第26話 塔子=トーコ



困ったな!


本当に困った!


『塔子』をどうしたらよいのだろうか?


大樹も大河もこの世界でもやりたい放題だった。


聖人もあの二人程酷くは無い物の凄く横柄で好戦的だ。


だが、塔子は違う。


この世界に来てから別に悪い事はしていない。


それ処かリチャード達の時には助けてくれた。


塔子に俺は『借り』が出来てしまっている。


塔子については、元の世界で、沢山の悪い噂を聞いた。


その内容は、凄く気持ち悪く、幾ら『お嬢様系美少女』でも俺は付きあいたいとは思わない。


だが、この噂は微妙だ。


『自分を本当に愛しているなら、体の一部を差し出しなさい!』


これはどうだろうか?


本当に怖い女だが、これが悪い事かどうか判断がつかない。


塔子は性格は兎も角『超』がつく美少女だ。


ウェーブが掛った綺麗な茶色の髪は風でなびくとまるで、漫画のヒロインの様に見える。


やや釣り目だがら性格はきつく見えるかも知れないが、大き目の黒い瞳は湖の様に綺麗に見えてこれはこれで好きな奴もいるだろう。


それに塔子は本物の社長令嬢だ。


本物の美人な令嬢…そう考えたら、厳しい条件であっても悪いとは言いきれない。


『可憐で大人びて綺麗な令嬢』の塔子。


つきあう条件が可笑しくても何か問題があるのか?


そう言われれば微妙だ。


嫌なら付き合わなければ良いだけだ。


例えば『指や腕を切断したけど、付き合ってくれなかった』


これなら悪人決定だ。


だけど、噂の範囲だが、塔子は『それをしさえすれば真面目に付き合う気がある』という話だ。


一部では都市伝説の様に『腕一本捨てる気になれば付き合える美少女』そんな感じの噂になっていた。


本当に怖い話だ。


だが、塔子本人がそれを公言している。


『それをしなければ、付き合わない』と誰にでも言っている訳だ。


それなのに、ルールを破った告白をするから、大河にボコられる。


これを考えたら『塔子は悪くない』とも取れる。


簡単に言えば『ドSの変態で自分で付き合うルールを決めている。それ以外で付き合わないとまで』と言っているのにルールを守らないのが悪い。


それだけだな。


そもそも『こんなヤバイ事言っている女にルールを破って告白する男が馬鹿』なんだ。


テラスちゃんの情報では


『あの女、凄く変態だよ! 理人の事身動き取れなくして傍に置きたい…こんな事言っていたんだ...内容は流石に言いにくいけど…気持ち悪いよ』


完全にド変態決定だ。


変態だからと言って悪人と言って良いのだろうか?


『幼女好きのロリコン』が居たとしても漫画やAVで我慢しているなら犯罪者じゃない。


『SM好きの変態』も監禁や誘拐をしないで本屋やフーゾクで我慢しているなら犯罪じゃない。


つまり、北条塔子は『変態』であって悪い奴では無い可能性が高い。


※トーコと塔子が同一人物と理人は解っていません。


大体塔子が変態だからと言うならこのクラスの男子には同じ位の変態は沢山いる。


少なくとも、此方の世界に来てからは『ヒーラーを呼びに行った』『平城さんを連れ出してくれた』りして俺に対してプラスの事しかしていない。


どうした物か…なかなか結論が出ないな。


それに彼奴、偶に良い笑顔で笑うんだ。


あの破綻した性格からして、見間違いに違いないけどな。



『まだ考えているの?』


『まぁね…ただ変態だからって『能力』を取り上げて良いのかなと思って』


『僕から見たら『気が狂っていて危ない女』だけどね…どうして良いか解らないなら、取り敢えず見て見ればどう?』


『『神の借証書』は確かに何回でも使えるから、試しに使ってみればなにか解かるかも知れない』


『そういう事だよ…取りあえず見て見よう!』


意を決して、俺は塔子を呼び出した。


「どうしたの?理人、私を呼び出すなんて!聖女パーティが上手く行きそうだからお礼でもしてくれるの?」


満面の笑みで、上目遣いで俺を見つめてくる。


男って馬鹿だよな…塔子の破綻した性格を知らなければ、この笑顔に騙される。


俺は塔子に酷いことはされていない。


笑顔で見つめられると…凄く罪悪感がある。


今回はお試しだ、様子見だ…そう自分に言い聞かせた。


『神の借用書、請求バージョン!』


唱えた瞬間、時間が止まり、塔子と俺のステータス画面が現れた。


此処からは欲しい物を俺に持ってくればその能力が貰える。


欲しい物を『掴んでも』俺の方に持って来なければ移動はされない。



北条 塔子

LV 4

HP 3400

MP 7200

ジョブ 聖女 異世界人

スキル:翻訳.アイテム収納、回復術レベル22(スキルは回復術に含む) 結界術レベル9(結界スキル、魔法は結界術に含む)


試しに移動してみたが。



『聖女』を取り上げた→ NG、そこ迄の恩恵を彼女は神から貰っていない。


『回復術』を取り上げた→NG、そこ迄の恩恵を彼女は神から貰っていない。


『結界術』を取り上げた→NG、そこ迄の恩恵を彼女は神から貰っていない。


※彼女は『神を信じぬ者』であり、神に縋った事は1度しかない。



神代理人

LV 5

HP 8800

MP 1600

ジョブ:英雄 剣聖 日本人

スキル:翻訳.アイテム収納、術(光1 雷1)剣術 防御術 草薙の剣召喚 魅了

※非表示の物あり



『※彼女は『神を信じぬ者』であり、神に縋った事は1度しかない』


あの日本で神や仏に願うことなく生きてきた。


そういう事なのか?


これじゃ何も奪う事が出来なくて当然だ。


テラスちゃんが心配そうに、覗いてきた。


『嘘、この子凄すぎるよ!『神に殆ど祈った事が無い』なんて!そんな存在僕は初めて見たよ!』


『そんな事があり得るのですか』


『無神論者に近い…だけど『神からそこ迄の利益を貰っていない』が気になるわ。普通の『神の借用書』に切り替えてくれる』


『解りました! 神の借用書』


《北条 塔子への神の借りの精算を始める》


『精子と卵子が結合』し五体満足に産まれた。


『理人』の命を助けて欲しいと神に祈り叶えた。


神への借りは、この2点しか無い。


北条塔子は既に身も心も100パーセントのうち90パーセントを理人に捧げている。


《強制的に徴収》


最後の10パーセントを以上2つの利益で充当するものとする


『理人不味いよ!一旦破棄してから対策を考えよう!このままじゃ一生塔子が理人から離れられなくなるよ』


『破棄ってどうすれば良いのですかぁ!』


対価として『身と心の最後の残り10パーセントの充当完了』


『よって、その心の所有権は理人の物になる。』


『あっあっー-っ!駄目だ!間に合わなかったよ!理人ご愁傷様、もうこの危ない変態から生涯逃げられないよ』


『…』


『どうしたのよ!』


塔子は『神を信じぬ者』、無神論者に近い存在だ。


そんな塔子が何故か一度だけ祈っている。


『テラスちゃん これ→『理人』の命を助けて欲しいと神に祈り叶えた。』


『なにこれ?』


塔子の人生で一度だけ神に祈った事が俺の事?


身に覚えが無い。


『身に覚えがありません』


『これは後を引くと不味いね、この能力は理人には無い…少し時間停止を僕の権限で延ばして、塔子の記憶を覗いてみるよ…本来はこれはしてはいけない事だけど…特別だよ!』


暫く、テラスちゃんは塔子を見つめていた。


『そう、そういう事ね…』


なにか解ったようだ。


『何か解かりましたか?』


『本来は神でも余り人の過去は覗いちゃいけないんだけど…この子小さい時に貴方に助けられて凄く感謝しているよ...異常な位にね。 普通は年取ったおしどり夫婦ですら70なのに元から90、そこ迄理人が好きなんだよ…心当たりないかな?』


心当たりは…ないな。


俺に彼女が居たことは無いし、そんな愛された記憶は無い。


寧ろ美少女なんていうなら虐められた記憶しか…ないな。


トーコ? 塔子?


もしかしたら、トーコなのか?


トーコ以外にそこまで感謝されるような事はしていないよな。


トーコ?…よく見ると似ているような気がする。


名前だって、よく考えたらほぼ同じじゃないか?


『トーコ?』


『その記憶であっているよ…理人ごめんね』


『何でテラスちゃんが謝るの?』


『いやぁ~ テラスちゃんはこれでも神様だから、恋の邪魔は幾ら『薄情なムカつく死んでも良い子』でも出来ないわ…頑張ってね(汗)』


『テラスちゃん?』


『あはははっよかったじゃないか!『聖女』も手に入ったんだから!これで安心だね!』


『テラスちゃん! 俺、四肢切断とか怖いですよ』


『うん、愛されているから大丈夫だよ! ボソッ(多分ね)』


まぁ仕方ないな、塔子があのトーコだったのか。


俺の嫌な初恋の思い出だ。


今迄の生涯で祈ったのが『俺の為の1回だけだ』と言うのなら…真摯に向かい合うしかない。


そして時間が動き出した。


◆◆◆

「どうしたの?理人、私を呼び出すなんて!聖女パーティが上手く行きそうだからお礼でもしてくれるの?」


ああっ、顔が真っ赤になる、それと同時に足は少し震えている。


『初恋の思いで』と『虐めや恐怖の思いで』が頭の中でグルグルとダンスを踊っている。


『ありがとう塔子! これだけ伝えたくてね』


それだけ伝えると、俺はその場から走る様に逃げ出した。


「待ってよ!どうしたの? 理人ぉ!なんで逃げるのよ」


後ろから塔子の声が聞こえてきたが、俺はそのまま走り去った。



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