第21話 本当のクズは大河じゃない。



俺は平城さんと一緒にリチャードの所にお見舞いに行った。


見た感じリチャードは元気そうに見えた…だが違うのを俺は知っている。


「どうした?お見舞いに来てくれたのか?理人にえーと確か大魔道の…」


「平城です!」


「そうそう、平城さんだ! 悪い名前を覚えるのが苦手でな」


見た感じは何も問題が無さそうに見える。


だが、さっきリチャードを治療していたヒーラーの人の話では、もう騎士として生きていく事は出来ないそうだ。


「リチャード…」


「俺の事を聞いたんだな!お前がそんな顔をする必要は無いだろう? むしろ助けてくれたんだ!礼を言う。ありがとうな!」


こんな時ですら笑顔だ。


これだけでどれだけリチャードが強いか解る。


「お礼なんて...それでリチャードさん達はこれからどうするんですか?」


「国からしっかりと退役金も貰えるからな田舎に帰って畑でも耕すかな!」


騎士じゃ無くなる…そう言う事だ。


「それで本当に良いんですか?」


「良いよな!」


「まぁな」


「俺もそれで良い」


リチャードの横のベッドで寝ていた部下の騎士たちも納得している様だった。


「正直言えば、これで良かった。そう思っている!」


リチャード達の話によると『騎士爵』の爵位はそのままだし、仕事中の怪我が原因だから、退役後は年金が貰えるそうだ。


田舎に帰れば小さいけど領地があり騎士様という扱い…小さい領地の領主様でもあるとの事だ。


「「「「まぁ、領主と言っても、貧乏領主だけどな」」」」


リチャード達はニカッと歯を見せ笑っていた。


そして俺に真剣な顔で言ってきた。


「これで死なないで済むんだ!むしろありがたい!」と。


なんでもリチャード達騎士は、将来的に勇者大樹達と共に魔族と戦う事が決まっていたそうだ。


魔王の城までの護衛が主な任務で『勇者達を守り、最悪盾になり死んでいく』そういう運命だった。


だが、大河にやられ、大怪我をし、ヒーラーによっても治療できない大怪我をしたせいで、その任務から外れた。


「少し体が不自由になったが、『死から免れた』のだから悪い事ばかりじゃないさぁ!なぁ」


「「「ああっ」」」


そう言っていたが、自分達の代わりに、その死の任務に就く者が居る。


そう考えると素直に喜んでばかりも居られない。


そう言って目を逸らした。



◆◆◆


クラスの仲間モドキとは形上は仲直りをした。


簡単に言うなら大人の対応だ。


態々、本音を語り、沢山の人間を敵に回す必要は無い。


だが俺の中では此奴らは『どうでも良い』そう思っているだけだ。


テラスちゃんは好きにすれば良いと前から言っていた。


よく考えた末、俺が考えた結論は『助けも求めないし、助けもしない』そういう相手として考える事に決めた。


『元から友達じゃ無かった』


そう思えば悔しくない。


俺は幼い頃に『虐められた』過去がある。


その時に思ったんだ。


『虐めの主犯以上にその周りの奴が許せない』とな。


『大河』以上に『緑川や工藤等のクラスメイトの方が悪人』今の俺はそう考える。


親父や爺さんからは『人とは弱い者なのだよ、許す心も必要だ』と良く言われた。


だが、この部分だけはどうしても譲れない。


今回の事件で言うなら『悪い奴は大河』これは間違いない。


だが、大河は恐らく自分は悪人『それが解かった上で行っている』だけ他の奴らより良い奴だと俺は思う。


戦い勝ったから良いが、もし、あそこで俺が負けて居たらどうなっていたか。


恐らく、平城さんは暴力を振るわれた可能性が高い。


そしてそこに彼奴ら同級生は加わった筈だ。


それなのに俺が勝った途端に彼奴らは手のひらを返した。


「俺は本当はこんな事はしたく無かったんだ、許してくれ!」


「ごめんね、大河くんが怖かったから逆らえなかったの」


「大河の奴許せ―ねな…クズだよ」


こんな事を言い出す。


これは俺が勝ったからこう言っているだけだ。


もし、俺が負けていたら…


「剣聖の大河に逆らうから悪ぃーんだよ!」


「大河くんに逆らったらから、こんな目にあうんだよね馬鹿じゃ無いの!」


「負け犬!平城は大河たちの後に俺達も使わせてもらうわ」


こうなっていた可能性すらある。


平城さんが襲われかけたのは『こいつ等』も知っている。


あの時の悲鳴は俺以外でも聞いた奴は沢山居た筈だ。


だが誰もあの場には来なかった。


こんな奴ら絶対に信用なんて出来ない。


これはあくまでも俺の予想だ…真実は解らない。


だが、俺の過去の経験が此奴らはきっとそうする。


そう思わせる。



◆◆◆


あれは小学校の時だった。


『隣のクラスの女の子が虐められている』そう聞いて助けに入った事がある。


虐めていたのはトーコと呼ばれていた綺麗な子だった。


凄く可愛い子のせいか何時も取り巻きが居た。


本性は悪魔だが、俺からしたらその子はまるで天使に見えた。


今では顔すら思い出せないが『俺の初恋はそのトーコ』だったのかも知れない。


自分にとって天使の様に思っていた子が、人を平気で傷つける人間だった。


その事を知った俺はその子に改心して貰いたかった。


『本当はそんな子じゃない』そう思いたかったのかも知れない。


だから、彼女に俺はこう言ったんだ。


「いい加減虐めはやめようよ」


そうしたら、彼女は「あらっ、貴方がだったら代わりになれば? そうしたら止めてあげるわ」そう返してよこした。


「だったら俺が身代わりになるよ」


俺は正義感からそう答えた。


そこからの毎日は地獄だった。


友達から教師、挙句は知らない大人までもが全部俺の敵になった。


親友と呼んでいた奴は俺の机に彫刻刀で死ねと彫ってきたし。


俺の事が好きだと言っていた女の子は、俺に頭から牛乳を掛けてきた。


不良で暴走族だけど、優しかった健兄ちゃんは俺を仲間と攫ってゴミ袋に突っ込んで蹴りまくった。


名前も知らない奴が態々俺のクラスにまできて教科書を破っていった。


他にも沢山ある。


生きているのが辛くなるような毎日だった。


何度校舎の屋上に立って死のうと思ったか解らない。


多分僅かに『生きたい』『死にたい』の天秤がずれたら飛び降りていたと思う。


最後には小学校に行くのが嫌で海の近くの倉庫街で暇を潰す様になった。


近くで暇を潰していると近所の人に見つかる。


此処なら人気が少ないから見つからないからな。


だが、その日は違った。


「た、助けて…」


「馬鹿か、助ける訳ないだろうが…」


トーコの声が聞こえてきた。


トーコが大人の男に押さえつけられて脅されていた。


トーコが死ねばもう虐められないで済む。


一瞬、そんな事が頭に浮かんだ。


だが、それと同時に『あの天使の様な可愛らしい笑顔』も浮かんだ。


勝手に体が動いていた。


口が勝手に言葉を吐いた。


「助けるよ」


俺は近くにあった棒切れを掴み中に入った。


すぐさま男を殴るとそのままトーコの手を掴んで走り出した。


子供じゃ大人に敵わない。


だから、大きな声を出して助けを求めながら走った。


「誰かーーっだれか助けてーーっ」


「誰かぁぁぁぁ」


二人で叫びながら逃げてもなかなか他の大人に出くわさない。


ようやく、遠くに警備員を見つけた。だが、今の場所は袋小路で前には誘拐犯が居て、手にはナイフを持っていた。しかも警備員は俺達に気が付いていない。


腹を括るしかない。


「僕に任せて」


本当に怖いけどそうトーコに言った。


振るえる声で「早く、逃げて…」と彼女の背を見送った。


良かった、どうやら彼女は警備員の所迄、無事に辿り着いた。


そう思った瞬間、お腹に凄い激痛が走った。


「いやぁぁぁぁーーーーっ!助けて、理人を助けてーーっ神様」


泣いているトーコの声を聞きながら俺は腹の痛みを感じながら、意識を手放した。


なんだ『優しい顔』も出来るんじゃないか…こんな状況なのに馬鹿な事を考えながら…意識を失った。


目を覚ますと病院で目の前に母さんの顔があった。


「母さん…」


「理人、目が覚めたのね…良かった!本当によかったわ!」


母さんが目を腫らして泣いていた。


トーコは泣きながら『理人を助けてー――っ』そう叫んで、ずうっと傍に居て、俺の手術が成功して助かった後は『ごめんなさい』を繰り返して泣いていたらしい。


『解かったのならそれで良い』そう言ってあげたかった。


だけど、トーコは今回の件が元で転校して行き、もう二度と会えなかった。


俺の初恋は『好きな子に虐められて、守ってあげたのに転校された』そんな何処かの漫画みたいな終わり方であっさり終わった。


2か月くらいで治療が終わり、病院を退院して小学校に通った。


「ごめんな、トーコが怖くてやったんだ!こんな事したくなかった」


「怖いから仕方なくやったの…ごめんね」


「悪気は無かったんだ…本当だよ」


気持ち悪い…


少なくともトーコは謝った。


こいつ等…なに?


脅されてやった? 怖かったからやった? 


此処までしておいてそれで済ますのか?


俺が死んでもそれで済ますのか?


解ってしまった。


トーコより此奴らの方がクズだ。


助けるんじゃなかったよ…俺が助けてあげたのに、お前、俺の机に虫の死骸いれていたよな?しかも殴られ蹲った俺に蹴り迄いれていたよな?あのまま放って置けば良かった。


お前が犬に吠えられて泣いていた時に、俺が助けてあげて噛まれた事があったよな。


花瓶を壊してオバサンに怒られていた時に、一緒に謝ってあげたよな。


なのに…誰も此処迄俺にして、心から謝りもしないんだ。


その後、事情をしった両親は爺の元に俺を預けた。


◆◆◆


この時から俺は思う様になったんだ。


本当にズルくて汚い奴は…強い奴について虎の威を借りるクズだとな。


だからこそ、大河よりもクラスの人間がクズに思えてくるんだ。


この考えは正しいのか正しくないのか解らない。


だが、少なくとも大河の脅しに負ける奴に背中は預けられないじ、信用は出来ない!それだけは確かだ。





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