第13話 訓練も悪くない!



目が覚めた。


お腹が痛いな…


何だか頭の後ろに凄く柔らかい感触がある。


ゆっくりと目を開けると…


「えっ平城さん!」


平城さんの顔が近い。


周りを見回すと、木陰で平城さんに膝枕された状態だった。


「あっ、理人くん目が覚めたんだね、良かった~」


平城さん…まさか、ずうっと膝枕をしてくれていたのか。


「平城さん!ありがとう」


お礼を言って起き上がったけど、随分と心配をかけたみたいだな。


平城さんの目は赤く、目尻に涙が溜まっていた。


見が合うとさっきの騎士、リチャードがこちらに近寄ってきた。


そうだ!さっき俺は、リチャードと戦って負けたんだ。


「俺、負けたんですね。ご指導有難うございました」


「ハァ~お前、それ俺に対する嫌味か? 勝ったのはお前で俺の負けだろう? あれが真剣なら肩から腹にかけて斬られていたんだからな」


そんな訳無い。


真剣勝負なら鎧を着ていた。


その状態なら幾らあの技でも鎖骨を折るにとどまる筈だ。


それに対して俺が食らった一撃は吐いて、意識を刈り取られるような威力があった。


恐らくは鎧を着ていても立てなくなっていたろうから、完全に負けだ。


それより、なんで俺もリチャードも無傷なんだ。


「いや、今回の勝負は蹲った方の負けというルールを決めたのですから、完全に俺の負けですよ」


「そうか? お前がそういうなら俺の勝ちだな!いやぁ良かった!100人隊長の俺が初日に負けるわけにはいかないからね」


「100人隊長?」


隊長格…そういう事か?


「そうだ!俺はこれでも『100人隊長』中隊長格なんだぜ!その俺と此処迄やれたんだ。もう無能とは呼ばないし他の隊員にも呼ばせない。俺の見立てでは無能かも知れないが、君は騎士並みの力はある。もし騎士や兵士になりたいなら推薦文位は書いてやるぜ!」


「有難うございます」


思ったより良い人だな。


勝負がついたら恨みっこ無し…まさに騎士の性格その物だな。


そうだ…怪我について聞いてみるか。


「そう言えば、さっき俺は大怪我をした筈ですが、なんで無傷なんですか?」


「ハァ~ そうか、君達の世界にはヒーラーが居ないんだったね。ヒーラーがヒールを掛けてくれたからだよ。もう、どこも怪我してないだろう?」


「はい」


そうか、確かに異世界ならヒーラーが居ても可笑しくない。


回復魔法か…この能力は将来に備えて欲しいな。


◆◆◆


「隊長、駄目ですよ! この勝負は負けです!」


俺がリチャードと話していると部下なのだろうか? 陽気な騎士が間に入ってきた。


「いや、ルール通りなら完全に俺の勝ちじゃ無いか?」


「リチャード隊長、貴方は指導する側で彼は教わる側ですよ?一兵卒もしくは平騎士が相打ちに持ち込んだのですから、どう考えても相手の勝ちでしょう!」


「ああっ煩いな!解った俺の負けで良いよ!本当にしつこいな。何が狙いなんだ!」


なんでこの騎士は俺の勝利に拘るんだろうか?


「認めましたね」


「はいはい『認めた』これで良いか?」


なんだか嫌な予感がする。


「それじゃ理人の勝ちで…決定ですね」


「「「それでは隊長に勝った理人くん!今度は我々と模擬戦をしようか?」」」


三人の騎士から模擬戦を申し込まれた。


この三人はリチャードの部下でキール、ボブ、ルールと言うそうだ。


結局、この流れで三人とも模擬戦をする事になった。


結果はキールさんには勝ったものの、ボブには接戦の末負け。


ルールにはあっさり負けた。


本気でやるなら最後の手札を切れば勝てる可能性はある。


だが、それはジョブやスキルを使うのに等しいから使わない。


俺は爺ちゃんの厳しい練習をこなしていたが、流石に実戦の経験は無い。


平和な日本じゃ剣を持って『人を斬る』なんてことは無い。


実際に戦場や戦いの場に立ったら果たして俺は本当に戦えるのか?


正直解らない。


今は模擬戦で騎士を相手に互角に戦える。


それだけで満足しておくか。


「俺とルールは理人に勝った!と言う事は俺達は理人に負けた隊長より強いって事じゃねーか?」


「ルールは楽勝で勝った!だけど理人は気にしないで良い。ルールは天才だから、凡人の隊長とは違うからな!」


「貴様ら~次の訓練でしごいてやるから覚えておけ!」


案外、さっぱりとした気の良い人達だ。


こんなに気の良い騎士が居るのなら…訓練も悪くない。


◆◆◆


テラスちゃんが帰ってきた。


『あの4人最悪だよ!』


明らかにテラスちゃんは凄く不機嫌な顔をしていた。


『あの4人何か企んでいたんですか! 』


『途中から居なくなったのは大樹が走り込み中に体調が悪くなったから、4人して、そのままさぼったんだよ!』


確かに今の大樹じゃ普通の学生だから走り込みだけでもキツイだろうな。


だが、それならテラスちゃんが不機嫌な意味が解らない。


『それだけじゃ無いんだよな?』


『あいつ等本当に最悪…本当に胸糞悪いよ!』


そこからテラスちゃんから聞いた話は、本当に胸糞が悪くなる話だった。


城を出る時には、勇者パーティとして4人と平城さんは一緒にパーティを組み旅立つ事が決まっている。


城を出た後は、もう4人には誰も干渉が出来ない。


城を出た後、平城さんに酷い事をしても街中じゃ無ければ気づかれることは無い。


散々いたぶって、おもちゃにした後に手足を切断して捨てる。


そういう計画を立てていたらしい。


これでもテラスちゃんは多分言葉を選んで言っているんだと思う。


実際にテラスちゃんは『その方法』も全部直に聞いている筈だからな。


これで俺は3人に関わらない訳にはいかなくなった。


『無視して平城さんと出ていく』そういう選択もあるが大樹は兎も角、後の三人は後で実力をつけ、権力を味方につけて大きな存在になる可能性もある。


此処で決着をつけておくのが得策だな。


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