第2話 召喚された先で




此処は何処だ、レンガ造りの壁に囲まれて少し暗い。


周りを見回すと、クラスの皆が静かに座って居る。


その前に、中世の騎士の様な恰好をした大柄な人物がいて、その先にはシルバーブロンドにブルーアイの人形の様な容姿の綺麗な美少女と多分王様なのだろう、恰幅の良い王冠を被っている人物が椅子に座っていた。


「最後の一人が目覚めたようです」


騎士がその様に報告をすると、王の前にいた美少女、恐らくは王女であろう存在がこちらの方に歩いてきた。


「ようこそ、勇者の皆さん、私はこの国アレフロードの王女マリンと申します、後ろ座っているのが国王エルド六世です」


やはり此処は異世界なんだな…この瞬間に俺は、今迄の事が夢じゃなかった…そう理解した。


俺がどうした物かと考えていると、担任の緑川先生が一歩前に出た。


この場にいる唯一の大人だ、多分自分が代表して話すつもりなのだろうな。


「こちらの国の事情は女神イシュタスに聞きました。そして我々が戦う必要がある事も。だが私以外の者は人生経験不足な未熟な子供だ。できるだけ安全なマージンで戦わせて欲しい。そして生活の保障と全てが終わった時には元の世界に帰れるようにして欲しい」


緑川先生らしいな。


「勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もしっかりします。そして、生活の保障も勿論しますからご安心下さい。 元の世界に帰れる保証は今の所は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事を約束します」


戦えなければ困るのはこの世界の人間やこの国だ。


召喚して戦わせるのだから生活の保障は当たり前だ。


そして帰る方法は保証してない『研究』するだけ。


何も保証をしていない。


綺麗で美少女であっても王女…まるで政治家みたいに腹が黒いな。


「解りました、それなら私からは何もいう事はありません、ほかのみんなはどうだ? 聞きたい事があったら遠慮なく聞くんだぞ」


同級生が色々な事を聞いていたが…駄目だ。


異世界に召喚されて期待と憧れが強いせいか誰も正常じゃない。


誰一人『条件』を良くしようとしている人間は居ない。


話の内容から考えると、どうやらここは魔法と剣の世界、俺の世界で言うゲームの様な世界だった。


俺はもう『詰んだ』みたいだ。


そんな世界でジョブやスキルも無ければ生きてなんていけないだろう。


多少は爺ちゃんに剣術を学び鍛えて貰ったが…通用するとは思えない。




工藤が核心について質問していた。


「僕たちはただの学生です、戦った事も無いし、戦い方も知りません、確かにジョブとスキルは女神様に貰いましたが本当に戦えるのでしょうか?」


俺達は誰も戦争なんて経験してないからな。


「大丈夫ですよ!ジョブとスキルもそうですが召喚された方々は召喚された時点で体力や魔力も考えられない位強くなっています、しかも鍛えれば鍛えるほど強くなります。この中で才能のある方は恐らく1週間も掛からず、騎士よりも強くなると思いますよ」


俺にはそれが無い。


恐らく、俺はこの世界では生きていけないな。


この城から出て行ってから、俺はどの位生きられるのか…


何故、皆が今の状況を喜んでいるのか、俺には理解できない。


日本での平和な毎日の方が遥かに尊い様な気がする。


もし、『来ない』という選択が出来たなら、俺はきっと強いジョブやスキルを貰ってもこんな所へ来ない。


自分が冷遇されたから思うわけでは無いが…


『平和に過ごせる毎日』『ジョブやスキルがあるが戦う日常』


どちらの方が良いか考えたら間違いなく『平和に過ごせる毎日』だ。


そんな貴重な物との交換…俺にはマイナスにしか思えない。


たとえジョブやスキルが貰えてもな…


「それなら安心です...有難うございました」


工藤、よく考えて見ろよ…今の話の何処に安心がある?


『騎士』じゃ勝てないからお前達が呼ばれたんじゃないのか?


どの位、皆が強いのか解らないが、これ程の数の召喚者じゃないと戦えないのなら…恐らくかなり過激な戦いになるんじゃないか?


『全員が死なない』そんな未来は無い気がする。


俺にはジョブやスキルが無い、だからきっと『追い出される』交渉なんて出来ないし、必要すら無いかも知れない。


今は黙って様子を見るしかないな。


俺には、ジョブもスキルも無い。


恐らくあの様子じゃ筋肉の強化も魔力もきっと貰っていない筈だ。


あの糞女神の言う通り無様に死ぬ未来しか俺には無いのかも知れない。


多分、俺はこの世界では一般人以下だ。


終わりだな。


一通り質問が終わった。


「もう、聞きたい事はありませんか? それならこれから 能力測定をさせて頂きます。 測定といってもただ宝玉に触れて貰うだけだから安心してください!測定が終わったあとは歓迎の宴も用意させて頂いております、その後は部屋に案内しますのでゆっくりとくつろいで下さい」


俺は静かに手をあげた。


何時までも黙っていても仕方が無い。


「もし、ジョブもスキルも無かったら…どうなるのでしょうか?」


「異世界人で、そんな例はありませんでした、この世界の人間でも不遇職はありますが、ジョブ無しは滅多に存在しません…不安かも知れませんが、安心して下さい!」


「そうですか…」


俺は確実に無い…


だから、俺は測定しても意味が無い。


自分のスキルやジョブが無いのは確定だ。


だが他の人間との差を知る必要はあるから受けない訳にはいかないな。


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