジョブやスキル』に目をくらんだ子は要らないからね。もう僕の子じゃ無く、此の世界の女神の子になって居るから死のうが生きようがどうでも良いさ。問題なのは、この世界に居ながら、僕達の子として生きている子なんだ『ザクロの話しのような問題が起きるかもしれない』から連れ帰る訳にはいかないしね」


確かに神の世界は厳しい。


他の神から『何か受け取ったら』もう取り返しはつかない。


その事を自分の子じゃない。


そう言っているんだ。


また大切な存在の子でも、その世界の物を食しただけで『制限がかかる事』もある』


ザクロの話は我も遠い昔聞いたことがある。


目が悲しそうに見えるのはこの女神が慈悲深い証拠であろうな。


「それなら、貴方はいったい何の為にこちらに来られたのですか?」


格上の女神、我が敬語になるのは仕方が無いであろう。


女神は話しだす。


「1つはこの『世界で唯一僕達の子が生きられる様にする事』そしてもう1つは『二度と僕達の子が奪われない様にする事』だよ…まぁ君達にも随分と迷惑を掛けたようだけど、もう二度と地球側から異世界には召喚されないようにするつもりだよ。だから、安心してよ」


「それは助かります。正直言えばこちら側はかなり押されていまして」


「そう…なんだ」


異世界の女神はなにか考えている様だった。


「『この世界にいる唯一の子』というのが我は気になりますが、どんな子なのでしょうか?」


「凄く良い子だよ」


異世界の女神が笑顔になった。


この表情からも、その存在が如何に愛おしい存在なのか解る。


だが、その存在は我の想像すら大きく超えていた。


彼女の唯一の子、理人という少年は凄く優秀で既に『勇者』に『剣聖』を倒し、『大魔道』を味方につけたと言う話だった。


「異世界の女神よ、私が口を挟む事をお許し下さい」


「君は誰だい?」


「この世界で魔王をしております。ケスラーと申します」


「そう、魔王なんだ? 良いよ、話位は聞いてあげる」


「私は貴方と貴方のこの世界で唯一の子、理人殿に最大限の感謝を致します」


「なんで?」


そりゃ感謝もするだろうよ。


ケスラーからすれば、五大ジョブのうち二人を倒してくれたのだ、しかも『勇者』という最強戦力の恐怖が無くなった。


残りは『聖女』『大賢者』『大魔道』そのうち『大魔道』が参戦しないのであれば、魔族の勝利は決まったようなものだ。


久々に勇者パーティに勝利し魔族側の勢力図が増得る事になる。


理人という存在が魔族なら、幹部や貴族に取り立て褒美など思いのままに与える位の手柄だ。


なにより『勇者』が居ないなら、ケスラーが殺される事はまず無い。


「私は『勇者達』と戦う運命にあった。そして恐らくは5人が揃った状態であれば、私が負け死んだ可能性は高い。その理人という少年は私の命の恩人でもあるのです」


「そういう事か、確かにそうだ」


「私的には何かお礼をしたいのですが」


「お礼かぁ…そうだ魔族は理人と戦わない、そんなのはどうかな?」


いや、これは我らにとっては願ってもない話だ。


『勇者』『剣聖』すら、倒せる存在。


そんな強敵が戦わないでくれる。


これはお礼どころか、明かにこちらにとっても良い話しだ。


「良い話だと思います。魔族側の神として、是非お願いしたい。ケスラーお前はどう思う」


「是非とも、お願いしたい話です。」


「助かるよ、魔族が敵で無くなるなら、この世界に理人を倒せるような存在はまず居ないからね。理人には僕から伝えるから安心して良いよ」


「助かります」


その後、細かい話が我と異世界の女神テラス、魔王の間で行われ『理人と魔族は戦わない』そういう盟約が結ばれた。


◆◆◆


「ケスラー、先程の話はどうだ?」


「素晴らしい話でした『勇者』『剣聖』が既に存在しないで『大魔道』はこちらの敵にならない。その上で『それらを倒した存在』と平和的な盟約を結べた。これで久々に魔族側が勝利を掴めるでしょう」


「この状態なら、もう勝敗は動かない」


「理人殿でしたか? このまま魔王軍に寝返ってくれれば更に喜ばしいと私は思うのですが、もし寝返って頂けるなら幾らでも好条件をご用意いたします」


「だが、異世界の女神テラスは自由にさせたい。そう言っていた。その意思は尊重しなくてはならぬ」


「勧誘は自由だと思います。もし魔王軍に来て頂けるなら『四天王統括魔軍総司令官』という私の次の椅子を用意し、広大な領地に屋敷を差し上げても構いません」


「確かにそれも良い、だが勧誘して無理ならそのまま友好状態を保ち放置するのだ。決して無理やりは駄目だ」


「それは何故でございますか?」


「これはあくまで余の感だが、案外理人という人物…人間側で一波乱起こすかも知れぬ」


こうして、邪神と魔王ケスラーは理人とは友好的な関係を築く…そう決めた。



※魔王や魔族側の神は魔神というお話もありますが『魔神』だと人類側の神も居るのでこの物語では『邪神』にさせて頂きました。御理解お願い致します。


※このお話は旧作品のリクエストから付け足した話です。


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