第3話 無能



話が終わって、すぐに水晶による能力測定の儀式が始まった。


これは異世界から召喚した者たちのスキルやジョブが解り、各種能力を数値化して見る事が出来るらしい。


クラスの皆は我先に並んでいたが、俺は全く期待が持てないから急ぐ必要は無い。


俺はゆっくりと、一番後ろに並んだ。


どうせ何も貰えていないのだから、碌なもんじゃない筈だ。


能力が何も変わって無い事はもう既に解っている。


測定を終えた皆は、はしゃいでいたが、俺は憂鬱で仕方が無い。


「僕は白魔法使いだったよ、白魔法のジョブがあったんだけど?これアタリなのかな?」


「普通じゃないの?私は魔導士だったよ!最初から土魔法と火魔法が使えるみたい」


「いいなぁ、私は魔法使いだって、どう見ても魔導士より格下よね、魔法も火魔法しか無いんだもの」


そうか、てっきり俺は『皆が自分のジョブやスキルは解っている』と思っていたんだけど、何を貰ったのかここに来るまで解らなかったんだな...測定して初めて自分の能力が解るのか。


「気にする事はありませんよ! この世界では魔法使いになるにしても沢山の修行をして初めてなれるのです。最初から魔法のスキルが1つでもあり、魔法使いのジョブでも充分に凄い事ですよ」


「本当ですか? 良かった!」


会話を聞く限り、魔法使いや騎士等が多いみたいだが、それでもハズレではなくこの世界で充分に凄いジョブらしい。


それより良いジョブが恐らく、魔導士とかなのだろう、そう考えると勇者、聖女辺りのジョブが本当の意味で大当たりなのかも知れない。


聞き耳を立てて俺が聞いている限りでは、凄いと思えるようなジョブは今の所『魔導士』位しかでて無さそうだった。


「やった、私、大魔道だってさ、魔法も最初から4つもあるよ..当たりかなこれは」


『大魔道』名前からして凄いジョブの様な気がする。


どうやら魔法を使う、最高のジョブは大魔道なのかも知れない。そう考えると魔導士は少し良いジョブ位だな、本当に凄いジョブはやはり、 勇者、聖女、大魔道、賢者辺りだろう。大魔道のジョブを引いた平城さんを見た時に担当の人が驚いた表情を見せていた。


あくまで、そこからの想像に過ぎないが。


俺は色々考え平城さんに声を掛けた。


「平城さん『大魔道』なんて凄いね。俺は能力測定は、これからなんだけど、どれだけ凄いのか、気になるから参考までに、教えてくれないかな?」


「理人くん良いよ、その代わり理人君の能力測定が終わったら私にも教えてね」



何時見ても平城さんは可愛いな。


背は低いけど、お姫様カットの黒髪が艶々していてカラス髪っていうのかな、凄く綺麗だ。胸は小さいが、着物が凄く似合いそうな古風な美少女だ。


実は俺は平城さんに少し気がある。


だが、こう言う気持ちを持っていても今となっては意味が無い。


スキルもジョブも無い俺は皆と一緒の待遇になるとは思えない。


こんな事なら、もっと前にさっさと、告白位して置くべきだった。


古くから神社に伝わる剣技を爺ちゃんから教わってはいるが、異世界で通用するとは到底思えないな。


「解ったよ」


相手のスキルやジョブを教えて貰うんだ、教えない訳にはいかないな。


「それじゃあ、はい」


平城 綾子

LV 1

HP 180

MP 1800

ジョブ 大魔道 異世界人

スキル:翻訳 アイテム収納 闇魔法レベル1 火魔法レベル1 風魔法レベル1 水魔法レベル1


「比べる人がいないから解らないけど…何だか凄いね」


「うん、何でも五大ジョブらしいよ!だけど、まだ他のジョブ 勇者も聖女も大賢者、聖騎士も出ていないから理人君にもチャンスはあると思うの。理人君は神社の跡取りだったから聖女の男版聖人とかになるんじゃないかな?そうしたら、ううん、これは後で言うね」


賢者じゃなくて大賢者がアタリジョブなのか?


「そうだね」


残念だけど、俺はジョブもスキルも貰っていない。


多分、俺は『無能』みたいな存在の可能性が高い。


役立たずな俺は下手したら城から追い出されるかも知れない。


気がつくと俺は平城さんを見つめていた。


「うん? 私の顔を見てどうしたのかな? もしかして『愛の告白』かな?」


気持ち位は伝えておいた方が良いかもな。


「平城さん…大好きだ。」


それだけ伝えて俺は平城さんに背を向けた。


「ちょっと待ってよ…今の告白だよね…なんで返事待たないで行っちゃうの?冗談とかじゃないよね?『言質とったからね』」


この様子じゃ、平城さんも満更じゃないのかも知れない。


だけど、返事を聞いても恐らくは意味が無い。


ジョブやスキルも無い俺じゃ、きっと俺は君を幸せに出来ないから。



◆◆◆


「これは凄い、勇者のジョブがでたぞ」


検査の担当者の驚いた声が聞こえた。


なんで勇者のジョブが大樹なんだ…


あの女神は無能なのか?


彼奴は正義感なんてなくて、まるで半グレの様な奴だぞ。


聖騎士が大河


大賢者が聖人


聖女が塔子。


あの女神は本当に頭がお花畑なのか?


幾らでも真面な奴がいるのに『最悪の4人』を何故重要な五職に選ぶんだよ。


そしてとうとう俺の番になった。


「なんだ、これはまさか『無能』がいるなんてな」


別の意味で検査の担当者が驚いている。


俺のジョブやスキル、数値は…


理人

LV 1

HP 17

MP 14

ジョブ:無し 日本人

スキル:翻訳


これは余りに酷すぎる。


あの、女神…俺が本当に嫌いなんだな。


少し剣術が出来る位じゃどうにもならない様な気がする


良くライトノベルで『冒険者になる』なんて話もあるが、此処迄酷い状態じゃ…どう考えても、これじゃ無理だろう。


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