第22話 聖女パーティ
「なんで塔子が、此処にいるんだよ!」
態々塔子が俺達の方にやってきた。
「そうですよ? 貴方は聖女でしょう! 大樹くんや大河くん、もしくは聖人くんの傍に居れば良いじゃないですか? あっち行って下さいにっくり」
「あのさぁ平城! その理屈なら貴方は大魔道でしょう? まぎれも無い5職なんだから、勇者パーティの方に来なくちゃ駄目じゃない?そっくりブーメランになるんじゃない!」
「私は勇者チームには入りませんから関係ありません! 私がどんな酷い目に合いそうになったか、塔子さんも知っているでしょう?」
「普通に知らないわよ(笑)」
皆、薄々は知っている。
だが、王様が勇者の醜聞を広めたく無いから箝口令を敷いた。
だから表向きは『誰も知らない』事になっている。
「おい、本当は理由を知っているんだろう? そういうのは止めてくれないか」
「まぁ理人が言うならそうするわ」
何がなんだかわからないな。
何を企んでいるんだ。
「私は、理人くんと一緒にお城を出ると意思表示しているのよ!だから塔子ちゃんとは違うわよ!」
平城さんがかなり怒っているのが解る。
気のせいか後ろに般若が見える。
「と言う事は、此の世界を、同級生の皆を見捨てるという事かな?」
「違うわ!」
「だけど、五職の貴方が戦わないとこの国不味いんじゃない?」
「それは…」
塔子は俺が知らないと思っているのか?
「塔子、言っておくが全員一緒に戦うのでなく、パーティを組んで出ていくんだぞ! つまりはバラバラだ! だから、平城さんが大樹達のパーティに居ても助かるのは勇者パーティだけだ。つまり、平城さんが居なくて困るのは勇者パーティだけの事じゃないか!」
「それはそうね! だけどそれじゃ理人は大樹達なら死んでも良いと言うの?」
確かに大樹達の戦力は低下するな。
だが、俺は大樹達等…どうでも良い。
「別にどうでも良いな! 自業自得だろう? 平城さんや俺にした事を考えたら、寧ろなんで助けて貰えると思うのか解らない! 大樹はレイプ未遂で、大河は傷害、もしくは殺人未遂だぞ!平城さんは運が良かったに過ぎないし、俺は運よく武道をしていた。ひとつ天秤が狂えば地獄だぞ、そんな奴助けたいと思うのか?」
「確かに、私も思わないわね! だけど、此の世界の人達はどうなるの! 勇者パーティが勝たないと不味い事になるんじゃない! 見殺しにする訳?」
「別に思った程困らないだろう? 聞いた話では五職が死んだら数年間は5職が生れないだけで、おおよそ5年位で次の世代が生まれる。思った程酷い事にはならないと思うぞ」
「それでも沢山の人が困ると思うわ。数千もしかしたら数万の人間が死ぬかも知れない」
「俺は死んでも良いと思う! 自分達の世界を守る為でしょう。本来は俺達で無く自分達が戦うべきだ。本当の所は解らないけど、幾ら勇者が強くても騎士1万名には俺は敵わないと思う!
なら各国から軍勢を集めて、総力戦を挑めば、本当は俺達なんて必要ない筈だ」
地球では何時も何処かで戦争が起きている。
そして沢山の人が死んでいる。
だが異世界人なんて呼ばないで自分達で解決している。
話しを挿げ替えてはいけない。
少なくとも、関係ない俺達に代わりに戦わせるのは可笑しい。
「理人…貴方凄い事言うわね」
「まぁな、俺は偶然にも女神から何も貰っていない、あの性格からしたら『翻訳』が手に入ったのは多分女神ではなく何か他の要素の筈だ!俺は神社の子だから嫌われて何も貰えずに此処に来た。この世界の女神が何もくれなかったんだ、俺がこの世界の事を考えてやる必要は無いだろう!」
俺はこの世界の女神から何も貰っていない。
もし、何かの要因で翻訳が手に入らなければ言葉も通じなかった。
そしてテラスちゃんに会えなければ…恐らくは平城さんは酷い目に合い。
俺は大河に殺されていた。
あんなクズに力を与え、俺に何も寄こさなかったクズ女神の国等、知ったこっちゃない。
「確かに理人はそうかもね? 平城は? 五職を私と同じで貰ったじゃない?理人の理屈なら戦う義務がある事になるんじゃないの」
「そうかもな!だが騙された挙句誘拐される様にこの世界に送り込まれたんだぞ!そんなの踏み倒せばよいさ!誘拐女神のいう事なんか聞く必要は無い!少なくとも俺は異世界に来るまで『戦う』なんて話は聞いて無いな!それ所か『そのまま何も与えずに異世界に送る事にしたわ…神臭いお前が悪いのよ..うふふっ地獄の様な生活が目に映るわ、無様に惨めに、皆から馬鹿にされて死んでいきなさい』と呪いの言葉みたいなこと言われたぞ!」
平城さんの目が少し泳いだ気がする。
どうした?
「私達は酷い事なんて言われてないわ…それにきちんと説明も受けたわ!平城もそんな呪いの言葉言われた?」
「言われてない」
「そうか?魔王と戦って欲しいとか言われたのか?」
「言われたわ」
「聞いたよ」
あれっ?思い出してみたら緑川は『こちらの国の事情は女神様に聞きました。』
そんな事を言っていた気がする。
なんだ『俺以外は納得してきているんだ』これなら、俺が他の人間なんて、気にする必要は無いな。
しかも、この国の王女は確か『勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もします。そして、生活の保障も勿論しますご安心下さい!』と言っていた。
思い出せば思い出す程腹が立つ。
平城さんが俺と出ていくと言わなければ…あの王女さらっと『俺だけ約束を反故にしたぞ』
結局は、俺以外は納得してこの国に来て『約束は守られている』
なら、俺が気にする必要は無いし、自己責任だ。
「それなら、この世界から、俺への慰謝料代わりに平城さんは貰っていく!それで良いんじゃないか? 女神もこの国も俺には碌な事してないからな!」
「だけど揉めているのよね?」
「まぁな」
「私から提案があるんだけど聞く気ある?」
「塔子には借りもあるし、話位は聞いてやるよ!」
どうせ、塔子の事だから碌な事言わないだろうが。
「貴方達が『聖女パーティ』つまり、この私のパーティに入るのよ」
「俺と平城さんが?」
「私が塔子さんのパーティに入るの?」
「そうよ! 私は聖女よ! 私のいう事にはかなりこの国も譲歩する筈だわ!」
塔子の話はこうだ。
勇者大樹の平城さんにたいしてした事は『同じ女として許せないから一緒に戦いたくない』国に伝える。
だから、自分と被害者の平城さんで『聖女パーティ』を作る事にした。
女二人じゃ不便だから、そこに俺を誘った。
こんな筋書きを考えているようだ。
「案外うまくいくかもな? だけど塔子はそれで良いのか?あいつ等友達じゃないのか?」
「変な誤解しないで…ただの知り合いみたいな関係だからね」
「そうか、それで、平城さん、どうしようか?」
「確かにそれなら通るかも知れないね」
平城さんは俯きながら考えている。
「だけど、これを通すには理人が聖人を倒す必要があるわ! 理人が五職以上に強ければこの話は通りやすくなるわ。勝算はあるの?」
「どうだろう」
今の俺が負ける、なんて考えられない。
だが、まだ塔子は信用できない。
「兎も角頑張って」
「解かったよ」
こうして俺たちは塔子の聖女パーティに入る事が半分決まった。
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