旅路の果て
令狐冲三
第1話
噴水のほとりに老人は倒れていた。
居合わせた数人の村人が、枯木のような身体をかついで、住居へ運び込んだ。
とっくに陽は翳り、人々の影は延々と細長く伸びている。
狭い村のことで、老人の身に起こった不幸はたちまち周囲に伝播した。
老人が村のために果たしてきた役割をよく知る有力者たちは、こぞって枕辺へ駆けつけた。
むろん、老人の死は疑いない。
誰もが皆、我こそ老人の遺志を継ぐ者との強い自負を抱いている。
だが、老人はまだ生きていた。
外界からの刺激に反応することはないが、呼吸するごとに微かに動く鼻腔がその証である。
老人を住居へ運び込んだ者たちはみな帰ってしまい、褥を囲むのは、村にそれなりの影響力のある地位の高い者ばかりであった。
(わしは噴水のそばで思索に耽っておったのだ)と、老人は思い出した。
そして、固く目を瞑り、懸命に精神統一を図っていたところで、誰かが気絶しているものと勘違いして家まで運び込んだのだろうと考えた。
拒もうと思えば容易に拒み得たのだが、老人はそうしなかった。
村人たちの行為が嬉しかったからである。
運んできてくれた者らがすでに去ってしまったと知った老人は落胆したが、しばらくするとその気持ちからも解放され、また噴水のほとりで考え続けていた命題に直面する他はなくなった。
(果たして、これで良かったのか?)と。
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