七、何処の姫(六)
用事を済ませ、燿と空鴉は宝劉たちと合流する。
「どう? うまくいったかしら?」
「ええ」
空鴉が答える。
「兄さんが交渉したんですから、もちろんです」
「そう。良かったわ」
宝劉も、さらっと流せるくらいには、空鴉の兄さん自慢に慣れている。
長くなってきた陽が傾く中、公軍と宝劉たちは街道を進むのだった。
夜になり、一行が宿へ着くと、秀誠が声をかけてきた。
「殿下、敵は今まで、夜を狙って襲撃してくるとうかがいました。護衛のために、公軍を部屋の内外へ配置なさってはいかがでしょう?」
「そうね……」
宝劉は考え込む。
「人数もおりますし、交代制で警護に当たる事も可能でございます。安心してお眠りになれるかと」
秀誠はたたみかけてくる。
「うーん、でもいいわ」
宝劉は断った。
「多分、今いる公軍全員より、蓮華たちの方が強いもの」
「……随分、彼等を信用なさっているのですね」
「当たり前じゃない、仲間だもの」
「左様でございますか……では、軍は宿の外を囲ませておきます」
「うん、よろしく頼むわ」
こうして公軍を退けた宝劉は、彩香と共に部屋へ戻り、布団に横に寝転んだ。
「なんか疲れたわね」
「王都に近くなったからだと思いますわ」
「そう?」
「ええ。旅というのは、目的地に近くなると、一気に疲れを感じてくるものですわ」
「それもそうね」
灯の中で言葉を交わしているうちに、眠くなってくる。
「明日か、明後日には……王都に着くかしら」
「その予定ですわ」
「そう……そろそろ、旅も終わりね……」
主人が眠った事を確認し、彩香は灯りを吹き消す。襖の向こうで月光が、静かに夜を照らしていた。
数刻後、眠りに落ちた街中を、三つの影が走っていた。音を立てずに宝劉のいる宿へ忍び込み、縁側を走る。ゆっくりと襖を開けると、王女の眠るその部屋に、入り込んだ。
「何をしている!」
声が上がった。
それと同時に、どこからか公軍が現れた。わらわらと部屋に入り込み、侵入者を囲む。
「殿下をお守りしろ!」
号令と共に、公軍は侵入者たちに斬りかかる。
「何の騒ぎ?」
宝劉と彩香が、音を聞いて目を覚ます。侵入者はそれを見ると、慌てて部屋から出て行った。
「何があったか、説明してくれる?」
宝劉が声をかけると、部屋に居た秀誠と晃誠、公軍たちは頭を下げた。
「はい。敵が忍び込んだようでしたので、追い払いました」
秀誠が答える。
「この旅の道中、殿下を狙っていた者たちかと。取り逃がしてしまい、申し訳ございませんでした」
「あら、そう」
宝劉は眠たい眼をこする。
「私たちを襲っていた敵が、また来たって事ね?」
「はい。その通りでございます」
秀誠は肯定した。
「しかしこれで、誠家が殿下を狙っていた敵とは関係がないと、証明されたかと存じます。私たちが、奴等を追い払いましたから」
「そうかもね……」
曖昧な返事をし、宝劉は外に呼びかける。
「入って来て!」
襖が開き、覆面をした三人組が入って来た。
「な、なぜ……」
秀誠が目を見開く。
「さっき、敵が忍び込んだって言ってたわよね」
宝劉は三人に、覆面を取るように言う。
「でも、どうして敵だって思ったのかしらね?」
覆面を取ると、舜䋝、燿、空鴉の三人の顔が現れた。
「入ってきたのは、覆面をした蓮華だったのよ。しかも、武器は何一つ持っていないわ」
三人は、覆面をして部屋に入ってきただけだ。なぜそれを敵だと思ったのか。
「しかも、公軍は宿の外に待機させておくって言ってたわよね。それにしては、来るのが速かったんじゃない? というか、速すぎだわ」
宝劉はたたみかける。
「あなたは、私が襲撃されることを知っていたのよね? だって、自分が仕組んだんだから」
「し、しかし、証拠は何も……」
「証拠は難しいかもしれないけど、証人ならいるわ」
秀誠は、敵として付近の山にいた盗賊たちを使おうとしたが、宝劉は燿と空鴉を使い、その山賊たちを味方にした。
「彼等は現金だから、金を多く出した方についたわ。観念する事ね」
「……」
その場に立ちすくむ秀誠を、舜䋝が縄で縛りあげる。
「刑部が来るまで、牢で大人しくしていなさいな」
騒ぎが収まった宿の外で、月光が白く世界を照らしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます