第18話 最終奥儀『霊剣呪振乃太刀』



平城さんを人質に取られた以上は立ち去るという選択は無い。


『戦うしかない』


幸い、押さえているのが工藤だ。


大樹や聖人では無い分増しだと言える。


幾らこいつ等の仲間になったからと言っても酷い事はしないだろうが、もう『仲間』とは考えない方が良いだろうな。


『無性に腹が立った』


此奴ら元俺の同級生は『人を殺しかねない危ない人間の味方をした』


どんな理由があるのか、事情までは知らない。


甘い汁でも約束されたのか、脅されたのか…


『人が怪我をして死に掛けている』その状態で『殺す側の人間の味方に付いた』


その意味が解らない訳ないだろう。


もう此奴らは仲間じゃない。


岬ちゃんは風紀委員で厳しい性格だが優しかった。


工藤は正義感のある男だった。


相沢さんはクラス委員で何時も皆の事を考えていた。


皆は本当に変わってしまったのか…


まだ全員が敵だとは思いたくない。


「誰か、頼むからヒーラーを呼んできてくれないか? 大河もそれ位良いだろう? 俺はお前との試合は受ける…約束したぞ」


「あー馬鹿じゃねーの? これは実戦だ『お前は仲間が死に掛けて、恋人が人質に取られたところからスタート』そういう話だ」


「誰か、ヒーラーを呼んでくれ」


平城さんはヒーラーを呼びに行こうとするが、工藤に押さえられたうえに他の数人の同級生に囲まれていた。


『テラスちゃん!』


心で祈ってみた…


『僕に期待しても無駄だよ!騎士達は気の毒だけど、僕の世界の人間じゃないからね!』


駄目だ!


騎士たちはこの国の存在。


テラスちゃんは守らない。


「そうね、人殺しの仲間になりたく無いから、私が行ってくるわ」


嘘だろう…なんで此奴が…


「塔子…」


一番の敵だと思っていた塔子が、動いてくれるのか?


「なに驚いた顔しているの? 助けて欲しいんでしょう? 一生感謝しなさいね」


そういうと塔子は踵を返して歩き出した。


「塔子、手前ぇ!なに勝手な事しようとしているんだ」


「あんた馬鹿なの? あんたは剣聖、大樹は勇者、こんな雑魚は勝って当たり前なのよ! この状態で勝ってどうなる訳? 『剣聖大河』は『無能相手に人質をとって周りの人間を味方につけなければ勝てませんでした』そう思われるわよ! 王様や他の貴族に馬鹿にされるわ!」


「そうか、そうだな」


「工藤、あんた達、平城を離しな! もう忠誠は解かったわ、ハチ公13号…ほら、お手!」


「塔子…貴様」


「あらっ?大河の手下になったのなら、私の手下になったのも同じだわね? 違うの?工藤? いや忠犬ハチ公13号!大河、忠犬ハチ公13号が私に逆らうんだけど」


「工藤ぷっ、あははははっ!忠犬野郎、塔子はお前と違って仲間で人間だ!言う事聞かないと躾けるぞ、離してやれ」


「…解った」


同級生はもう手駒に成り下がった…そう言う事だ。


だが、なんでだ?


塔子が『助けてくれた』


意味が解らない。


「さぁ、平城!私ときな! ヒーラーを呼びに行くよ!」


「解かったわ」



「わははははっ! これで人質を取られたなんて言い訳はできねーな!このクズ騎士も運が良かったな。塔子のお陰で命が助かるんだぜ。さぁ望みは叶えたんだ逃げるなよ、無能の理人! 死ぬまでやりあおうぜ!」


そう言って大河は騎士達を蹴飛ばした。


「ああっ俺が死ぬかお前が命乞いするまでやってやるよ…場所を移すぞ」


俺はそう言うと歩き出した。


とは言え100メートル横に移動しただけだ。


「あーあ、場所まで変えてやらないとならないのか? 雑魚は注文が多くて困るわ『まぁ俺は剣聖』その位譲歩してやるよ!」


「そうか、ありがとよ! それでどうするんだ!」


「何時でも掛かってきな!」


大河が剣を放り投げてきた。


この剣は刃が潰してある。


これで斬れる訳は無い。


此奴、自分は刃がある剣を使うんだろう?


卑怯者だ。


「それで、お前は刃がある剣を使うと? やはり卑怯者だな!そうでもしなければ、お前如きが、リチャードに勝てる訳ないか」


挑発して冷静さを失わせる。


これも兵法だ。


「わはははっ!あんなクズ余裕だったぜ。だがな、この方が『いたぶりがいがある』からそうしただけだ。それに此処は戦場だと考えるなら自分の武器を持たない奴が悪い!」


戦場…大河、俺もお前もそこに立った事は無いだろう。


女神から『ジョブ』『スキル』みたいなおもちゃを貰った奴程度が言って良い言葉じゃない。


「戦場、それで良いんだな!」


俺だって無いが...これを聞いて気が軽くなる。


「まぁな」


『テラスちゃん』から貰った力を使えば簡単に決着はつく。


だが、今回は敢えてそうしない。


リチャード達は自分の力で正面から戦ったのだ。


ならば、俺も今回は与えられた物ではなく、騎士達の様に自分で磨いた技で戦う。


「そら、そらいくぞ…この剣が躱せるか」


躱せる。


確かにリチャードより速いが剣が正直すぎる。


俺が爺ちゃんから教わったのは柳の様に軽やかに躱す剣。


騎士の様に受ける必要は無い、ただ『躱す』だけだ。


多分、此の世界の騎士は受ける事を前提にしているから『躱す』これは俺の方が優れている。


リチャード達は戦いの経験があるから妙なフェイントを掛けてくるから先が読みにくい。


だが、此奴は馬鹿正直だから簡単に読めるし躱せる。


既に5回は躱している。


「風が涼しいな、今日は暑いから丁度良い..えっ?」


「馬鹿じゃねーの余裕こいてよー!俺の攻撃しっかり掠っているじゃねーか!」


嘘だろう…この僅かな間に成長しているのか…これが『剣聖』のジョブの力か?


たった数回躱しただけで、更にスピードが上がり技術が上がって行く。。


化け物…


『ねぇ、ズルいよね? こうなったら僕たちも』


『いやテラスちゃん…此奴は俺の能力だけでやる』


『流石に相手を舐めすぎだよ?危ないよ』


確かにテラスちゃんから貰った力を使えば数秒で片がつく。


だが、どうしても自力で勝ってみたい。


リチャード達が戦った土俵でやってみたい。


そう思ったんだ。


それに爺ちゃんから学んだ剣術が異世界でも通用するのかそれも見てみたい。


俺が習っていたのは剣道じゃない。


剣術だ。


そして、その中には危なすぎて使えない、そんな技もある。


爺ちゃんの剣術は『新当流』の流れをくんでいる。


塚原卜伝の新当流の奥義は『一之太刀』だが、それすら完成形では無い。


そこから先の力、技が欲しくて新当流の一門はうちの神社と関わりを持つ事になった。


新当流が取り入れたのは呪術。


その呪術を取り入れた技を卜伝は完成しきれなかった。


何代か後の弟子が完成した技、それが「霊剣呪振乃太刀」。


これはあてる必要すら無い。


ただ振りだすだけで良い。


それだけで勝利が確定する、剣聖と呼ばれた卜伝の夢の剣。


これこそが日本最強の剣だ。


「ならばこちらからもいく、新当流最終奥義『霊剣呪振乃太刀』」


「何だそれは…」


俺の体が僅かに輝き、風を纏う。


そしてその風が巨大な風となり大河を襲った。


「何だこれは、うわぁぁぁぁぁぁぁぁl―――っ止めろ、止めてくれーっ俺がぁぁぁぁ」


悪いがこの技は繰り出したら、もう俺自身にも止める事は出来ない。


大河にあたった風はそのまま大河を巻き込み城壁にぶつかったが尚も止まらない。


風が止んだ時には、大河の手足はあさっての方を向き、血を吐いて動かなくなっていた。



【※かなり作者の妄想が入っています。私も名前位しか知りませんので、すみませんがこの部分の突っ込みは許して下さい】


確かに、凄まじい技だが…流石にこれは可笑しい!此処まで凄まじい訳は無い。


そんな、俺の困惑をよそにテラスちゃんの『さぁ回収しよう』という明るい声が聞こえてきた。


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